いっぽ

N&N

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第1話

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営業の仕事でもしている人なのだろうか?

こんな突然の状況にも、慣れた感じで対応している。

大人の女性そのものだ。

「あぁ、どうも。それはわざわざありがとうございました」

話を聞き終えた母親は、女性に向かって頭を深々と下げた。

「よろしかったら家でご飯でもどうですか?」

気を利かせて母親が言う。

「いえ、タクシーを待たせていますので」

「そうですか。何のお礼もできないで、申し訳ありません」

「いいえ、そのお言葉だけで十分です」

「まぁ親切なお方。ほら、あんたもちゃんとお礼言いなさい!」

母親に促されて、僕は頭を下げた。

それに伴い、ひどく頭がズキズキする。

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

その言葉とともに、僕は女性が差し出した通学鞄とクラブ鞄を受け取った。

ずっと持っていてくれたのだ。

「気分が悪いんだったら早退しなよ。まったく、体調管理がなってないね!」

女性の前でも母親は容赦ない。

平気で説教を始める。

「お母さん、頭に響きますから、なるべく小声で」

女性はしー、と言わんばかりに人差し指を口元に当てると、母親は申し訳ない、とでも言うように頭に手を添えた。

「それでは、夜分遅くに失礼しました。お大事に」

女性は簡単に挨拶を済ませると、待たせていたタクシーに乗り込み、手を振った。

僕は頭痛を必死にこらえながらそれに応え、タクシーを見送った。

「あ」

それからしばらくして、僕は女性から受け取ったハンカチを返していない事に気がついた。

知らず知らずのうちにズボンのポケットにしまいこんだまま、気づかなかったのだ。

「まぁ…いっか」

女性がハンカチについて何も触れなかったという事は、それほど返却を求めていないという事なのだろう。

僕はそう解釈して、ハンカチを再びポケットにしまった。
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