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第24話『奇跡』

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 慰労会は夜九時にお開きになった。
 その後、片付けでわいわいと賑やかに交流して、礼拝堂に二人きりになった時のは午後十時半頃だった。
 長椅子に座り、聖母子像の前で祈りを捧げる。
 聖句を唱え、万感の思いとともにアヤを見つめるランス。
 いつもの度の強い眼鏡ではなく、コンタクトレンズにしていた彼女の目元はとても涼やかだった。
 その目が開かれると、瞳は感謝で潤んでいた。
 ランスの視線に気づいて、そっと見上げる様は優しげで謙譲に満ちていた。
 静かに笑うランス。
「今日はありがとう、そしてお疲れさまでした。早速私を助けてくださいましたね」
「……これからはいつでも傍でお力添えできます」
「ああ、そうでした。そのことを考えると新たな力が湧いてくるのを感じます。アヤさんもそうですか?」
「もちろんです。——パスクア村の皆さんが、きちんと輪の中に迎え入れてくださって嬉しかった」
 頷いたアヤだったが、その目がスッと伏せられた。
「実は……少し心配していたんです」
「えっ?」
「こんなに大勢の人にお披露目したのに、私自身には華がないから。年齢も年齢だし、それこそパティみたいに艶やかであれば、将来有望なんじゃないかと思って」
「……そんなことを思ってらしたんですか」
 吹っ切るように、アヤは両手を組んで前に伸ばした。
「私も女なんですね! 世間の目はやっぱり気になります。NWSのみんなが周りを固めてくれたから、野次こそなかったけど、正直がっかりした人は何人かいると思います」
「……」
「それに、みんな知らないけど子どもも産めないし。ランスさんの子どもなら楽しみにしてる人も多いと思うのに」
 アヤは子宮の病気で、妊娠することがとても難しいのだった。
「……それは違います」
 ランスはきっぱりと言った。
「私は子どもを産んでほしくてあなたと結婚するんじゃありません。あなたの価値観・夢・理想・生きる姿勢。そして磨き抜かれた女性としての嗜みに惹かれて結婚を申し込んだのです。それは若さでは補えないものばかりです。何度もお話しした通り」
「……あなたが欠けていると思うところがあるなら、それは私の愛情表現の不足です。愛で満たされ、心尽くされていれば、そよぐ風ほどにしか感じない類いのものなのです。つまり、私の落ち度なんですから、思いっきり責めてくださって構わないんですよ」
 アヤは責める代わりにランスに寄りかかった。
「ごめんなさい……また逆戻りして、同じことをお話しさせてしまって。迷ってばかりで本当に困った子羊ですね」
「いいじゃありませんか、何度迷ったって。迷いはしつこいのが取り柄なんですから。私が何度でも追い払って差し上げますよ」
「やっつける、じゃないんですね?」
「やっつけるのは牧師の本分じゃありませんよ。もっともあなたのためなら魔物にも立ち向かいますけどね」
「……」
「……」
 ランスがアヤの額に静かにキスした。
 アヤの瞳から涙が零れ落ちた。
 それが合図だった。
 夥しい数の妖精たちが、燭台に蠟燭を灯して姿を現した。
 礼拝堂の中は虹色の燐光を持つ炎で照らし出された。
 そして、聖母の薄く開いた目からも涙が――。
 奇跡は思い合う恋人たちのために、かくも厳かに立ち現れたのだった。



















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