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Chapter10(鵠沼編)
Chapter10-⑩【道】
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「ヤマト、煙草吸いに行くぞ。」
ミサキが開口マスクを外してくれた。
開けっ放しだった顎に違和感が残る。
バルコニーに出ると、簡素なテーブルと椅子が置いてあった。
ミサキはそれに座ると、旨そうに煙を吹かす。
見下ろす公園の木々が青々と茂っている。
ところどころに設置された街灯の下だけ、行き交う人が見えた。
「こっから眺めていると、発展しに行く奴は直ぐ分かる。
一目散に歩いているからな。」
ミサキが愉快そうに笑う。
「今度は一緒に行ってみるか?
お前みたいな奴はギャラリーがいた方が興奮するだろう?」
冗談気味の質問だったが、目は笑っていない。
そういえばハーネス男に会ったのもこの公園だ。
『あのトイレに行けば、また会えるかもしれない。』
突然浮かんだ考えだった。
小さな波紋を無視して、落ち着きのない顎に意識を向ける。
「ヤマトをもっと俺好みにしたいんだ。」
ミサキが唐突に言う。
「俺をもっと好いてくれるなら、何でもします。
ミサキさんの好みって、どんなですか?」
波紋を打ち消す様に、瞳を直視する。
「お前にもピアスを入れたい。
スキンヘッドにして、俺だけのド変態な奴隷にしたいんだ。」
瞳は夜空を見上げた。
『俺だけの』という単語を聞いて、ドキッとする。
「みんなセックスしてる最中は頷くんだ。
だけど実際やる奴なんていないんだよな。」
ポツリと付け加えると、夜空に煙を吹き掛けた。
「俺はします。」
勝手に口が動く。
「マジか?引き返すなら今の内だぜ。」
ミサキが警告した。
「いや、大丈夫です。
ミサキさんが望むなら、俺は覚悟出来てます。」
望みを受け入れる事を宣言する。
「よし、だったら早速スキンヘッドにするぜ。
バリカンを持って行くから、部屋に戻ってろ。」
ミサキが嬉々としてベランダを出て行く。
先程漠然と感じた、後戻り出来ない事実が両肩に圧し掛かってきた。
「ワン!」
それを振り払い、夜空に向かって吠える。
間接照明の薄暗い中でモーター音だけが唸る。
下に向けた視線の先に、髪の毛が次々に落ちていく。
それを見て、何故か勃起した。
堕ちていく感覚に酔いしれる。
「お前、何勃起しているんだよ。」
ミサキがからかう。
「ワン!」
恥ずかしさを隠すために大声で吠える。
バリカンが済むと、剃刀を使って剃り始めた。
器用なミサキは10分程度で剃りあげた。
「たまんねぇな、このツルツル坊主!
見るからにド変態だ。」
撫で回す頭に引っ掛かりはない。
「よし、お前の期待通り吊ってやる。」
ミサキはそう言うと、麻縄を手首に巻き付ける。
反対側を天井の滑車に通し、引っ張った。
両手は意思とは無関係に上がっていく。
完全に持ち上がった状態で、縄の反対側をフックに固定した。
「ここからがこの部屋の凄いところだぜ。」
ミサキは自慢げに言うと、カーテンの端を引っ張る。
そこに当然あるはずの窓はなく、全面鏡張りになっていた。
吊されたスキンヘッドの男とマスクを被った男が映る。
スキンヘッドの男は脇毛も隠毛もない。
どこから見ても、ド変態なマゾ男だ。
俺はそのマゾ男を見て、欲情した。
「どうだい、新たな心境は?」
ミサキはその気持ちを察知した様だ。
「た、たまんないです。
こんな姿に変身させてくれて、ミサキさんのお陰です。」
鏡をうっとりと見詰め、感謝の言葉を口にする。
俺は戻れなくなったのではない。
ミサキが本来進むべき道に導いてくれたのだ。
(つづく)
ミサキが開口マスクを外してくれた。
開けっ放しだった顎に違和感が残る。
バルコニーに出ると、簡素なテーブルと椅子が置いてあった。
ミサキはそれに座ると、旨そうに煙を吹かす。
見下ろす公園の木々が青々と茂っている。
ところどころに設置された街灯の下だけ、行き交う人が見えた。
「こっから眺めていると、発展しに行く奴は直ぐ分かる。
一目散に歩いているからな。」
ミサキが愉快そうに笑う。
「今度は一緒に行ってみるか?
お前みたいな奴はギャラリーがいた方が興奮するだろう?」
冗談気味の質問だったが、目は笑っていない。
そういえばハーネス男に会ったのもこの公園だ。
『あのトイレに行けば、また会えるかもしれない。』
突然浮かんだ考えだった。
小さな波紋を無視して、落ち着きのない顎に意識を向ける。
「ヤマトをもっと俺好みにしたいんだ。」
ミサキが唐突に言う。
「俺をもっと好いてくれるなら、何でもします。
ミサキさんの好みって、どんなですか?」
波紋を打ち消す様に、瞳を直視する。
「お前にもピアスを入れたい。
スキンヘッドにして、俺だけのド変態な奴隷にしたいんだ。」
瞳は夜空を見上げた。
『俺だけの』という単語を聞いて、ドキッとする。
「みんなセックスしてる最中は頷くんだ。
だけど実際やる奴なんていないんだよな。」
ポツリと付け加えると、夜空に煙を吹き掛けた。
「俺はします。」
勝手に口が動く。
「マジか?引き返すなら今の内だぜ。」
ミサキが警告した。
「いや、大丈夫です。
ミサキさんが望むなら、俺は覚悟出来てます。」
望みを受け入れる事を宣言する。
「よし、だったら早速スキンヘッドにするぜ。
バリカンを持って行くから、部屋に戻ってろ。」
ミサキが嬉々としてベランダを出て行く。
先程漠然と感じた、後戻り出来ない事実が両肩に圧し掛かってきた。
「ワン!」
それを振り払い、夜空に向かって吠える。
間接照明の薄暗い中でモーター音だけが唸る。
下に向けた視線の先に、髪の毛が次々に落ちていく。
それを見て、何故か勃起した。
堕ちていく感覚に酔いしれる。
「お前、何勃起しているんだよ。」
ミサキがからかう。
「ワン!」
恥ずかしさを隠すために大声で吠える。
バリカンが済むと、剃刀を使って剃り始めた。
器用なミサキは10分程度で剃りあげた。
「たまんねぇな、このツルツル坊主!
見るからにド変態だ。」
撫で回す頭に引っ掛かりはない。
「よし、お前の期待通り吊ってやる。」
ミサキはそう言うと、麻縄を手首に巻き付ける。
反対側を天井の滑車に通し、引っ張った。
両手は意思とは無関係に上がっていく。
完全に持ち上がった状態で、縄の反対側をフックに固定した。
「ここからがこの部屋の凄いところだぜ。」
ミサキは自慢げに言うと、カーテンの端を引っ張る。
そこに当然あるはずの窓はなく、全面鏡張りになっていた。
吊されたスキンヘッドの男とマスクを被った男が映る。
スキンヘッドの男は脇毛も隠毛もない。
どこから見ても、ド変態なマゾ男だ。
俺はそのマゾ男を見て、欲情した。
「どうだい、新たな心境は?」
ミサキはその気持ちを察知した様だ。
「た、たまんないです。
こんな姿に変身させてくれて、ミサキさんのお陰です。」
鏡をうっとりと見詰め、感謝の言葉を口にする。
俺は戻れなくなったのではない。
ミサキが本来進むべき道に導いてくれたのだ。
(つづく)
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