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Chapter27(青春編)
Chapter27-⑨【瞳はダイアモンド】
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「ただいま。」
部屋に入るなり、ユーキが飛びついてきた。
「あっ、ヤマトさん!
キョウヘイがいないんだ!
どうしよう?」
涙と鼻水で濡れた顔を押し付けてくる。
「いないって、どういう事?
落ち着いて話せよ。
一回、深呼吸してさ。」
ユーキを座らせ、話を促す。
「さっきキョウヘイのジムから電話があって、昨日も無断欠勤してるって言うんだ。
で、心配になって、アパート行ったんだけど、部屋にもいなくて…。」
怖れている事は分かっている。
三浦の影がちらついた。
「携帯は?」
無駄だと分かっているが、聞いてみる。
「ずっと、圏外なんだ。
やっぱり…。」
恐ろしい想像に、ユーキは絶句した。
「とりあえずジムに連絡しないとな。
風邪を拗らせて入院したと連絡しておけよ。」
考えを巡らせる。
手掛かりは一切ない。
どうすればいいのか、見当も付かなかった。
もし三浦の手中にあるとしたら、奴はどうしてくるだろう?
目的は俺だ。
だったら連絡してくると思うが、二日間何もなかった。
考えが纏まらない。
ユーキは頭を抱えて、泣きじゃくっている。
こんな時、冷静にアドバイスをしてくれる人が欲しい。
タケルの顔が頭に浮かんだ。
結局、眠れねまま朝を迎えた。
八方塞がりで悪いと思いながらも、タケルのマンションを尋ねる。
エントランスで部屋番号を押すと、自動ドアが開いた。
玄関の呼び鈴を押す。
内鍵の外れる音がして、ドアが開く。
中から意外な人物が顔を出す。
「あっ…。」声を漏らし、ユーキと顔を見合わせる。
以前、ここで会った男だ。
病気なのか、かなり憔悴している。
「タケルに何か用?」
男がつっけんどんに聞く。
「いや、その…、タケル君は?」
威圧感に動揺し、吃ってしまう。
「タケルはいないよ。
また問題でも起こして、泣き付きに来たの?」
男がはっきりと言い放つ。
「…。」図星を突かれ、言葉を失う。
「当たりみたいだね。
あんたヤマトさんだろう?」
蒼白の顔が睨む。
無言で頷く。
「タケルに気のある素振りを見せて、厄介事に巻き込むなよ!」
怒鳴り声がポーチに響いた。
「べ、別にヤマトさんは気のある素振りなんて…。」
ユーキはフォローの言葉を飲み込んだ。
男は瞳にいっぱいの涙を浮かべていた。
「来週から伊豆で暮らすんだ。
タケルはずっと、俺と一緒にいるって約束したんだ!
頼むから、もうタケルにちょっかい出さないでよ。
頼むよ…。」涙が床に落ちる。
「ゴ、ゴメン。もう迷惑は掛けないよ。」
頭を下げ、ドアを閉めた。
足下を見詰め、歩き始める。
ユーキは何か言いたそうだが、適当な言葉が見付からないらしい。
沈黙のまま、マンションを後にする。
その後を付けて来る影がいる事に、二人は気付かなかった。
駅前のカフェに入る。
後の席に帽子を目深に被った男が座った事に、気を留めなかった。
「タケルのホテルが遂に着工か。
これから忙しくなるんだろうな。」
ユーキが溜息交じりに言う。
「来週から伊豆に行くと言ってたから、当分帰って来ないだろう。」
男の言葉が胸に突き刺さった。
タケルを上手く利用していると言われれば、否定出来ない。
自覚なしに、色々な人を傷付けていた事を知った。
「とにかく三浦の居場所を探さなくちゃ。」
思考を切り替える。
今はくよくよ悩んでいる暇はない。
「仕方ない。警察に行くか?
もう俺達の手に負える話じゃないよ。」
覚悟を決めた。
警察に行けば面倒な事は分かっているが、キョウヘイの身には換えられない。
「そうしよう。これから行こうか?」
立ち上がった瞬間、携帯が鳴った。
ユーキのスマホだ。
「キョ、キョウヘイからラインだ!」
驚愕の声に、店員が駆け寄ってきた。
(つづく)
部屋に入るなり、ユーキが飛びついてきた。
「あっ、ヤマトさん!
