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第23話『ルイスの披瀝』

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「そろそろルイスさんのことも聞かせていただきたいわ。ご家族はどちらにお住まいなのかしら」
 ハルニレの意気消沈ぶりを見て取って、ホリーは話題を変えた。
「はい、私も出身はパラティヌスで、サラセニア区の海浜公園近くに実家があります。家族構成は両親と姉で、父はメーテス王家の庭師の仕事をしています。母は夏に海の家で手伝いに駆り出されるとき以外は専業主婦です。それから、姉はクレロ区の農家に五年前に嫁いでいます。姪と甥がいまして……私は叔父さんです」
「まぁ、姪御さんと甥御さんがいらっしゃるの……さぞかしご両親も張り合いがあるでしょうね。ルイスさんもいろいろおねだりされて大変でしょう?」
「そうですね。でも、あまり交通の便がいいとは言えないところに住んでいるので、わがままを言わないように、姉がきつく言い渡してるみたいです。いざ里帰りすると、姉も姪っ子たちも夏のチョコレートみたいに、ドロドロに溶けて両親に甘えてます。「お姑さんが万年氷みたいに厳しいから、思いっきり羽目を外さないと割に合わない」と姉は言い訳してますが」
「はっはっは。女性は嫁ぎ先で舞台が変わってしまうからなぁ。いろいろ話は聞くが、やはり女性が嫁ぐというのが長持ちする結婚の秘訣だと私は思うね」
「はい。こんなにお元気で楽しいおじいちゃんおばあちゃんがいる、ハルニレさんが羨ましいです」
「あら、羨ましいことはないじゃありませんか? いつのことかはわかりませんけど、孫とあなたが結婚すれば、私たちは家族ですからね」
「うん、ハルニレが子ども子どもしてるから、君も扱いに困ることがあるだろうが。根が純情な娘なのでね。気長に付き合ってくれたまえよ」
「ありがとうございます……!」
 ルイスは感無量で頭を下げた。
 試験は合格というところか。
 それを潮に、ケインとホリーは席を立ち、名残惜しそうなハルニレ二任せて帰途についたのだった。

「……素敵な祖父母さんだね」
 祖父母をぼんやり見送ったハルニレの後ろ姿に、ルイスはそう声をかけた。
 ハルニレは……祖父の寂しそうな顔が心に引っかかっていたが、もの思いを中断してルイスに笑顔を返した。
「ありがとうございました。昔から私のことになると、家族みんながひと騒動なので……。今日は突然でしたけど、一応抑えてはくれたみたいです」
「君は本当にご家族に愛されてるんだね」
 ドキッ。
 その見つめる瞳が祖父そっくりで、ハルニレはとても驚いた。
「さぁ、作業に戻ろうか。今日のパンも楽しみにしてるよ」
「……はい!」
 丁寧に捏ねて焼き上げたパンを、温め直して食べてもらおうと、ハルニレは気持ちを切り替えた。


















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