妄想日記6<<EVOLUTION>>

YAMATO

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Chapter3(楓編)

Chapter3-⑪【A HOT SUMMER DAY】前編

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「仲良く三人で暮らしていこう。
楓はさ、雪山と温泉が好きだったんだ。
どこか、温泉地でのんびり暮らそう。」
ユーリの吐く息が白い。
室内の温度は更に下がった様だ。
「それは無理です。
ワタルは僕のアシスタントですから、引き抜きは無用です。」
その声に顔を上げる。
覚束ない足取りが聞こえてきた。
指の隙間から様子を伺う。
「はぁ、はぁ…。
随分な事してくれたな。
お陰で足に力が入らない。」
壁に手を付き、虚ろな視線だ。
「あれっ、量が足りなかったのかな?
先生はもう必要ないから、お引き取り下さい。」
「なら、帰ろうか。
ちょっと手を貸してくれる。」
タクがはにかんだ笑顔を見せた。
 
「なあ誰が見える?
女の人、いる?」
恐る恐る聞く。
「いる訳ないだろ。
全部、こいつの妄想さ。」
タクが言い切る。
「でも、何か気配がするんだ。」
「怖いと思うからそう感じるんだ。
幽霊の正体見たり枯れ尾花さ。
こいつの思う壺だよ。
本当にいたら、僕には感じる筈さ。
ここに霊的な者は一切いない。
いるのは僕とワタルと、こいつだけだ。」
タクがウィンクした。
 
「怖くない、怖くない、怖くない!」
勇気を振り絞り、振り返る。
ソファーで寛いでいるのはユーリだけだ。
女性などどこにもいない。
「騙したな!」
ワタルは吠える。
「騙したのはどっちだ。
お前は俺の目を盗んで、次々に掘られに行ってただろ。
俺の前では従順な振りをして、俺が目を離すと誰彼構わず股を開く。
俺はそれが堪えられなかったんだ。」
ユーリが初めて感情的になった。
「えっ?じゃあ、ユーリが殺したのか?」
予想外の答に混乱する。
「さあ、それはどうかな?
俺には楓が付いているから、どっちとも言えるな。
楓は俺の望みを叶えたくれる…。
いつだって、どんな時だって、どんな願いでもね。
ハワイまで一緒に来てくれるとは思わなかったよ。」
「嘘だ、騙されるな。」
タクが遮る。
「いかさま先生には楓が見えないらしいね。
だったら試してみるか?
なあ楓、この二人にも罰を与えてくれないか。
お前の力を見せてやってくれ。」
ユーリはグラスを持つと、空いたソファーに話し掛けた。
 
タクが耳を押さえて、膝を付く。
「ど、どうしたんだ?」
蹲った姿へ走り寄る。
「耳障りな音が…。」
「えっ、何も聞こえないけど…。
やっ、やっぱいるのか?」
声が震えた。
「違う、そんなんじゃない。
きっと奴の所為だ。
奴を止めてくれ。」
「ど、どうやって?」
「うわぁ、頭が割れそうだ!
兎に角、何とかしろ!」
タクがワタルの尻を蹴飛ばす。
膝が定まらないワタルは上半身が先行し、頭から突っ込む。
「おっと、危ないな。」
ユーリは機敏にジャンプする。
突っ込んできた頭を飛び越え、背中に手を付いて避けた。
だが着地した足が大きく宙に舞い上がる。
受け身も取れずに、ユーリは後頭部をフローリングに強打した。
 
 
(つづく)
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