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第21話『女を磨くと』

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「ほらね、に力がこもってたでしょ。なかなかやるわねぇ」
 リサは感心しきりだった。
 パティはおっかなびっくり前菜を口に運んだ。
「おいし……ソースが爽やか」
「どれどれ……フム、気合入ってるわぁ」
 秋野菜のほろ苦さと焦げ具合が、マンゴーソースと絶妙にマッチしている。
 それは店長の人生の豊かさ、そのものだった。
 心からのもてなしが、パティの警戒心を解いた。
 前菜をペロッと平らげた頃、メインディッシュがやってきた。
「お待たせしました。ビアンコディアマンテ特製、牛サーロインステーキ300gです」
 もうもうと吹き上がる湯気の中に、肉厚ステーキが鎮座ましましていた。
 おいしそうな匂いが辺りに立ち込める。
「うわぁ、おいしそう!」
 パティが思わず歓声を上げると、店長は満面の笑みを浮かべた。
「女性の美しさのために、どうぞ召し上がってください。肉感的な女性、とても魅力的です。どんどん食べて、セクシーになってください」
「ま、エッチ」
 リサは顔をしかめたが、店長のチャーミングな笑顔で相殺だ。
 それに鉄板の上のステーキも最高だった。ナイフで切る度に肉汁が溢れ、口に入れればほろりと消えてしまう。まさに極上の牛サーロインだった。
 完全に身贔屓なメインである。
「はぁ~っ、すごいお肉! パティのおかげで、こんな豪華なディナーになって幸せ」
「……いいのかなぁ。こんなご馳走を1000Eで」
 パティは後に響くであろう、店の会計を気にした。
「あら、お店の心配? 早くも内助の功発揮かしら」
「違います! 違いますけど……こんなこと初めてで」
 戸惑いを隠せないパティ。無理もない、このアプローチはインパクトがありすぎた。
「女を磨いた甲斐があったじゃない? 思わぬところで花開いたけど、悪い気はしないでしょ」
「それは……そうですけど」
「女なら、男に貢がれたら光栄だと思いなさい。それを思う存分浴するのも女のなせる業。——男が節を曲げるなんて、よっぽどよ。その心意気を全部受け止めなきゃ女じゃない!」
「えーっ、逃げ道ないじゃないですか!」
「私が塞いだのよ。あんたは女の武器に無自覚すぎ! 使うところを間違えなければ、こういうことはいつでも起こり得るのよ。でもって、撃たれた被害者を擁護できるかどうかが、女のステイタスの分かれ道。——ちゃんと責任取んなさい」
「そんなぁ」
 強引なリサの術中に嵌り、パティは窮地に追い込まれた。
 厨房からチラチラ顔をのぞかせて、こちらを窺う店長に、リサは首尾が上々なのを知った。

















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