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「っなんだその男は!!自分勝手にも程があるだろう!!!」
暴風が吹き荒れる訓練場。
エティーナが婚約者とのあれこれを話した途端にルーカスがブチギレたのだ。そして現在その感情のまま魔法を暴走させている。
「落ち着いて、ルーカス。」
「落ち着いていられるか!!なんで君ばかりが犠牲にならなければいけないんだ...!」
「ありがとう、ルーカス。」
ギュッと細められた瞳に涙を溜めたルーカスをエティーナが抱きしめて慰める。
ルーカスは、エティーナよりもずっと悲しんで怒ってくれる。まるで自分のことのように。
それはエティーナが前世から長い間求めていたような、理想のように優しい人の姿だった。
「っ、なんで、君は、そんな最低な男のものなんだ。君のように、強くて美しい人が、何故...。」
「..................。」
エティーナは何も考えない事に徹した。
この男はこういう事をポロッと本心で言えてしまうのだ。それにはもう慣れた。だから、一々反応していてはキリがないのだ。
こういうのは、幼稚園児が「おねえさんきれい!」と言ってくれてるとでも思えば良いのだ。
そこに大した意味はない。
「...俺が、君を奪えたら良いのに。」
「.........................。」
エティーナは悟りを開いた。
そしてそっとルーカスから距離を取り、頭に幼稚園の先生を思い浮かべた。悟りを開いたエティーナ先生にとって5歳児ルーカスくんを宥めるのは朝飯前なのだ。
「でも、仕方ないのよ。相手は公爵だし、私の方から強引に婚約を迫ったの。今更破棄なんてできないわ。」
実のところエティーナはいずれ婚約破棄する気満々だったが、今はまだ破棄できそうな作戦が一つもないためそう言うしか無かった。そしてその言葉を間に受けたルーカスはその顔を絶望に染める。
「っ、君は、まだその男が好きなのか...?」
「いいえ、大嫌いよ。私、浮気をする男は地獄に落ちる前に全裸にして100回鞭で叩いてから大衆の前で火炙りにするべきだと思うの。それか、切り落とすのよ。」
「き、切り落とす...?」
「ええ。“それ”がなければ、浮気もなにもできないでしょう...?ああ、そうなればもう子供も望めないから結婚もできないわね。いい気味よ。」
ルーカスはサッと血の気を引くのを感じた。
エティーナの目は本気だったからだ。エティーナは本気で男の一物を切り取ろうとしている。
そして自分が標的になったわけでもないのにそっと下半身を守ろうとしてしまう。
それは男としての本能だった。
「そ、そうか...。...じゃあ、君は好きでもない男と結婚するのか。」
「今の所は、そうね。」
「相手は公爵だから、君から婚約の破棄はできないのか。」
「ええ。」
「だからこのままいくと結婚するしかない。」
「そうよ。これは過去の私が決めた事だから。」
「......いやだ。」
「え?」
「そんなの、嫌だ。」
「ルーカス?」
今度はルーカスの方からエティーナを抱きしめ、身長差で多少屈みながらもその首元に顔を埋めた。ルシエルがその姿を睨むが、ルーカスは気づかない。
「俺は君の人生を支えたい。昨夜、そう決めた。」
「えっ、ええ。そう...ね...?」
「だから、君には幸せになってもらわなければ困る。」
ぎゅうっと、エティーナの腰に回るルーカスの腕が強くなる。エティーナはこれはまずいと身じろぎするが、ルーカスはビクとも動かなかった。
「ちょ、ルーカス...!」
「君は幸せになるべきだ。絶対、絶対だ。」
「ルーカス!!」
「......そうだ。」
最後に小さく何かを言ったルーカスは、ばっとエティーナから離れる。
「良い事を思いついたぞ!!」
「え...ええ...?」
「よし!!そうと決まればまずは準備だ!!すまない!しばらく家庭教師は休ませてもらう!弟!君は必ず良い魔法師になるから訓練はちゃんとするんだぞ!!」
「ねえさまにむだんでだきついたことをあやまってください。」
「ああ、すまなかった!!責任はとるぞ!では!少しお暇する!!
