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3.喜多村本家に居候

110.岩居家とは?

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「ちょ、ちょっと陽笠ひかさに確認してくる」
「そ、そうね」

 また、あわただしくサキちゃんが部屋を出ていく。

「陽笠さんとは?」
「ああ、業務ぎょうむを取り仕切る家令よ」

 ──あ~、ここへ訪れた初日に会ったひとかな?

「心配しなくてもサザレさんにきましたら、直命ちょくめいで引き受けたと言ってましたよ?」
「あら? そうなの。それじゃ確認するまでもなかったかしら?」
「と、思いますよ」

 岩居いわい家とは、五條ごじょう家より引きいだ地下じげ家──まあ簡単に言うと身の回りの世話や雑務ざつむ請負うけおってきた家系で、今の喜多村を支えている、らしい。

「もう差配さはいしておったわ!」

 ほどなくして、サキちゃんがドタドタ戻ってくるや開口一番、のたまう。

 後ろには執事しつじぜんとした陽笠さん? が従っている。さすが陽笠じゃ、ってめている。

 やっぱり、訪問当時に出迎えてくれた人だった。

「そのようで。キョウちゃんが聴いてましたよ?」
「なぜ、早く言わん?」
「だから、サザレさんに聴いた、って言いました」
「サザレが直命を受けた、って言ったそうですよ?」

「なぜそれを言わぬ?」
「聞きもせず出て行かれました」
「うっ! ま、まあ良い。キョウよサザレの言うことを良く聴いて、とどこおりなく終わらせるのじゃぞ?」
「もちろんです」

 まあ、気持ちはそうなんだけど、またむくむく悪戯いたずら心がのぞかなければ……だけど。


「それでは、またあとでね?」
「しっかりやるのじゃぞ」
「はい。のちほど」

 ユキ様とサキちゃんは自室に戻っていく。


「ボク、タンポポちゃんのとこ行ってご飯食べるから~」

 となりの待機部屋をノック、護衛たちに声をかける。

「は~い。行ってらっしゃい」
「どうぞどうぞ」

 部屋をのぞくと気更来きさらぎさんは普通に待機、羽衣はごろもさん、歩鳥ほとりさん、斎木さいきさんはだらけてる。

「では、わたくしは随伴ずいはんいたします」
「わたくしも」

 さささん、打木うちきさんは付いてくるらしい。

「では、私も──」
「あ、いいからいいから。笹さん、打木さんにお願いするから」

 笹さんたちが付いて来るって言うと、羽衣さんが付いてくるって言い出してる。気更来さんは腰を浮かせてる。

「え~っ? 用無しですか?」
「うん、用無し。ご飯、食べてくるだけだから」

 二人いれば充分だから申し出を断わる。羽衣さん以下、斎木さんも付いてきたそうにしてるので断わっておく。

 断わっても笹・打木コンビはかげのように付いてくるだろうから容認ようにんしとかないと。


「今度はエレベーターで行こう」

 館の西側階段のそばにあるエレベーターを使って二階に下りる。

 少し歩いてやかたの中ほどのタンポポちゃんの部屋に着く。

「タンポポちゃん、ご飯食べに来たよ」
「あ! キョウ、ご飯は部屋で食べるんじゃ?」
「部屋? ああ上の部屋ね。一緒に食べるって言ったからこっちで食べるよ?」

 みんながけてきて抱きついてくる。最高の幸せを感じて背すじがぞくぞくする。

「もうキョウとは会えないかもって思って」
「会えない……」
「ミヤビ様と結婚するんでしょ?」
「あ~、結婚って言っても秘密ひみつの結婚? みたいなものだから別にどこにも行かないし、いつでも会えるよ?」

「そうなの?」って皆、うたがわしげ。

「もう新都に帰らない?」
「ずっといる」
「行っちゃダメ」
「ボクは、しばらく居る。けど新都に家があるしマキナお姉さんと結婚してるから、いつか向こうに帰るよ?」

「それはダメ」って言ってくるけど、こればっかりは仕方ないんだよ。

 抱き合って押し問答もんどうしてたらメイドさんたちが食事を運んでくる。

 食事準備を邪魔じゃましないようソファーに移って話し合う。でもやっぱり平行線で、ここに残れの大合唱。


「さあ、食べよう?」
「……うん」
「今度はアリサちゃんかな~?」

 食事が調ととのったので席に着く。席順でめるかと思ったけどすんなり決まる。今度はひざにアリサちゃんが座る。

 夕食は、ロングパスタとスープとサラダ。これじゃ夜中にお腹へりそう。

「〝はつとこ〟をやるのよね~?」
「ん、はつとこ」
「そ、そうらしい、ね?」
「なによ、人ごとみたいに。私たちも立ち会うから」
「えっ? それはムリなんじゃないかな?」

 って言うか見られたくない。

「妻のすべてを知るのは夫の義務ぎむ
「そうそう」
「ん、ギム」

「これでどうヤってるかが分かる」とかつぶやいてる。それは学校で習ってよ。マナちゃん、アリサちゃんも興味津々に見てくる。

「いや~それは……まだタンポポちゃんには早い、というか何というか……」
「もうどこにも資料がないのよ~」

 って、携帯端末で動画を見せてくる。そこにはマスクされた情事じょうじの姿が映しだされてる。

「ダメよ、タンポポちゃん、こんなのたら。こど──そんなのは高校に上がってから」

 高校でも観たらダメだと思うけど……。子供って言いかけて言葉を変える。

 知りたい知りたい病だね? 大人になった時の楽しみにしといてよ?

「え~? あと何年あるのよ、それ」

「八年」すれば成人するから、そう答える。実際は五年だけど。

「八年……って人生終わっちゃうわよ」
「いや、全然終わらないから。大人になってからが長いから」
「もう大人よ!」
「うんうん」
「おとな」
「そ、そうだね。大人だった、ね?」

 失言しつげんした。気をつけてたけどマズったね。なんてナイーブなお年頃なんだ。

「大人なら言い付けを守らないと、ね~?」

 サキちゃんが良いって言ったら観てもいいよ? って言ってみる。まさか子供に許可したりしないだろう……たぶん。でもちょっぴり、不安。
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