妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

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Chapter23(浮雲編)

Chapter23-③【真夏のSounds good !】

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「大丈夫ですか?」
前方から歩いて来た人が心配そうに寄って来た。
「ええ、大丈夫です。
ちょっと立ち眩みしただけです。
心配を掛けて、すみません…。」
立ち上がり、礼を言う。
歩行者は怪訝そうな表情で去って行く。
「やはり欲情してますね。
では、次の機会はもっとハードに責めましょう。」
見下ろす視線は股間の盛り上がりを捉えていた。
ずれたヘッドフォンから音が漏れる。
フトシは自転車に跨がると、颯爽と去って行った。
一人残され、頭の中でそのサウンドが鳴り響く。
新宿で降り、二丁目に向かう。
途中の牛丼屋に入り、腹を満たす。
食いながら、フトシの事を考えた。
その行動は謎だらけだ。
幾らでもヤル機会はあるのに、手を出してこない。
しかし抽象的な言葉を巧に使い、気持ちをガッチリ掴んで離さない。
さっきの『次はハードに責める』にしてもそうだ。
ついそれを期待してしまう。
蜘蛛の巣に掛かった蝶が、藻掻けば藻掻くほど雁字搦めになっていく。
今の状況はそれと同じだ。
『大丈夫。俺は罠には嵌まらない。』
自分に言い聞かす。
繰り返すリズムについ足で床を叩いてしまう。
 
DVDショップで最新の『調教白書』を探してみるが、中々見付からない。
新作と言っていたが、新作コーナーには置いてない様だ。
カウンターで店員に聞いてみる。
パソコンで在庫を確認し、奥から持って来てくれた。
そんなに売れる物ではないらしい。
それを購入し、縛琉人に顔を出す。
「いらっしゃっい。」
ドアを開けると、意に反してユーキの声がした。
「あれ、今日も入っているの?
ミツルさんは?」
座りながら聞いてみる。
「うん。俺の評判が良くてさ、ママに頼まれたんだ。
ママは買い物に行ってるけど、何か用?」
ケツワレ姿のユーキは生き生きとしていた。
「別に用という程じゃないけどね。」
適当にごまかす。
ドアが開いて、ガッチリした男が入ってきた。
「あっ!スーさん、いらっしゃっい!
待ってたよ!」
ユーキが猫撫で声を出す。
男は微笑んで、席に座る。
髪の毛を短く刈り込んだ、柔道でもやってそうな体躯だ。
警察官か自衛官を思わせる。
いかにもユーキの好きなタイプだ。
「飲む前にヤッちゃおうよ!」
ユーキはカウンターから出て来ると、男の手を引っ張る。
渋々男が立ち上がった。
 
「ヤマトさん、ちょっと見てて。
直ぐにママ帰ってくるから。
ねぇ、今日はスーさんがS?
それともM?」
前半は俺に言い、後半は男に聞いた。
「うん、分かった。」
答えるより早く、二人は奥の部屋に消えていた。
あんな精悍な人でもMなんだと、改めて人は見掛けに寄らないと思い知る。
ドアからミツルが顔を出した。
「いらっしゃっませ。
あれ、ユーキちゃんは?」
カウンターの中を覗き込んで聞く。
「奥で営業中。」その答えに、ミツルは呆れかえる。
「一層、奥の専用バイトにすれば?」
ユーキの悪口を言って、二人で爆笑した。
「そういえばフトシって、最近来た?」
本題を切り出す。
「こないだ来て以来、来てないわ。
そんなに来る子じゃないしね。」
ミツルはお通しを作りながら答える。
「ゴメン。まだ営業時間前だったね。」
時計を見ると、まだ7時前だ。
「別にいいのよ。
そういえばケイちゃんを紹介したお店のママにスーパーで会ったのよ。
フトシちゃんは前にそこで働いていたらしいの。」
他に客はいないのに声を潜めた。
「病気の兄弟がいて、お金が必要らしいのよ。
昼間は会社勤めして、夜はバイトしてたらいわ。」
ミツルが同情する素振りを見せる。
奔放なイメージと随分と異なった。
「フトシちゃんって、ちょっと世捨て人ぽいところがあるじゃない?
それって他人より頑張っている事の裏返しなのね。」
溜め息がお通しに注がれていく。
 
 
(つづく)
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