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第27話『ナタルの家庭とアロンの近況』
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五つある円卓のうち、一番奥のドア側の円卓では、ナタルとアロンが話し込んでいる。
「アロンは聖人降誕祭の準備終わったかい?」
ナタルが聞くと、アロンは眉間に皺をよせてから唐突に力を抜いた。
「まだなんだ。先月の引っ越しが後引いててさ……」
「アロンの勉強量じゃ、書籍類だけでも大荷物になりそうだね」
「そうなんだよな……それも、俺だけじゃないんだ。リサもかなりの数の蔵書があってさ。挙句バッティングして二冊になったりするんだよ」
「すごいなぁ、二人して勉強家だなんて」
「とにかく、その整理で年が暮れそうなんだ。——プレゼントまで本じゃお笑い草だろ」
「それでもいい、ってリサが言ったら?」
「うーん、かなり穿ったところを突かないとな」
「リサもそう思ってたりして」
「まぁ、楽しい作業なんだけどな」
「ふーん」
「ナタルの方はどうなんだ? 奥さんと娘さん、二人分のプレゼントを用意しなきゃだろ」
「うん、家内の方はリクエストがあってね。北端国セライ産の木べらだって。今までのが摩耗して使いづらくなったらしいよ。セライ産のは一昨年、ベストデザイン賞を受賞したんだってさ。娘にはね、チョコレートフォンデュができるままごとセット。家内と二人で行った、ケーキバイキングのチョコレートタワーに嵌ったとかでねだられてさ。甘いもの大好きだからね、ウチの娘は」
「へぇ……いいお父さんしてるじゃないか」
「そうかな? まぁ、ぼちぼちだね。アロンだってそのうち現実になるよ」
「でも俺、子ども苦手だからさ。なるべく先に延ばしたいんだけど、リサがものすごく詳しそうなんだよな。赤ん坊のおむつかぶれからおばあちゃんの知恵袋まで、生活全般じゃとても歯が立たないもんな。知らないうちに妊活とかさせられてたりして。ぞっとしないだろ?」
「まぁ……それは知らないフリして乗っかった方が後々幸せだよ。それに、自分の子どもはまた格別って話だしね」
「ナタルもそう思うか?」
「うん。毎日毎日ホントに賑やかだけど、飽きこないもんな。ウチは奥さんしっかり者だから、俺があんまり手をかけなくてもすくすく育ってるし。娘は娘でおしゃまだから独り立ち早そうだなぁ、ってさ。そんな感じかなぁ」
「ごちそうさま」
同じ頃、リサはカエリウスの民俗博物館の資料室で、司書補助をしていた。
本業の民芸品テクスチャの整理の仕事からは外されている……熱が入りすぎて、つい強い口調で年下メンバーに注意してしまい、彼女が泣いてしまったのだ。
現地の文芸員から行き過ぎをたしなめられて、リサは頭を冷やすまで別の仕事をしている。
この前、アロンからこんな意外なことを聞かされたからだ。
「今日、9班の女子から、俺たちが二人きりで旅行に行ったことについて、意外な反応が返ってきてさ……」
夕食にリサ特製のトマトおでんをつつきながら、熱燗で杯を傾けながらアロンが言う。
「「リサと付き合ってるなら付き合ってる、って言ってくれた方が親切です。当てつけみたいに示し合わせて旅行に行ったりして、私たちが嫉妬まみれの嫌な女の集まりみたいじゃないですか」ってこう切り出されてさ」
「へぇ……違うんだ?」
ささやかな嫌味を忘れないリサ。
「それで……私たち別にアロンさんを独り占めしたいとか、そういうんじゃないんで。そういうのは、私たちの前で軟派なふりして仕事始めた時に割り切ってますから。リサと付き合うんなら、どうぞご自由に。というか、相手はリサしか認めませんけどね! ……とこうきたもんだ」
「えーっ、どういう風の吹きまわしだろ?」
アロンは心配が空振りに終わって、肩透かしを食らったようだった。
リサは口にしなかったが、9班女性メンバーの心意気がよくわかった。
彼女らがアロンを好きになったのは、容姿もさりながら博識な知識の蓄積からくる仕事のスマートさに注目していたからだ。
それが、リサのNWS脱退の一件以降、隔てを置かれるようになった。
リーダー間では相変わらず鋭い知性を働かせているアロンも、班の運営では男性メンバーの幼稚さに合わせていて、ちっともかっこよくない。
彼女たちはそれがつまらないし、寂しかった。
自分と付き合って、元のアロンに戻るのなら歓迎するしかない。
そういうことだろう。
こうなってくると対立しているのも忘れて、NWSに戻って見たくなる。
