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Chapter17(中野編)
Chapter17-①【まだ生きてるよ】
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旅行から帰ってきて、二週間が経つ。
タケルからは誘いの連絡があったが、調子が悪いと断っていた。
実際、風邪が抜けない。
帰りの飛行機が酷く寒く、降りる時は悪寒がした。
それから喉の痛みと咳が続いている。
『ピンポン。』呼び鈴が鳴る。
ベッドから下り、玄関に向かう。
ドアを開けると、ユーキが立っていた。
「風邪引いたんだって?見舞いに来たよ。」
ユーキがケーキの箱を差し出す。
「ありがとう。どうせタケルの差し金だろうけど。」
ケーキを受け取り、スリッパを出す。
「アハハ、ビンゴ!
タケルが心配して、様子見てこいってミッションなんだ。」
無邪気な笑い声で気持ちが落ち着く。
「ただの風邪なのに。
タケルらしいや。」
釣られて一緒に笑う。
「タケルが心配してるのは、ヤマトさんの気持ちの方だと思うけど。」
急に真顔になった。
「俺の気持ちって?」
内心ドキッとする。
「それはヤマトさんが一番分かっているんじゃないの?」
ユーキが意味深に聞き返す。
カオルの事を言うべきか悩む。
「誰か、いい人が出来たんでしょ?
ケーキでも食べながら話そう。
力になるからさ。」
いい人が出来た事を前提に話を促す。
ある程度は察しているが、相手までは分かっていない様だ。
「実はさ。」タイでの経緯を話した。
「マジ!カオル君と!
あの空白の一日にそんな事になってたんだ。」
ユーキが大袈裟に驚く。
「ヤマトさんもバカだよな。
タケルと付き合えば、タダで旅行に行けるのに。
何もタイとの遠距離恋愛を選ばなくても。」
長い舌がクリームを掬い取ると、溜息を付く。
「まあ旅行は別にしても、タケルの人柄を考えると、俺もそう思うよ。
でもカオルじゃないと、ダメなんだ。」
堰を切った様に話し出す。
誰かに相談したかったのだ。
「大分重症だね。」ユーキが微笑む。
「カオルといると安らぐんだ。
タケルは一緒にいると、どうしても緊張…、身構えちゃうんだ。」
微妙な心情を説明する。
「うん、それはちょっと分かる。
タケルって威圧感がかなりあるからね。」
ユーキが大きく頷く。
「ねえ、年明けたら、バンコク行こうよ。」
ユーキが突然言い出した。
「そんな悪いよ。バンコクまで付き合ってもらうなんて。」
突飛な誘いに戸惑う。
「それがさ、ボンが来い、来いって、うるさいんだ。」
照れ臭そうに知らない名前を言う。
「ボンって?」聞き覚えのない名前だ。
「パタヤのマッサージボーイ。」
ユーキの頬が紅潮する。
「マジ!それこそ驚きだよ。」
ビーチにいた筋肉隆々のマッチョを思い出す。
「まあ、俺はそんな真剣じゃないんだ。
だけど機会があれば行ってもいいかなと…。」
強がるユーキは大きなケーキの欠片を口へ押し込む。
もう暫くは答えないという意思の表れの様だ。
ユーキが一緒であれば、心強い。
気心が知れているから、互いに遠慮もいらない。
「よし、行こうか!」気持ちが高まる。
二週間、沈んでいたのが嘘の様に晴々した気分だ。
「もうタイは雨季は終わっている筈だ。
きっとピーカン続きで、真っ黒になるよ。」
ユーキも期待に胸を弾ませていた。
「何かさ、やる気が出てきちゃった。
トレーニングに行こうか?」
「都合の良い風邪だね。」ユーキがニヤ付く。
「タケルには上手く言っておくよ。
ガッカリするろうけど。」
ユーキがウインクする。
「いや、いい。
自分で言うよ。」
ユーキの申し出を断る。
自分の尻は自分で脱ぐいたい。
それがタケルの思いやりに対する、誠意だと思う。
「で、どこのジムに行く?」
駅に着いたところで、ユーキが聞く。
「そうだな?久し振りの筋トレだから、ちょっと羽目を外したいな。」
ずっと寝ていた所為で、思考が鈍い。
「だったらアソコにしない?」
ユーキが手を叩く。
「だな。アソコしかないな。」
アソコで通じるユーキが、今は心強い。
アソコと言うのは、二人が通っているジムの中でビルダーの多い店舗を指している。
ロッカールームで、並んで着替える。
ユーキは白い透け透けのタンクトップに、小さめの赤いショートパンツを穿く。
マラの形がくっきりしている。
安定のエロさだ。
安心して露出系のウエアに腕を通す。
胸元がデカく開いたボディスーツに、フェイクレザーのスパッツを合わせた。
「ベンチプレスで勝負しないか?
負けた方が晩飯を奢るってのはどう?」
「そんな事言って大丈夫?
