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2.記憶
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記憶
激痛が走ったその瞬間、頭に流れ込んできたのは、この体の持ち主だった、“エティーナ・スカレット”の記憶だった。
▼
エティーナは、世界の中心、バティエナ帝国の伯爵令嬢として生まれた。
早くに母を亡くしたが、彼女は身分の高いお嬢様らしく、たくさん甘やかされて育った。
欲しいものは宝石でもドレスでも、土地でも人でもなんでも手に入った。そして同世代の子供はそれを羨ましがり、持ち上げるように褒め称えた。
だからエティーナは満足できない子に育った。ただ、エティーナのその埋められない穴を唯一埋めてくれたのが母方の祖母だった。彼女はエティーナに物ではない“言葉”という贈り物を沢山した。唯一それだけは、エティーナの心に響いた。乳母よりもよっぽど、母に近い存在だった。
そんなエティーナは12歳の頃、初恋を知った。
相手は公爵家の長男“イベルク・ラングレイ”だった。とあるお茶会でたまたま見かけた彼は、黒髪に見える艶やかな頭は、月夜の元では青く輝き、口角をにっと上に上げて男らしく微笑む。
男は全て媚びた笑顔を向けてくるものだと思っていたエティーナにとって、その自信に満ち溢れた顔は男らしさの象徴だった。
だから、エティーナの目には、彼の笑顔がどんな宝石より輝いて見えた。
それからエティーナはすぐにその子と仲良くなりたくて、お父様にねだりに行った。
“ラングレイ公爵家のイベルクと婚約者になりたい”
それを聞き入れた伯爵は、娘の願いを叶えるためすぐに公爵家に打診した。
返事は“まずは顔合わせから”だった。
それを知ったエティーナは大好きな宝石を沢山つけて、帝国で最も高級なドレスに身を包んで顔合わせに向かった。
イベルクは、そんなエティーナを見て、あの輝かしい笑顔を見せた。
「お姫サマみたいだな!」
その言葉にとうとう恋に落ちたエティーナは、それからもイベルクに沢山会いに行った。
剣の腕に秀でていたイベルクの稽古に頻繁に顔を出し、色々なものを差し入れした。
そして、そんなエティーナの努力は見事報われ、エティーナが15歳になった頃正式にイベルクと婚約者になることができた。
憧れの男性と婚約が嬉しかったエティーナは、イベルクと一緒にいる時間をさらに増やした。
お茶会があれば確実に顔を出し、イベルクの隣にぴったりくっついて、イベルクの話を沢山した。
それは、婚約者としてのプライドもあったが、何よりイベルクの悩みが消える事を願ってのことだった。
イベルクは公爵家の長男だったが、周りからはあまり期待されていなかった。幼い頃は優秀だと思われていた剣術の才能も、歳を重ねるうちに埋もれていき、頭は良くない。それでも人を惹きつけるカリスマ性がイベルクにはあった。
しかし、イベルクの劣等感は増すばかりで、むしろエティーナがお茶会でイベルクを持ち上げて話すのはイベルクの自信を失わせる事に繋がってしまった。
結果、イベルクの心は完全に離れてしまったのだ。
それは、エティーナが18歳の頃。
学園に通うようになってもイベルクのそばに居ようとしたエティーナは、イベルクの嫌そうな顔に気づくことはなかった。
だから、イベルクが転入生の平民、“サエラ”と仲が良さそうにしているのも許せなかったのだ。
サエラは短いピンクの髪と春の日の草原のような緑の目をした可愛い子だった。話し方は丁寧だが、愛嬌もあり、小柄で少しドジっ子。
そんなサエラは瞬く間に学園の人気者となった。
イベルクも、貴族ではない平民のサエラと一緒に居るのは心が休まるらしく、最近では学園で二人でいる姿がよく目撃されている。
エティーナはそれに激怒した。
平民が気安く貴族に話しかけるのも、婚約者がいる男性に簡単に触れるのも、
...何より、イベルクが自分に見せないような甘い顔をしているのが許せなかった。
だからエティーナは家の力を使って、何度もサエラを学園から追い出そうとした。
取り巻きの令嬢を使っていじめに近いこともした。
それでも鈍感なサエラはエティーナにさえ笑顔を向けて接してくる。
そしてとうとう昨日、エティーナはサエラに手をあげてしまった。
エティーナの平手打ちをくらったサエラは地面に尻餅をついて泣いた。なんで、どうしてこんな事をするの。私はエティーナ様と仲良くなりたくて...。
その言葉にエティーナは更に声を上げようとした。
そこに現れたのが、婚約者のイベルクだった。
イベルクはすぐにサエラを抱き上げ、最後にエティーナにこう吐き捨てた。
「二度と俺に近づくな。」