トラディショナルオークツリーの大人しい、いい子ちゃん集団が物足りない。
(我ながら現金だと思うわ)
リサは肩を竦めて強く息を吐きだした。
「アロンは聖人降誕祭の準備終わったかい?」
ナタルが聞くと、アロンは眉間に皺をよせてから唐突に力を抜いた。
「まだなんだ。先月の引っ越しが後引いててさ……」
「アロンの勉強量じゃ、書籍類だけでも大荷物になりそうだね」
「そうなんだよな……それも、俺だけじゃないんだ。リサもかなりの数の蔵書があってさ。挙句バッティングして二冊になったりするんだよ」
「すごいなぁ、二人して勉強家だなんて」
「とにかく、その整理で年が暮れそうなんだ。——プレゼントまで本じゃお笑い草だろ」
「それでもいい、ってリサが言ったら?」
「うーん、かなり穿ったところを突かないとな」
「リサもそう思ってたりして」
「まぁ、楽しい作業なんだけどな」
「ふーん」
「ナタルの方はどうなんだ? 奥さんと娘さん、二人分のプレゼントを用意しなきゃだろ」
「うん、家内の方はリクエストがあってね。北端国セライ産の木べらだって。今までのが摩耗して使いづらくなったらしいよ。セライ産のは一昨年、ベストデザイン賞を受賞したんだってさ。娘にはね、チョコレートフォンデュができるままごとセット。家内と二人で行った、ケーキバイキングのチョコレートタワーに嵌ったとかでねだられてさ。甘いもの大好きだからね、ウチの娘は」
「へぇ……いいお父さんしてるじゃないか」
「そうかな? まぁ、ぼちぼちだね。アロンだってそのうち現実になるよ」
「でも俺、子ども苦手だからさ。なるべく先に延ばしたいんだけど、リサがものすごく詳しそうなんだよな。赤ん坊のおむつかぶれからおばあちゃんの知恵袋まで、生活全般じゃとても歯が立たないもんな。知らないうちに妊活とかさせられてたりして。ぞっとしないだろ?」
「まぁ……それは知らないフリして乗っかった方が後々幸せだよ。それに、自分の子どもはまた格別って話だしね」
「ナタルもそう思うか?」
「うん。毎日毎日ホントに賑やかだけど、飽きこないもんな。ウチは奥さんしっかり者だから、俺があんまり手をかけなくてもすくすく育ってるし。娘は娘でおしゃまだから独り立ち早そうだなぁ、ってさ。そんな感じかなぁ」
「ごちそうさま」
同じ頃、リサはカエリウスの民俗博物館の資料室で、司書補助をしていた。
本業の民芸品テクスチャの整理の仕事からは外されている……熱が入りすぎて、つい強い口調で年下メンバーに注意してしまい、彼女が泣いてしまったのだ。
現地の文芸員から行き過ぎをたしなめられて、リサは頭を冷やすまで別の仕事をしている。
この前、アロンからこんな意外なことを聞かされたからだ。
「今日、9班の女子から、俺たちが二人きりで旅行に行ったことについて、意外な反応が返ってきてさ……」
夕食にリサ特製のトマトおでんをつつきながら、熱燗で杯を傾けながらアロンが言う。
「「リサと付き合ってるなら付き合ってる、って言ってくれた方が親切です。当てつけみたいに示し合わせて旅行に行ったりして、私たちが嫉妬まみれの嫌な女の集まりみたいじゃないですか」ってこう切り出されてさ」
「へぇ……違うんだ?」
ささやかな嫌味を忘れないリサ。
「それで……私たち別にアロンさんを独り占めしたいとか、そういうんじゃないんで。そういうのは、私たちの前で軟派なふりして仕事始めた時に割り切ってますから。リサと付き合うんなら、どうぞご自由に。というか、相手はリサしか認めませんけどね! ……とこうきたもんだ」
「えーっ、どういう風の吹きまわしだろ?」
アロンは心配が空振りに終わって、肩透かしを食らったようだった。
リサは口にしなかったが、9班女性メンバーの心意気がよくわかった。
彼女らがアロンを好きになったのは、容姿もさりながら博識な知識の蓄積からくる仕事のスマートさに注目していたからだ。
それが、リサのNWS脱退の一件以降、隔てを置かれるようになった。
リーダー間では相変わらず鋭い知性を働かせているアロンも、班の運営では男性メンバーの幼稚さに合わせていて、ちっともかっこよくない。
彼女たちはそれがつまらないし、寂しかった。
自分と付き合って、元のアロンに戻るのなら歓迎するしかない。
そういうことだろう。
こうなってくると対立しているのも忘れて、NWSに戻って見たくなる。
トラディショナルオークツリーの大人しい、いい子ちゃん集団が物足りない。
(我ながら現金だと思うわ)
リサは肩を竦めて強く息を吐きだした。
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