____君の人生に邪魔なものは、俺が消してあげるからな。」
「ええ.....???」
そう言って不敵に笑い、宙に浮いたルーカスはパッと消えた。
まるで、台風のようだった。
「いまのは、ぷろぽーず、ですか?」
「多分、そこまで深い意味は無いわ。」
そうしてその日以降、ルーカスが姿を現す事は無くなった。
**************
次回更新まで少しお時間いただきます。
「っなんだその男は!!自分勝手にも程があるだろう!!!」
暴風が吹き荒れる訓練場。
エティーナが婚約者とのあれこれを話した途端にルーカスがブチギレたのだ。そして現在その感情のまま魔法を暴走させている。
「落ち着いて、ルーカス。」
「落ち着いていられるか!!なんで君ばかりが犠牲にならなければいけないんだ...!」
「ありがとう、ルーカス。」
ギュッと細められた瞳に涙を溜めたルーカスをエティーナが抱きしめて慰める。
ルーカスは、エティーナよりもずっと悲しんで怒ってくれる。まるで自分のことのように。
それはエティーナが前世から長い間求めていたような、理想のように優しい人の姿だった。
「っ、なんで、君は、そんな最低な男のものなんだ。君のように、強くて美しい人が、何故...。」
「..................。」
エティーナは何も考えない事に徹した。
この男はこういう事をポロッと本心で言えてしまうのだ。それにはもう慣れた。だから、一々反応していてはキリがないのだ。
こういうのは、幼稚園児が「おねえさんきれい!」と言ってくれてるとでも思えば良いのだ。
そこに大した意味はない。
「...俺が、君を奪えたら良いのに。」
「.........................。」
エティーナは悟りを開いた。
そしてそっとルーカスから距離を取り、頭に幼稚園の先生を思い浮かべた。悟りを開いたエティーナ先生にとって5歳児ルーカスくんを宥めるのは朝飯前なのだ。
「でも、仕方ないのよ。相手は公爵だし、私の方から強引に婚約を迫ったの。今更破棄なんてできないわ。」
実のところエティーナはいずれ婚約破棄する気満々だったが、今はまだ破棄できそうな作戦が一つもないためそう言うしか無かった。そしてその言葉を間に受けたルーカスはその顔を絶望に染める。
「っ、君は、まだその男が好きなのか...?」
「いいえ、大嫌いよ。私、浮気をする男は地獄に落ちる前に全裸にして100回鞭で叩いてから大衆の前で火炙りにするべきだと思うの。それか、切り落とすのよ。」
「き、切り落とす...?」
「ええ。“それ”がなければ、浮気もなにもできないでしょう...?ああ、そうなればもう子供も望めないから結婚もできないわね。いい気味よ。」
ルーカスはサッと血の気を引くのを感じた。
エティーナの目は本気だったからだ。エティーナは本気で男の一物を切り取ろうとしている。
そして自分が標的になったわけでもないのにそっと下半身を守ろうとしてしまう。
それは男としての本能だった。
「そ、そうか...。...じゃあ、君は好きでもない男と結婚するのか。」
「今の所は、そうね。」
「相手は公爵だから、君から婚約の破棄はできないのか。」
「ええ。」
「だからこのままいくと結婚するしかない。」
「そうよ。これは過去の私が決めた事だから。」
「......いやだ。」
「え?」
「そんなの、嫌だ。」
「ルーカス?」
今度はルーカスの方からエティーナを抱きしめ、身長差で多少屈みながらもその首元に顔を埋めた。ルシエルがその姿を睨むが、ルーカスは気づかない。
「俺は君の人生を支えたい。昨夜、そう決めた。」
「えっ、ええ。そう...ね...?」
「だから、君には幸せになってもらわなければ困る。」
ぎゅうっと、エティーナの腰に回るルーカスの腕が強くなる。エティーナはこれはまずいと身じろぎするが、ルーカスはビクとも動かなかった。
「ちょ、ルーカス...!」
「君は幸せになるべきだ。絶対、絶対だ。」
「ルーカス!!」
「......そうだ。」
最後に小さく何かを言ったルーカスは、ばっとエティーナから離れる。
「良い事を思いついたぞ!!」
「え...ええ...?」
「よし!!そうと決まればまずは準備だ!!すまない!しばらく家庭教師は休ませてもらう!弟!君は必ず良い魔法師になるから訓練はちゃんとするんだぞ!!」
「ねえさまにむだんでだきついたことをあやまってください。」
「ああ、すまなかった!!責任はとるぞ!では!少しお暇する!!
____君の人生に邪魔なものは、俺が消してあげるからな。」
「ええ.....???」
そう言って不敵に笑い、宙に浮いたルーカスはパッと消えた。
まるで、台風のようだった。
「いまのは、ぷろぽーず、ですか?」
「多分、そこまで深い意味は無いわ。」
そうしてその日以降、ルーカスが姿を現す事は無くなった。
**************
次回更新まで少しお時間いただきます。
応援ありがとうございます!
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他人のために本気で怒れる人ってすごいですよね!!あとルーカスが赤ちゃんで可愛いです笑笑
エティーナの幸せな未来を願ってます✨
ふうあさん!こちらもお読みいただきありがとうございます...!!感想嬉しいです☺️!ルーカスは私もかわいく書こうと頑張ってます!笑