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Chapter23(浮雲編)
Chapter23-④【シンクロときめき】
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ラッシュ時の下り電車に飛び乗る。
身体を滑り込ませると、ドアが閉まった。
公園で日焼けした日を思い返す。
『失いたくない物がひとつだけある。』
あの時、フトシはそう言った。
てっきり自分の事だと思っていた。
それが病気の兄弟の事だと分かり、自分の自惚れを知る。
暗い車窓に映るマヌケな男を見て、冷笑した。
駅で降りると、いつもの癖でジムに足が向く。
ふとケイの事を思い出し、歩みを止める。
シフトに入っているとは限らないと思い直し、また歩き出す。
フロントでチェックインすると、中でケイが微笑む。
「こんにちは。」
ケイはよそ行き顔で挨拶する。
「こ、こんちは。」
気まずい雰囲気に吃ってしまう。
そのまま逃げる様にロッカーへ向かう。
「お客様、忘れ物です。」
足音と共に、背後から声が近付く。
追い付いたケイが隣を歩いた。
「別に怒ってないから、避けないで欲しいな。
悲しくなるよ。」
ケイが真っ直ぐ前を見たまま言う。
「ゴメン…。」他に言葉が見付からない。
「カイト相手じゃ仕方ない。
俺だって、きっとそうする。
ただここでくらい会って欲しいな。」
今日のケイは幼く見えた。
「ゴメン。これからそうするよ。」
顔を上げられず、足元を見詰める。
「皆離れて行って、寂しいんだ。」
ケイが言葉を絞り出す。
自分の事ばかり考えて、軽率だったと後悔する。
何とか元気付けたい。
「フロントなんて珍しいじゃん!」
軽い調子で聞く。
「うん。パーソナルの予定が入っていたんだけど…。
お客さんがベテランの方がいいと言ってさ。
先輩と替わったんだ。」
凹む理由が他にもあった事を知る。
以前のキラキラした笑顔が見たい。
「だったら空いた時間を予約するよ。
フォームのチェックを頼む。」
顔を上げて、笑い掛ける。
「マジっすか!ヤマト先輩のパーソナルなら気合いが入るっす!」
元気なケイが復活した。
「ああ、頼むよ。」
気合を込めろの意味合いで、腹筋を殴る真似をする。
「だったら後で、先輩の腹筋を殴ってやるよ。」
ケイがウインクした。
そんなつもりで真似た訳ではない。
流れで、思い付いただけだ。
深層心理に、新たな性欲が芽生えたとは思いたくない。
「先輩、後10分っすよ!
準備出来たっすか?」
ケイがロッカーまで呼びに来た。
まだプロテインを飲んる途中だ。
「直ぐに着替えるよ。」
急いで、プロテインを飲み干す。
「これに着替えて。」
ケイがニヤリと笑う。
手渡されたウエアを広げると、白いボディスーツとスパッツだった。
「これ着るのか?」
流石に地元のジムで着るには気合いがいる。
「何を今更言っているんすか?
先輩の露出好きはスタッフの間で有名っすよ!」
ケイが腹を抱えて笑う。
着替え終わり、鏡の前に立ってみる。
薄手の生地が筋肉に張り付く。
後ろ姿はボディスーツのTバックが、スパッツ越しにもはっきり分かった。
こないだのフトシの格好と重なる。
自分がフトシとシンクロした様で、鼓動がドキドキと速まっていく。
「先輩、すげぇエロいっすよ!
犯してぇ!」ケイのジャージが盛り上がっていた。
それを見たマラも、過敏に反応する。
「先輩、さすがにそのスパッツで勃起はマズいっすよ。」
ケイが苦笑した。
その言葉に先走りが溢れ出る。
「お疲れっす!
この後の予定は?
