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4.本家からの再出発

161.今さらな自己紹介

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「キョウちゃん、そろそろ紹介してよ」
「うんうん」
「え? 今さら?」
 喜多村の皆さんとの顔合わせも一巡いちじゅんし、潮が引くように行列が途絶えると、タマちゃん水無ミナちゃんが言ってくる。

「ボクの旦那だんな様の喜多村マキナ、です。こちらクラスメイトの水無月みなつきユウナくんと真城しんじょうタマキくん」
顔を合わす﹅﹅﹅﹅﹅のは初めてだね? 喜多村マキナです」
 何ですか、その、イヤミたっぷりな言い種は?

「はじめまして、水無月ユウナです」
「はじめまして、真城タマキです。キョウちゃんとの馴初なれそめは? お風呂はいつも一緒に入る派? 夜はどんな恰好かっこうさせてます?──」
「ちょっと、タマちゃん?」
 となりのマキナからピキッて音がしたよ? タマちゃん、あまり不躾ぶしつけすぎるのはやめて?

「キョウ、あとで話がある……」
 マキナをのぞき見たら……こっわ~、穏やか表情だけど額に青すじが立ってるよ?

「キョウとは婚活サイトで出会いました。競合が居なくて良かったですよ? お風呂はいつも一緒です。ナイティーは厳選したものを使わせています」
「じゃ、じゃあ、結婚生活は順調なんですね?」
「キョウちゃんを学園に送った時に行ってらっしゃいチ、チッスをしてましたが……いつも、してる、とか?」
 タマちゃん……ぷるぷるしながら訊くくらいなら訊かなきゃいいのに……。

「……そりゃあ、もう……しまくりですよ?」
 マキナも顔を赤くして言うくらいなら言わなきゃいいのに……。

 あ、タマちゃん水無ミナちゃん、鼻血が垂れてきた……。

「そ、それじゃあ……おはようのチッスとか、お休みのチッスとか──」
「もちろん、やりまくり、です」
 何なの? 互いにでダコみたいになりながら何、対抗してるの?

「さ、さあ、マキナさんも疲れてるから部屋に引きあげようか?」
「まだまだ夜は長いよ? もっと赤裸々せきららな告白が聞きたい……夜の、ベッドの上での過ごしかたとか」
「タマちゃん……出血死するよ、鼻血で」
「だ、大丈夫。作家は死んでも作品はのこる」
「どんだけ~。だいたい運営様に片っ端から削除されてるんでしょ?」
「う″……。もう失敗は繰り返さない。これからは伏字と隠語でカムフラージュする」
「…………」
 伏字も隠語も運営神様には通じません。タマちゃんの探求心には言葉もない。

「サキちゃん、マキナが疲れてるので部屋に下がっていいよね?」
 らちが明かないのでサキちゃんに助けを求める。

「そうじゃな。……他のものには言うておく」
「ありがとう」って言いマキナのもとに戻る。

「マキナ、サキちゃんが下がっていいって。タマちゃん水無ミナちゃんも部屋に戻りなよ」
「そうだね。部屋でゆっくり……」
「それじゃ」
 タマちゃんも納得したようなので、マキナの腕をいて部屋を横切る。

「わらわも部屋に下がる」
「そうですね、下がりましょう」
「ハノリ殿下、レイニ様。ご退出~」
 会場にミヤビ様、レニ様の退出のアナウンスがされる。会場の皆さんは上座に注目して、座るものは立ち上がり背すじを伸ばす。

 まあ、お二人が退出されるのが先か、と思いボクたちも立ち止まり背すじを伸ばして見送る。

「先を行くがよい」
「えっ?……それじゃあ……」
 マキナと顔を見合せると、うなずくのでお先に失礼する。

「なんか院長回診みたいになってるんだけど……」
 後ろには、ミヤビ様レニ様のみならず、タマ・水無ミナの二人、アヤメ・カエデ・ツバキ姉妹、幼女ーズ……が付いてくる。偶然だと思いたい。

 レニ様は表から車に乗って行けばいいのに。見るからに歩きにくそうにしてるし。

「レニ様、お車を使われたらどうですか?」
義兄上あにうえは歩いて行かれるのでしょう。も歩きます」
「「「兄上?」」」
「あ、いや、その……これは、ね?……」
 アヤメ姉妹から一斉いっせいに突っ込まれて答えにきゅうする。今まで、そう呼ばれなかったのに。

「レイニ様とは、義兄弟のちぎりをしたみたい」
「そうそう」
「そのようだ」
 水無ミナちゃんが的確に答え、タマちゃんが同意する。マキナまで言葉を添える。いつの間に知ったんだ。

 それはともかく、迎賓館を横切り、使用人館を通りすぎ本館にまで行列は続いた。

「タマちゃんたち、送ってくれてありがとう。もう部屋に戻っていいよ」
「何言ってるの。部屋に付いていくに決まってる」
「……はあ?」
 エレベーター前でお礼を行ったら、斜め上の答えを返される。


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