激痛が走ったその瞬間、頭に流れ込んできたのは、この体の持ち主だった、“エティーナ・スカレット”の記憶だった。
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エティーナは、世界の中心、バティエナ帝国の伯爵令嬢として生まれた。
早くに母を亡くしたが、彼女は身分の高いお嬢様らしく、たくさん甘やかされて育った。
欲しいものは宝石でもドレスでも、土地でも人でもなんでも手に入った。そして同世代の子供はそれを羨ましがり、持ち上げるように褒め称えた。
だからエティーナは満足できない子に育った。ただ、エティーナのその埋められない穴を唯一埋めてくれたのが母方の祖母だった。彼女はエティーナに物ではない“言葉”という贈り物を沢山した。唯一それだけは、エティーナの心に響いた。乳母よりもよっぽど、母に近い存在だった。
そんなエティーナは12歳の頃、初恋を知った。
相手は公爵家の長男“イベルク・ラングレイ”だった。とあるお茶会でたまたま見かけた彼は、黒髪に見える艶やかな頭は、月夜の元では青く輝き、口角をにっと上に上げて男らしく微笑む。
男は全て媚びた笑顔を向けてくるものだと思っていたエティーナにとって、その自信に満ち溢れた顔は男らしさの象徴だった。
だから、エティーナの目には、彼の笑顔がどんな宝石より輝いて見えた。
それからエティーナはすぐにその子と仲良くなりたくて、お父様にねだりに行った。
“ラングレイ公爵家のイベルクと婚約者になりたい”
それを聞き入れた伯爵は、娘の願いを叶えるためすぐに公爵家に打診した。
返事は“まずは顔合わせから”だった。
それを知ったエティーナは大好きな宝石を沢山つけて、帝国で最も高級なドレスに身を包んで顔合わせに向かった。
イベルクは、そんなエティーナを見て、あの輝かしい笑顔を見せた。
「お姫サマみたいだな!」
その言葉にとうとう恋に落ちたエティーナは、それからもイベルクに沢山会いに行った。
剣の腕に秀でていたイベルクの稽古に頻繁に顔を出し、色々なものを差し入れした。
そして、そんなエティーナの努力は見事報われ、エティーナが15歳になった頃正式にイベルクと婚約者になることができた。
憧れの男性と婚約が嬉しかったエティーナは、イベルクと一緒にいる時間をさらに増やした。
お茶会があれば確実に顔を出し、イベルクの隣にぴったりくっついて、イベルクの話を沢山した。
それは、婚約者としてのプライドもあったが、何よりイベルクの悩みが消える事を願ってのことだった。
イベルクは公爵家の長男だったが、周りからはあまり期待されていなかった。幼い頃は優秀だと思われていた剣術の才能も、歳を重ねるうちに埋もれていき、頭は良くない。それでも人を惹きつけるカリスマ性がイベルクにはあった。
しかし、イベルクの劣等感は増すばかりで、むしろエティーナがお茶会でイベルクを持ち上げて話すのはイベルクの自信を失わせる事に繋がってしまった。
結果、イベルクの心は完全に離れてしまったのだ。
それは、エティーナが18歳の頃。
学園に通うようになってもイベルクのそばに居ようとしたエティーナは、イベルクの嫌そうな顔に気づくことはなかった。
だから、イベルクが転入生の平民、“サエラ”と仲が良さそうにしているのも許せなかったのだ。
サエラは短いピンクの髪と春の日の草原のような緑の目をした可愛い子だった。話し方は丁寧だが、愛嬌もあり、小柄で少しドジっ子。
そんなサエラは瞬く間に学園の人気者となった。
イベルクも、貴族ではない平民のサエラと一緒に居るのは心が休まるらしく、最近では学園で二人でいる姿がよく目撃されている。
エティーナはそれに激怒した。
平民が気安く貴族に話しかけるのも、婚約者がいる男性に簡単に触れるのも、
...何より、イベルクが自分に見せないような甘い顔をしているのが許せなかった。
だからエティーナは家の力を使って、何度もサエラを学園から追い出そうとした。
取り巻きの令嬢を使っていじめに近いこともした。
それでも鈍感なサエラはエティーナにさえ笑顔を向けて接してくる。
そしてとうとう昨日、エティーナはサエラに手をあげてしまった。
エティーナの平手打ちをくらったサエラは地面に尻餅をついて泣いた。なんで、どうしてこんな事をするの。私はエティーナ様と仲良くなりたくて...。
その言葉にエティーナは更に声を上げようとした。
そこに現れたのが、婚約者のイベルクだった。
イベルクはすぐにサエラを抱き上げ、最後にエティーナにこう吐き捨てた。
「二度と俺に近づくな。」
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