俺んちで飯食わないっすか?」
ジャージの盛り上がりを見ながら頷く。
「俺、こう見えても料理得意なんすよ。
犬飯っすけど。」
その発言に、ゾクッとする。
「先輩に会いたかったっすよ!」
ケイは玄関の鍵を締めるなり、唇を押し付けてきた。
二人で唾液の交換に勤しんだ。
唇が離れると同時に、鳩尾に一発パンチが入る。
呼吸が出来なくなると同時に股間が熱くなった。
(つづく)
身体を滑り込ませると、ドアが閉まった。
公園で日焼けした日を思い返す。
『失いたくない物がひとつだけある。』
あの時、フトシはそう言った。
てっきり自分の事だと思っていた。
それが病気の兄弟の事だと分かり、自分の自惚れを知る。
暗い車窓に映るマヌケな男を見て、冷笑した。
駅で降りると、いつもの癖でジムに足が向く。
ふとケイの事を思い出し、歩みを止める。
シフトに入っているとは限らないと思い直し、また歩き出す。
フロントでチェックインすると、中でケイが微笑む。
「こんにちは。」
ケイはよそ行き顔で挨拶する。
「こ、こんちは。」
気まずい雰囲気に吃ってしまう。
そのまま逃げる様にロッカーへ向かう。
「お客様、忘れ物です。」
足音と共に、背後から声が近付く。
追い付いたケイが隣を歩いた。
「別に怒ってないから、避けないで欲しいな。
悲しくなるよ。」
ケイが真っ直ぐ前を見たまま言う。
「ゴメン…。」他に言葉が見付からない。
「カイト相手じゃ仕方ない。
俺だって、きっとそうする。
ただここでくらい会って欲しいな。」
今日のケイは幼く見えた。
「ゴメン。これからそうするよ。」
顔を上げられず、足元を見詰める。
「皆離れて行って、寂しいんだ。」
ケイが言葉を絞り出す。
自分の事ばかり考えて、軽率だったと後悔する。
何とか元気付けたい。
「フロントなんて珍しいじゃん!」
軽い調子で聞く。
「うん。パーソナルの予定が入っていたんだけど…。
お客さんがベテランの方がいいと言ってさ。
先輩と替わったんだ。」
凹む理由が他にもあった事を知る。
以前のキラキラした笑顔が見たい。
「だったら空いた時間を予約するよ。
フォームのチェックを頼む。」
顔を上げて、笑い掛ける。
「マジっすか!ヤマト先輩のパーソナルなら気合いが入るっす!」
元気なケイが復活した。
「ああ、頼むよ。」
気合を込めろの意味合いで、腹筋を殴る真似をする。
「だったら後で、先輩の腹筋を殴ってやるよ。」
ケイがウインクした。
そんなつもりで真似た訳ではない。
流れで、思い付いただけだ。
深層心理に、新たな性欲が芽生えたとは思いたくない。
「先輩、後10分っすよ!
準備出来たっすか?」
ケイがロッカーまで呼びに来た。
まだプロテインを飲んる途中だ。
「直ぐに着替えるよ。」
急いで、プロテインを飲み干す。
「これに着替えて。」
ケイがニヤリと笑う。
手渡されたウエアを広げると、白いボディスーツとスパッツだった。
「これ着るのか?」
流石に地元のジムで着るには気合いがいる。
「何を今更言っているんすか?
先輩の露出好きはスタッフの間で有名っすよ!」
ケイが腹を抱えて笑う。
着替え終わり、鏡の前に立ってみる。
薄手の生地が筋肉に張り付く。
後ろ姿はボディスーツのTバックが、スパッツ越しにもはっきり分かった。
こないだのフトシの格好と重なる。
自分がフトシとシンクロした様で、鼓動がドキドキと速まっていく。
「先輩、すげぇエロいっすよ!
犯してぇ!」ケイのジャージが盛り上がっていた。
それを見たマラも、過敏に反応する。
「先輩、さすがにそのスパッツで勃起はマズいっすよ。」
ケイが苦笑した。
その言葉に先走りが溢れ出る。
「お疲れっす!
この後の予定は?
俺んちで飯食わないっすか?」
ジャージの盛り上がりを見ながら頷く。
「俺、こう見えても料理得意なんすよ。
犬飯っすけど。」
その発言に、ゾクッとする。
「先輩に会いたかったっすよ!」
ケイは玄関の鍵を締めるなり、唇を押し付けてきた。
二人で唾液の交換に勤しんだ。
唇が離れると同時に、鳩尾に一発パンチが入る。
呼吸が出来なくなると同時に股間が熱くなった。
(つづく)
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