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Chapter4(傾斜編)
Chapter4-①【永遠のチケット】
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「うわぁ!」
自分絶叫で目が覚めた。
パジャマも布団もびしょ濡れだ。
額に手を当ててみるが熱はない。
風邪でもないのに酷い寝汗だった。
布団を干したかったが、身支度をする。
リアルな夢が現実と交差した。
二つの境目が定かでない。
顔を洗い、冷たいシャワーで朝起ちを鎮める。
現実の朝は待ってはくれなかった。
「おはようございます。」
主任に声を掛ける。
陽子の席が空いている事に安堵した。
「陽子ちゃんは午前半休と連絡があった。」
主任がぼそっと言う。
パソコンの電源を入れ、一息付く。
少なくても午前中は穏やかに過ごせそうだ。
パソコンに向かいながら夢を思い返す。
こんなにはっきりと夢を覚えている事が不思議に思えた。
『まさか正夢?』
背筋がゾクッとし、悪寒を覚える。
やはり風邪を引いたのかもしれない。
「お疲れ様です。
遅れて済みません。」
声の方向を向くのが怖かった。
「陽子ちゃん、どうしたんだ?
見違えたよ。」
張りのある主任の声で相手が分かる。
「春らしくイメチェンしてみたんですけど、似合っていませんか?」
「いや、逆だよ。
余りに可愛くて、驚いたんだ。」
とても部下に言う発言とは思えない。
シオンはゆっくりと椅子を回す。
「シオンさんはどう思いますか?」
大きな瞳と搗ち合う。
吸い込まれそうな瞳から慌てて視線を逸らす。
ショートカットにした陽子は丸で少年の様だ。
「凄く…、似合っているよ。
そのスプリングコートも。」
そう言うのが精一杯だった。
「こっちの方がシオンさんの好みかと思って。
思い切って、ショートにしてみたの。」
陽子が小声で囁く。
聞こえない振りをして、キーボードを叩く。
暗いディスプレイに陽子が映り込んだ。
英字を連打し、画面の暗い部分を消していく。
脂汗が頬を伝うが、拭っている暇はなかった。
「コーヒー買いに行きませんか?」
三時になって、陽子が声を掛けてきた。
「そっ、そうだね、少し休もうか。
主任も一緒に行きませんか?」
とても二人で連れ立つ気にはなれない。
「陽子ちゃんはゴールデンウィークはどうするんだ?
沖縄へ帰るのかな?」
主任が自販機の前で聞く。
「いえ、家でのんびりしてます。
沖縄へ帰る余裕なんてありませんし。」
「だっ、だったら…、これに…、行かないか?」
真っ赤な顔をした主任がチケットを出した。
「あー、これ行きたかったんです。でも…。」
「でも、何だ?」
「万が一、誰かに見られて噂になったら、主任に迷惑を掛ける事になるし。
そうだ、シオンさんも一緒にどうですか?
三人なら安心だわ。」
突然振られて、シオンは目を丸くする。
休みの日迄、主任の顔を見るのはうんざりだ。
「少し考えてみるよ。
それより沖縄に帰らないとなると、親御さんが心配しているのでは?」
家庭環境について探りを入れてみる。
「それはないわ。
ウチはちょっと放任主義なの。」
「そっか、変な事を聞いてゴメン。」
はぐらかされ、謝るしかない。
「さあ、戻りましょう。」
快活に歩き出した陽子は主任の事等、気にも止めてない。
主任は立ち止まったまま、チケットを見詰めていた。
「私の分もあれば、ご一緒していいですか?」
勝手に口が動く。
視線が上がり、シオンを真っ直ぐ見た。
「ああ、頼む!」
主任はシオンの手を掴むと、大きく振る。
「おい、陽子ちゃん、待ってくれ。」
軽くなった足取りで陽子を追っていく。
シオンは独り残され、自己嫌悪に陥った。
(つづく)
自分絶叫で目が覚めた。
パジャマも布団もびしょ濡れだ。
額に手を当ててみるが熱はない。
風邪でもないのに酷い寝汗だった。
布団を干したかったが、身支度をする。
リアルな夢が現実と交差した。
二つの境目が定かでない。
顔を洗い、冷たいシャワーで朝起ちを鎮める。
現実の朝は待ってはくれなかった。
「おはようございます。」
主任に声を掛ける。
陽子の席が空いている事に安堵した。
「陽子ちゃんは午前半休と連絡があった。」
主任がぼそっと言う。
パソコンの電源を入れ、一息付く。
少なくても午前中は穏やかに過ごせそうだ。
パソコンに向かいながら夢を思い返す。
こんなにはっきりと夢を覚えている事が不思議に思えた。
『まさか正夢?』
背筋がゾクッとし、悪寒を覚える。
やはり風邪を引いたのかもしれない。
「お疲れ様です。
遅れて済みません。」
声の方向を向くのが怖かった。
「陽子ちゃん、どうしたんだ?
見違えたよ。」
張りのある主任の声で相手が分かる。
「春らしくイメチェンしてみたんですけど、似合っていませんか?」
「いや、逆だよ。
余りに可愛くて、驚いたんだ。」
とても部下に言う発言とは思えない。
シオンはゆっくりと椅子を回す。
「シオンさんはどう思いますか?」
大きな瞳と搗ち合う。
吸い込まれそうな瞳から慌てて視線を逸らす。
ショートカットにした陽子は丸で少年の様だ。
「凄く…、似合っているよ。
そのスプリングコートも。」
そう言うのが精一杯だった。
「こっちの方がシオンさんの好みかと思って。
思い切って、ショートにしてみたの。」
陽子が小声で囁く。
聞こえない振りをして、キーボードを叩く。
暗いディスプレイに陽子が映り込んだ。
英字を連打し、画面の暗い部分を消していく。
脂汗が頬を伝うが、拭っている暇はなかった。
「コーヒー買いに行きませんか?」
三時になって、陽子が声を掛けてきた。
「そっ、そうだね、少し休もうか。
主任も一緒に行きませんか?」
とても二人で連れ立つ気にはなれない。
「陽子ちゃんはゴールデンウィークはどうするんだ?
沖縄へ帰るのかな?」
主任が自販機の前で聞く。
「いえ、家でのんびりしてます。
沖縄へ帰る余裕なんてありませんし。」
「だっ、だったら…、これに…、行かないか?」
真っ赤な顔をした主任がチケットを出した。
「あー、これ行きたかったんです。でも…。」
「でも、何だ?」
「万が一、誰かに見られて噂になったら、主任に迷惑を掛ける事になるし。
そうだ、シオンさんも一緒にどうですか?
三人なら安心だわ。」
突然振られて、シオンは目を丸くする。
休みの日迄、主任の顔を見るのはうんざりだ。
「少し考えてみるよ。
それより沖縄に帰らないとなると、親御さんが心配しているのでは?」
家庭環境について探りを入れてみる。
「それはないわ。
ウチはちょっと放任主義なの。」
「そっか、変な事を聞いてゴメン。」
はぐらかされ、謝るしかない。
「さあ、戻りましょう。」
快活に歩き出した陽子は主任の事等、気にも止めてない。
主任は立ち止まったまま、チケットを見詰めていた。
「私の分もあれば、ご一緒していいですか?」
勝手に口が動く。
視線が上がり、シオンを真っ直ぐ見た。
「ああ、頼む!」
主任はシオンの手を掴むと、大きく振る。
「おい、陽子ちゃん、待ってくれ。」
軽くなった足取りで陽子を追っていく。
シオンは独り残され、自己嫌悪に陥った。
(つづく)
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