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第23話『由緒ある茶器』
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パンの試食も終わって、とっておきのティーセットで紅茶を淹れる。
ハルニレにとって、大切な人をもてなすのに一族伝統の茶器を使うのは、ごく自然なことだった。
もちろん、ルイスにとっても、家族の一員として迎えられた気がして嬉しいことではあった。
しかし――ハルニレの祖父母が突然正装で訪ねてきたのは、この茶器の件があったのでは、と察してしまったのだ。
ルイスは苦言を呈さなくてはならなかった。
「ハルニレさん」
「はい?」
自然なハルニレの笑みを曇らせるのは気が引けた。だが、言わなくてはならなかった。とても大事なことだから――。
「……そのティーセット、とても由来のある品じゃないですか? 家紋のような印が入ってるし」
「あ! えっと……実は家に代々伝わるティーセットなんです。蜜蜂と夏の蜜源植物のソヨゴがデザインされてて、家紋もそうなんですけど。私の家って代々、教育関係の仕事に携わってるんです。それで、ちょっとだけ格式張ってて、特別なお客様にしかお出ししない品なんです。……私みたいな子どもが使うものじゃないんですけど、無理言って貸してもらいました」
「そんな大事な品を、俺のために……」
「いいえ、だってルイスさんは私にとって大事な方ですから。ただ、そのせいで祖父母が押しかけてきちゃいましたけど」
チロッと舌を出すハルニレ。
やはり、とルイスは心に留めてこう言った。
「それを俺に使うのはまだ早いですよ」
「えっ」
虚を突かれて、ハルニレの動作が止まる。
「やはり段階を踏むべきでした。人の意見を鵜吞みにして、独身のお嬢さんの家に上がり込むべきじゃなかった。——俺が間違ってました」
「ルイスさん……?」
「ハルニレさん、落ち着いて聞いてください。あなたが由緒正しい家柄の出身であっても、そうじゃなくても。男が女性の部屋に入るということは、行きつくところまで行ってしまうのを止める術がないということです」
ガーン。
真っ青になったハルニレの表情が、完全に油断していたことを示している。
ルイスはなおも言った。
「喩え何もなかったとしても、ご家族が心配するのは当たり前なんです。どんな事情があったとしても、納得できかねることです。祖父母さんはハルニレさんを立てて、会ったばかりの俺の心情も思いやって気さくに接してくださった。それは特別な計らいなんです。そのことにきちんと気づいてください」
「……」
言葉を失くすハルニレ。
ルイスは最後にこう言った。
「今日限りで俺はここに来ません。ハルニレさんにもご家族にも認めてもらいたいからです。じっくり時間をかけてお互いを知りましょう。そうすることで周りが整っていくんですよ」
じゃあ、俺はこれで。とルイスは席を立った。
使われなかったティーカップから、湯気が立ち昇っている間の出来事だった――。
ハルニレにとって、大切な人をもてなすのに一族伝統の茶器を使うのは、ごく自然なことだった。
もちろん、ルイスにとっても、家族の一員として迎えられた気がして嬉しいことではあった。
しかし――ハルニレの祖父母が突然正装で訪ねてきたのは、この茶器の件があったのでは、と察してしまったのだ。
ルイスは苦言を呈さなくてはならなかった。
「ハルニレさん」
「はい?」
自然なハルニレの笑みを曇らせるのは気が引けた。だが、言わなくてはならなかった。とても大事なことだから――。
「……そのティーセット、とても由来のある品じゃないですか? 家紋のような印が入ってるし」
「あ! えっと……実は家に代々伝わるティーセットなんです。蜜蜂と夏の蜜源植物のソヨゴがデザインされてて、家紋もそうなんですけど。私の家って代々、教育関係の仕事に携わってるんです。それで、ちょっとだけ格式張ってて、特別なお客様にしかお出ししない品なんです。……私みたいな子どもが使うものじゃないんですけど、無理言って貸してもらいました」
「そんな大事な品を、俺のために……」
「いいえ、だってルイスさんは私にとって大事な方ですから。ただ、そのせいで祖父母が押しかけてきちゃいましたけど」
チロッと舌を出すハルニレ。
やはり、とルイスは心に留めてこう言った。
「それを俺に使うのはまだ早いですよ」
「えっ」
虚を突かれて、ハルニレの動作が止まる。
「やはり段階を踏むべきでした。人の意見を鵜吞みにして、独身のお嬢さんの家に上がり込むべきじゃなかった。——俺が間違ってました」
「ルイスさん……?」
「ハルニレさん、落ち着いて聞いてください。あなたが由緒正しい家柄の出身であっても、そうじゃなくても。男が女性の部屋に入るということは、行きつくところまで行ってしまうのを止める術がないということです」
ガーン。
真っ青になったハルニレの表情が、完全に油断していたことを示している。
ルイスはなおも言った。
「喩え何もなかったとしても、ご家族が心配するのは当たり前なんです。どんな事情があったとしても、納得できかねることです。祖父母さんはハルニレさんを立てて、会ったばかりの俺の心情も思いやって気さくに接してくださった。それは特別な計らいなんです。そのことにきちんと気づいてください」
「……」
言葉を失くすハルニレ。
ルイスは最後にこう言った。
「今日限りで俺はここに来ません。ハルニレさんにもご家族にも認めてもらいたいからです。じっくり時間をかけてお互いを知りましょう。そうすることで周りが整っていくんですよ」
じゃあ、俺はこれで。とルイスは席を立った。
使われなかったティーカップから、湯気が立ち昇っている間の出来事だった――。
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