ヤマトさん、返り討ちだよ。」
「体力を温存しておいたから、今日は負ける気がしないんだよな。」
二人は顔を見合わせ、心の底から笑った。
(つづく)
タケルからは誘いの連絡があったが、調子が悪いと断っていた。
実際、風邪が抜けない。
帰りの飛行機が酷く寒く、降りる時は悪寒がした。
それから喉の痛みと咳が続いている。
『ピンポン。』呼び鈴が鳴る。
ベッドから下り、玄関に向かう。
ドアを開けると、ユーキが立っていた。
「風邪引いたんだって?見舞いに来たよ。」
ユーキがケーキの箱を差し出す。
「ありがとう。どうせタケルの差し金だろうけど。」
ケーキを受け取り、スリッパを出す。
「アハハ、ビンゴ!
タケルが心配して、様子見てこいってミッションなんだ。」
無邪気な笑い声で気持ちが落ち着く。
「ただの風邪なのに。
タケルらしいや。」
釣られて一緒に笑う。
「タケルが心配してるのは、ヤマトさんの気持ちの方だと思うけど。」
急に真顔になった。
「俺の気持ちって?」
内心ドキッとする。
「それはヤマトさんが一番分かっているんじゃないの?」
ユーキが意味深に聞き返す。
カオルの事を言うべきか悩む。
「誰か、いい人が出来たんでしょ?
ケーキでも食べながら話そう。
力になるからさ。」
いい人が出来た事を前提に話を促す。
ある程度は察しているが、相手までは分かっていない様だ。
「実はさ。」タイでの経緯を話した。
「マジ!カオル君と!
あの空白の一日にそんな事になってたんだ。」
ユーキが大袈裟に驚く。
「ヤマトさんもバカだよな。
タケルと付き合えば、タダで旅行に行けるのに。
何もタイとの遠距離恋愛を選ばなくても。」
長い舌がクリームを掬い取ると、溜息を付く。
「まあ旅行は別にしても、タケルの人柄を考えると、俺もそう思うよ。
でもカオルじゃないと、ダメなんだ。」
堰を切った様に話し出す。
誰かに相談したかったのだ。
「大分重症だね。」ユーキが微笑む。
「カオルといると安らぐんだ。
タケルは一緒にいると、どうしても緊張…、身構えちゃうんだ。」
微妙な心情を説明する。
「うん、それはちょっと分かる。
タケルって威圧感がかなりあるからね。」
ユーキが大きく頷く。
「ねえ、年明けたら、バンコク行こうよ。」
ユーキが突然言い出した。
「そんな悪いよ。バンコクまで付き合ってもらうなんて。」
突飛な誘いに戸惑う。
「それがさ、ボンが来い、来いって、うるさいんだ。」
照れ臭そうに知らない名前を言う。
「ボンって?」聞き覚えのない名前だ。
「パタヤのマッサージボーイ。」
ユーキの頬が紅潮する。
「マジ!それこそ驚きだよ。」
ビーチにいた筋肉隆々のマッチョを思い出す。
「まあ、俺はそんな真剣じゃないんだ。
だけど機会があれば行ってもいいかなと…。」
強がるユーキは大きなケーキの欠片を口へ押し込む。
もう暫くは答えないという意思の表れの様だ。
ユーキが一緒であれば、心強い。
気心が知れているから、互いに遠慮もいらない。
「よし、行こうか!」気持ちが高まる。
二週間、沈んでいたのが嘘の様に晴々した気分だ。
「もうタイは雨季は終わっている筈だ。
きっとピーカン続きで、真っ黒になるよ。」
ユーキも期待に胸を弾ませていた。
「何かさ、やる気が出てきちゃった。
トレーニングに行こうか?」
「都合の良い風邪だね。」ユーキがニヤ付く。
「タケルには上手く言っておくよ。
ガッカリするろうけど。」
ユーキがウインクする。
「いや、いい。
自分で言うよ。」
ユーキの申し出を断る。
自分の尻は自分で脱ぐいたい。
それがタケルの思いやりに対する、誠意だと思う。
「で、どこのジムに行く?」
駅に着いたところで、ユーキが聞く。
「そうだな?久し振りの筋トレだから、ちょっと羽目を外したいな。」
ずっと寝ていた所為で、思考が鈍い。
「だったらアソコにしない?」
ユーキが手を叩く。
「だな。アソコしかないな。」
アソコで通じるユーキが、今は心強い。
アソコと言うのは、二人が通っているジムの中でビルダーの多い店舗を指している。
ロッカールームで、並んで着替える。
ユーキは白い透け透けのタンクトップに、小さめの赤いショートパンツを穿く。
マラの形がくっきりしている。
安定のエロさだ。
安心して露出系のウエアに腕を通す。
胸元がデカく開いたボディスーツに、フェイクレザーのスパッツを合わせた。
「ベンチプレスで勝負しないか?
負けた方が晩飯を奢るってのはどう?」
「そんな事言って大丈夫?
ヤマトさん、返り討ちだよ。」
「体力を温存しておいたから、今日は負ける気がしないんだよな。」
二人は顔を見合わせ、心の底から笑った。
(つづく)
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