パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

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第27話『ギビングスカイロード』

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 エスクリヌス五湖……シクヌ湖、レス湖、ヘカッタ湖、ミチ湖、ハポ湖。
 湖島の宮廷国と呼ばれるエスクリヌスを象徴する大きな湖だ。
 海水と混じる典型的な塩湖で、半世紀前には豊かな生態系を保持していた。
 近年の消費文化で汚染が深刻になり、悪臭を放つに至り、夏場の観光ではワースト1の不名誉な記録を持つ。
 そして、テロの頻度も世界第二位と、治安の悪化から何度も政権交代を招き、政情の安定しない国でもあった。
 そこに彗星のごとく現れたのが、マオ・クリアスカイという五十代の僧侶で、政党を起ち上げ与党に躍り出ると、たちまち独自政策を断行した。
 テロリストの巣窟である空き物件を撤去し、緑地を増やし、国中の洗剤を生分解性のあるものに換え、車の個人所有を一家族二台と制限し、消費税をかけ消費意欲を減退させた。
 すると間もなく、環境が整い始め、レッドゾーン入りしていた生活指標がプラス修正されるようになった。
 あれほど悩みの種だった湖の悪臭も改善され、地方では様々な行事が復刻された。
 あのNWSリーダーが行った、湖底供物の成仏供養の元となった精霊供養もその一つである。
 その仕事をNWSから受注し、引き継いだのがギビングスカイロード。
 壮年層の男ばかりの団体二十名は、今日も現地で作業している。
 改善したとは言っても、まだまだ汚染の度合いが激しいハポ湖で、ヘドロに沈んだ湖底供物を透視して探し当て、洗浄して修繕し、光に還す。
 昔の3K(キツイ・汚い・危険)を彷彿とさせるような肉体労働だが、みんな文句も言わずに作業に従事する。
 一連の作業を指揮しているのは、ロバート・アスペクター。
 現地の位階者らと協力しながら、作業工程を見守る。
 ハポ湖湖岸にはそのための作業棟が建てられ、まるで工事関係者のようであった。
 午前中に今日分の湖底供物を引き上げていると、作業棟から事務員の
ハルナ・アスペクターという女性がやってきた。
 まだ若く三十代の未婚女性で、ハッとするような美人な上に気立てもよく、まさしく現場の華であった。
「皆さん、お疲れ様です。美味しいお菓子を用意しました。お茶にしませんか」
「おおっ」
 おじさんたちはみんな破顔した。
「そうしましょう。全員休憩に入ってください」
 ギビングスカイロードの中ではまだ若輩のロバートが言い渡すと、彼らはやれやれと言いながら作業棟に向かった。
 今日のお茶請けはレモンパイ。
 さっぱりとしたレモンカスタードにメレンゲ生地が層になった、爽やかなケーキだ。
 おじさんたちは酒も好きだが、甘いものにも目がなかった。
 ワイワイ言いながらケーキを三口ほどで平らげる。
「今日は午後から雨だっつったな」
 彼らの一人が窓の外を見ながら言う。
「雨でヘドロが落ちるんなら、歓迎するんだがな」
「暖かいよなぁ……外気温がまだ15℃以上あるんだもんな」
「パラティヌスと10℃くらい違うのか……まだまだ外でイベントもできるし、聖人降誕祭も凄い盛り上がりだって聞くぞ」
「ええ、それはもう。街中、煌々と照明に照らし出されて、国中夜通し騒ぐんですよ。エスクリヌスが一年で一番賑やかな時かもしれませんわ。国の4分の1の酒を消費するという、パラティヌスの女神の祭典ほどではないかもしれませんが」
 ハルナが受け合うと、明るい笑い声が上がった。
「あれは四旬節の断食明けの祭りだからな。冬の鬱積とを晴らそうってんで、みんなネジが弾け飛んじまって。ついでに胃袋の方もスイッチが入って、別名グルットニー《大食い》祭なんて仇名がまかり通っちまったのさ」
「ハルナちゃんは、女神の祭典に来たことあるかい?」
「いいえ、恥ずかしながら。でも、女神の祭典の時期になると、豪華客船ツアーが組まれるので、毎年ニュースになるんですよ」
「そうそう、エスクリヌスからのお客さんが一番多いんだって、パラティヌスでも必ずニュースになるよ」
「これは是非、聖人降誕祭を堪能して帰らなきゃな」
「おいおい、家族はどうすんだ? パラティヌスでガキが首を長くして待ってるぞ」
「だからさ、ガキが寝付いた後に繰り出すんだよ。母ちゃん誘ってよ、洒落たレストランでワインでも飲めば、降誕祭の準備疲れも吹き飛ぶってもんよ」
「なるほど、その手があったか」
「よかったら、お店を押さえましょうか?」
 ハルナの申し出に、おじさんたちは「冗談だよ、冗談!」と言って、笑いのうちに計画を取り下げた。




















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