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Chapter3(楓編)
Chapter3-⑨【寒い夏】後編
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「隣の駅でやってるんだけど、最近頻繁に来る奴がいるんだ。」
「だったら金になって、いいじゃないか。」
単純な感想を言う。
「僕も最初はそう思ってた。
でも、ちょっと様子がおかしいんだ。」
「様子がおかしいって?」
意味が理解出来ない。
「んー、こんな事言って引かないでよ。」
タクが言い淀む。
「今更、引くかよ。
タクの濡れ場を何度も見てるのに。」
冗談っぽく言い、先を促す。
「お互い様だけど。
僕は他の人が見えないモノを感じるんだ。」
「それって、幽霊が見えるって事か?」
「いや、見えはしない。
ただ感じるだけ。」
タクの吐き出す息が重苦しくのし掛かってきた。
「そのお客さんが金を奮発するから、家に来て欲しいと言うんだ。」
それでタクの真意が分かる。
「付き合ったら分け前くれるのか?」
今は幽霊より金だ。
給料を貰ってないのにジムに入会し、少しでも金が欲しい。
電車に乗ってジムに行くなんて、夢のまた夢だ。
マッチョのうじゃうじゃいるジムを想像し、都合の悪い事から目を逸らす。
「しっかりしてんな。
友達だろ、タダで付き合えよ。
まあ、仕方ない、一万円でどう?」
「なら一緒に行ってやるよ。」
ワタルは金に釣られ、肝心な事を聞くのを忘れた。
「あれっ、ここって…。」
見上げる建物に見覚えがあった。
ユーリのマンションだ。
「知り合い?」
「うん、まあ…。」
曖昧に返事する。
この状況で違う部屋に行くとは思えない。
「あくまでもワタルはアシスタントだからボロ出すなよ。」
タクが念を押す。
「あっ、ワタル…。どうして?」
玄関でユーリがフリーズした。
「私のアシスタントです。
ご存じでしたか。」
タクの言葉がよそ行きに変わる。
「その節はお世話になりました。
今はタク先生のアシスタントをしております。」
ワタルも丁寧に挨拶した。
「そっ、そうか…。
突然の再会で驚いた。
さあ、中に入って。」
ユーリが二足のスリッパを出す。
振り返ったタクがウィンクした。
昼間にも拘わらずカーテンは閉めてある。
「こんな格好ですみません。
ちょっとトレーニングしてたので。
飲み物を用意するので、そこで寛いでいて下さい。」
ぴったりした黒いウェアを来たユーリがソファーを勧めた。
「お構いなく。」
タクは躊躇なく座る。
「座らないの?」
ユーリがキッチンに向かうのを見届けると、タクが小声で聞いてきた。
「あっ、すっ、座るけど。」
このソファーでの淫らなプレイを思い出し、落ち着かない。
「あの格好で待ってたって事は僕に興味があったのかな?
このレザーの染みってアレじゃない?」
タクが小さく笑う。
「だったら俺は邪魔じゃないか。
帰ろうか?」
ワタルは染みから目を逸らし、腰を浮かす。
「冗談だよ。
様子のおかしい奴と二人きりなんてゴメンさ。
ねぇ、この部屋寒くない?」
身震いしたタクが聞いてきた。
確かに寒い。
エアコンは作動していないが、部屋に冷気が充満していた。
(つづく)
「だったら金になって、いいじゃないか。」
単純な感想を言う。
「僕も最初はそう思ってた。
でも、ちょっと様子がおかしいんだ。」
「様子がおかしいって?」
意味が理解出来ない。
「んー、こんな事言って引かないでよ。」
タクが言い淀む。
「今更、引くかよ。
タクの濡れ場を何度も見てるのに。」
冗談っぽく言い、先を促す。
「お互い様だけど。
僕は他の人が見えないモノを感じるんだ。」
「それって、幽霊が見えるって事か?」
「いや、見えはしない。
ただ感じるだけ。」
タクの吐き出す息が重苦しくのし掛かってきた。
「そのお客さんが金を奮発するから、家に来て欲しいと言うんだ。」
それでタクの真意が分かる。
「付き合ったら分け前くれるのか?」
今は幽霊より金だ。
給料を貰ってないのにジムに入会し、少しでも金が欲しい。
電車に乗ってジムに行くなんて、夢のまた夢だ。
マッチョのうじゃうじゃいるジムを想像し、都合の悪い事から目を逸らす。
「しっかりしてんな。
友達だろ、タダで付き合えよ。
まあ、仕方ない、一万円でどう?」
「なら一緒に行ってやるよ。」
ワタルは金に釣られ、肝心な事を聞くのを忘れた。
「あれっ、ここって…。」
見上げる建物に見覚えがあった。
ユーリのマンションだ。
「知り合い?」
「うん、まあ…。」
曖昧に返事する。
この状況で違う部屋に行くとは思えない。
「あくまでもワタルはアシスタントだからボロ出すなよ。」
タクが念を押す。
「あっ、ワタル…。どうして?」
玄関でユーリがフリーズした。
「私のアシスタントです。
ご存じでしたか。」
タクの言葉がよそ行きに変わる。
「その節はお世話になりました。
今はタク先生のアシスタントをしております。」
ワタルも丁寧に挨拶した。
「そっ、そうか…。
突然の再会で驚いた。
さあ、中に入って。」
ユーリが二足のスリッパを出す。
振り返ったタクがウィンクした。
昼間にも拘わらずカーテンは閉めてある。
「こんな格好ですみません。
ちょっとトレーニングしてたので。
飲み物を用意するので、そこで寛いでいて下さい。」
ぴったりした黒いウェアを来たユーリがソファーを勧めた。
「お構いなく。」
タクは躊躇なく座る。
「座らないの?」
ユーリがキッチンに向かうのを見届けると、タクが小声で聞いてきた。
「あっ、すっ、座るけど。」
このソファーでの淫らなプレイを思い出し、落ち着かない。
「あの格好で待ってたって事は僕に興味があったのかな?
このレザーの染みってアレじゃない?」
タクが小さく笑う。
「だったら俺は邪魔じゃないか。
帰ろうか?」
ワタルは染みから目を逸らし、腰を浮かす。
「冗談だよ。
様子のおかしい奴と二人きりなんてゴメンさ。
ねぇ、この部屋寒くない?」
身震いしたタクが聞いてきた。
確かに寒い。
エアコンは作動していないが、部屋に冷気が充満していた。
(つづく)
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