妄想日記6<<EVOLUTION>>

YAMATO

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Chapter3(楓編)

Chapter3-①【ツバメのように】前編

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ハワイから帰ってきてから寝汗が酷くなった。
起きると、人の形でシーツが濡れている。
カーテンを開け、朝陽を確認してからシャワーを浴びるのが日課となっていた。
既にこのホテルに三泊目だ。
そろそろ活動をしなくてはと思うのだが、具体的な行動は伴わない。
一階に降り、食堂へ入る。
500円のモーニングを頼み、スマホを眺めた。
求人情報のアプリをただスクロールする。
『やる気、スキルアップ、社会貢献。』
どれも今の自分には遠い存在だ。
かといって、楽して稼ぐ技能を持っている訳ではない。
「はー、脱ぐだけで金にならないかな…。」
食べ飽きたトーストを目の前にして、溜め息しか出てこない。
 
ここでも中国語が飛び交っていた。
皆声が大きく、バイタリティに溢れている。
何処へ行くか、何を食べるか、話は尽きないのだろう。
スマホから視線を上げ、外に向ける。
道行く人は脇目も振らずに目的地を目指していた。
戸惑い、立ち止まっている人等いない。
鳴らないスマホをポケットに仕舞い、ホテルを出た。
 
昨日も一昨日もただ歩いた。
行く当てはないので電車に乗る必要はない。
今日は東へ向かう事にする。
漠然とした目的だが、何もないよりは増しだった。
厚い雲が途切れ、合間から青空が覗く。
瞬く間に青空が勢力を強め、真夏の陽射しに目を細める。
雨の予報だったが、外れの様だ。
薄手のウェアが汗で濡れていく。
乳首が起ち、ジーンズの股間に染みが出来る。
だがそれに視線を留める人はいない。
「ちょっと露骨かな?
一緒にいて恥ずかしくないか?」
誰もいない空間に話し掛けた。
 
今日が何日で何曜日かも覚えていない。
スマホを出し、日曜日である事を知る。
ディスプレイに汗が落ちた。
何処かにタダで休める場所がないか、辺りを見回す。
住宅街の先に森が見えた。
目的地が決まり、歩みを早める。
公園に入ると遊歩道が続いていた。
陽射しが遮られ、速度を落とす。
鬱蒼とした風景の中に鮮やかな色彩を放つ一角があった。
「紫陽花か、何年振りに見ただろう?」
ガーナには勿論なく、自宅の庭に咲いていた記憶に遡る。
幼稚園で貰った紫陽花が根付き、ワタルの成長と共に花の数が増えていった。
だが高校に入った頃からは見た覚えがない。
明るい時間に家にいた事はなく、自宅の景色すら記憶になかった。
 
ランパンを穿いた男が脇を走り抜けていく。
フィットしたタンクトップは濡れて透けていた。
ここが発展公園と気付く。
尻を無駄に振って走るフォームはタイム等気にしてない証拠だ。
ワタルは紫陽花が嫌いだった。
桜の様に潔くない。
何時までも枝にしがみ付き、枯れた姿で夏を迎える。
それが将来の自分と重なった。
若いランナーは紫陽花など目に入らない様だ。
腿に花が当たった。
枯れる前にいっそ落ちてしまえばいいのに。
だが願い通じず、揺れた花は元の位置に戻る。
このまま梅雨が明けてしまえば、枯れる一方なのに。
『お花は萎れてしまいましたが、このままで宜しいですか?』
言い付け通りレイをドアノブに掛けておいたら、メッセージが残っていた。
それを思い出し、帰りにフロントへ寄る事を思い立つ。
 
 
(つづく)
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