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Chapter1(光明編)
Chapter1-①【卒業の唄~アリガトウは何度も言わせて~】前編
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『絶対に嘘だ。』
ワタルは訝しげな視線を受話器に向ける。
「チケットは用意した。
至急帰国してくれ。」
用件だけ告げると、電話は切れた。
呆然と我が家を見上げる。
見覚えのある家は少しも変わらない。
塀から出ている柿の木は少し大きくなっていた。
幼い頃、木登りして怒られた日々が懐かしい。
今年40歳になるが、ここは永遠に変わらないと思っていた。
帰ってくれば、いつでも温かく迎えてくれる。
そう勝手に思い込んでいた。
だが差し押さえになった我が家へ入る事は出来ない。
軽トラがゆっくりと走り出す。
差し押さえを免れた僅かな家財が荷台で揺れていた。
ワタルはちょこんと頭を下げると、スーツケースの向きを変えて歩き出す。
父親の会社が不渡りを出し、両親が失踪したと連絡を受けた。
「何で相談してくれなかったんだよ。」
思わず愚痴が溢れる。
17年前、定職も持たず、挙げ句の果てに拉致されたワタルを両親は酷く心配した。
「知り合いの会社で、若手の営業を探しているんだ。
面接に行ってみないか?
俺の会社にコネで入るより、その方がいいだろう?」
父親が腫れ物を触る様に聞いてきた。
『どの道コネだろうが。』
内心毒付くが、流石に今回の件で反省していた。
「ああ行ってみるよ。
まあ受かるとは思えないけど。」
反抗する気力は残っていない。
言葉を減らす事で、父親と向き合った。
会社の名前を聞いて驚く。
ワタルでも知っている大企業だ。
父親の会社と取り引きがあるとはいえ、向こうから見たら零細企業だ。
そんな会社に高卒がコネで入れる訳がないと高を括っていた。
だがあっさりと入社出来た。
理由は後に分かる。
半年の研修が終えると、海外赴任の辞令が出た。
ガーナという国名を聞いても、場所はピンとこない。
日本に息子を置いておきたくない父親と悪条件の海外勤務の人材に困っていた会社。
その利害が一致したのだ。
成田からニューヨーク経由で首都のアクラに着くまで、丸一日以上掛かった。
そこから迎えの車に乗り、悪路を五時間以上も走る。
二度と日本へ帰れない気がした。
プランテーションの運用サポートという名目だが、実質は只のお目付け役だった。
不正がない様にお飾りの日本人がいればいいだけだ。
日本人は年配の所長が一人いるだけで、残りは全てガーナ人だった。
「遠い所、大変だったでしょう。
色々不便もありますが、住めば都ですよ。
一緒に頑張りましょう。」
所長の山下が日に焼けた手を差し出してきた。
公用語は英語だが、農園の男達は現地の言葉を話した。
片言の日本語が出来る庶務の女性以外に話す相手は山下だけだ。
ワタルは大変な所に来てしまったと後悔したが、既に手遅れだった。
気ままに過ごした学生時代が懐かしい。
出発前に中嶋宅で送別会を開いてくれた。
そこにナツキの姿はない。
「あれナツキさんは?」
「それが…、発展場へ行くと言って…。
それより最後はどんな責めがお望みですか?
尿道、アナル、乳首、それとも全部でもいいです。
ランマ、責め具を全部持ってきて下さい。」
中嶋の気遣いがありがたい。
ただ最後の望みはナツキのヘッドロックだった。
(つづく)
ワタルは訝しげな視線を受話器に向ける。
「チケットは用意した。
至急帰国してくれ。」
用件だけ告げると、電話は切れた。
呆然と我が家を見上げる。
見覚えのある家は少しも変わらない。
塀から出ている柿の木は少し大きくなっていた。
幼い頃、木登りして怒られた日々が懐かしい。
今年40歳になるが、ここは永遠に変わらないと思っていた。
帰ってくれば、いつでも温かく迎えてくれる。
そう勝手に思い込んでいた。
だが差し押さえになった我が家へ入る事は出来ない。
軽トラがゆっくりと走り出す。
差し押さえを免れた僅かな家財が荷台で揺れていた。
ワタルはちょこんと頭を下げると、スーツケースの向きを変えて歩き出す。
父親の会社が不渡りを出し、両親が失踪したと連絡を受けた。
「何で相談してくれなかったんだよ。」
思わず愚痴が溢れる。
17年前、定職も持たず、挙げ句の果てに拉致されたワタルを両親は酷く心配した。
「知り合いの会社で、若手の営業を探しているんだ。
面接に行ってみないか?
俺の会社にコネで入るより、その方がいいだろう?」
父親が腫れ物を触る様に聞いてきた。
『どの道コネだろうが。』
内心毒付くが、流石に今回の件で反省していた。
「ああ行ってみるよ。
まあ受かるとは思えないけど。」
反抗する気力は残っていない。
言葉を減らす事で、父親と向き合った。
会社の名前を聞いて驚く。
ワタルでも知っている大企業だ。
父親の会社と取り引きがあるとはいえ、向こうから見たら零細企業だ。
そんな会社に高卒がコネで入れる訳がないと高を括っていた。
だがあっさりと入社出来た。
理由は後に分かる。
半年の研修が終えると、海外赴任の辞令が出た。
ガーナという国名を聞いても、場所はピンとこない。
日本に息子を置いておきたくない父親と悪条件の海外勤務の人材に困っていた会社。
その利害が一致したのだ。
成田からニューヨーク経由で首都のアクラに着くまで、丸一日以上掛かった。
そこから迎えの車に乗り、悪路を五時間以上も走る。
二度と日本へ帰れない気がした。
プランテーションの運用サポートという名目だが、実質は只のお目付け役だった。
不正がない様にお飾りの日本人がいればいいだけだ。
日本人は年配の所長が一人いるだけで、残りは全てガーナ人だった。
「遠い所、大変だったでしょう。
色々不便もありますが、住めば都ですよ。
一緒に頑張りましょう。」
所長の山下が日に焼けた手を差し出してきた。
公用語は英語だが、農園の男達は現地の言葉を話した。
片言の日本語が出来る庶務の女性以外に話す相手は山下だけだ。
ワタルは大変な所に来てしまったと後悔したが、既に手遅れだった。
気ままに過ごした学生時代が懐かしい。
出発前に中嶋宅で送別会を開いてくれた。
そこにナツキの姿はない。
「あれナツキさんは?」
「それが…、発展場へ行くと言って…。
それより最後はどんな責めがお望みですか?
尿道、アナル、乳首、それとも全部でもいいです。
ランマ、責め具を全部持ってきて下さい。」
中嶋の気遣いがありがたい。
ただ最後の望みはナツキのヘッドロックだった。
(つづく)
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