キョウヘイがいないんだ!
どうしよう?」
涙と鼻水で濡れた顔を押し付けてくる。
「いないって、どういう事?
落ち着いて話せよ。
一回、深呼吸してさ。」
ユーキを座らせ、話を促す。
「さっきキョウヘイのジムから電話があって、昨日も無断欠勤してるって言うんだ。
で、心配になって、アパート行ったんだけど、部屋にもいなくて…。」
怖れている事は分かっている。
三浦の影がちらついた。
「携帯は?」
無駄だと分かっているが、聞いてみる。
「ずっと、圏外なんだ。
やっぱり…。」
恐ろしい想像に、ユーキは絶句した。
「とりあえずジムに連絡しないとな。
風邪を拗らせて入院したと連絡しておけよ。」
考えを巡らせる。
手掛かりは一切ない。
どうすればいいのか、見当も付かなかった。
もし三浦の手中にあるとしたら、奴はどうしてくるだろう?
目的は俺だ。
だったら連絡してくると思うが、二日間何もなかった。
考えが纏まらない。
ユーキは頭を抱えて、泣きじゃくっている。
こんな時、冷静にアドバイスをしてくれる人が欲しい。
タケルの顔が頭に浮かんだ。
結局、眠れねまま朝を迎えた。
八方塞がりで悪いと思いながらも、タケルのマンションを尋ねる。
エントランスで部屋番号を押すと、自動ドアが開いた。
玄関の呼び鈴を押す。
内鍵の外れる音がして、ドアが開く。
中から意外な人物が顔を出す。
「あっ…。」声を漏らし、ユーキと顔を見合わせる。
以前、ここで会った男だ。
病気なのか、かなり憔悴している。
「タケルに何か用?」
男がつっけんどんに聞く。
「いや、その…、タケル君は?」
威圧感に動揺し、吃ってしまう。
「タケルはいないよ。
また問題でも起こして、泣き付きに来たの?」
男がはっきりと言い放つ。
「…。」図星を突かれ、言葉を失う。
「当たりみたいだね。
あんたヤマトさんだろう?」
蒼白の顔が睨む。
無言で頷く。
「タケルに気のある素振りを見せて、厄介事に巻き込むなよ!」
怒鳴り声がポーチに響いた。
「べ、別にヤマトさんは気のある素振りなんて…。」
ユーキはフォローの言葉を飲み込んだ。
男は瞳にいっぱいの涙を浮かべていた。
「来週から伊豆で暮らすんだ。
タケルはずっと、俺と一緒にいるって約束したんだ!
頼むから、もうタケルにちょっかい出さないでよ。
頼むよ…。」涙が床に落ちる。
「ゴ、ゴメン。もう迷惑は掛けないよ。」
頭を下げ、ドアを閉めた。
足下を見詰め、歩き始める。
ユーキは何か言いたそうだが、適当な言葉が見付からないらしい。
沈黙のまま、マンションを後にする。
その後を付けて来る影がいる事に、二人は気付かなかった。
駅前のカフェに入る。
後の席に帽子を目深に被った男が座った事に、気を留めなかった。
「タケルのホテルが遂に着工か。
これから忙しくなるんだろうな。」
ユーキが溜息交じりに言う。
「来週から伊豆に行くと言ってたから、当分帰って来ないだろう。」
男の言葉が胸に突き刺さった。
タケルを上手く利用していると言われれば、否定出来ない。
自覚なしに、色々な人を傷付けていた事を知った。
「とにかく三浦の居場所を探さなくちゃ。」
思考を切り替える。
今はくよくよ悩んでいる暇はない。
「仕方ない。警察に行くか?
もう俺達の手に負える話じゃないよ。」
覚悟を決めた。
警察に行けば面倒な事は分かっているが、キョウヘイの身には換えられない。
「そうしよう。これから行こうか?」
立ち上がった瞬間、携帯が鳴った。
ユーキのスマホだ。
「キョ、キョウヘイからラインだ!」
驚愕の声に、店員が駆け寄ってきた。
(つづく)
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