160 / 190
Chapter7(女優編)
Chapter7-⑩【It's a Hard Life】後編
しおりを挟む
ユウヤは改札には向かわず、ロータリーでタクシーに乗った。
男も次のタクシーに乗る。
ウインカーを出した車はユウヤのタクシーの後ろにぴったり付いた。
ワタルもタクシーに乗り込む。
「前のタクシーと同じ所へ。」
運転手はバックミラーでワタルをちらっと見たが、何も言わずに車を走らせた。
豪華なホテルの車寄せで停まった。
ショルダーバッグを下げた男がロビーに入って行く。
ワタルも続いて入って行くと、フロントにユウヤの姿が見えた。
男はソファーに座り、やはりフロントを見ている。
後ろのソファーに座り、様子を伺う。
スマホを自撮りモードにすると、ディスプレイに男の薄い後頭部が映し出された。
スマホの向きを変え、エントランスを眺める。
白いセーターにサングラスとマフラーをした男が入ってきた。
芸能人然とした男はユウヤの言った若手俳優だろう。
羽田アサヒ、テレビを見ないワタルでも名前を知っている。
ビールのCMに出ていて、祭にもポスターが貼ってあった。
ゲイにもファンは多い。
そのアサヒが真っ直ぐこっちに向かってきた。
顔を上げた男が小さく手を上げる。
『えっ、知り合い?』
ユウヤの情事の相手と記者らしき男が声を潜めた。
ワタルは脇にあった英字新聞を広げて、視線を落とす。
日本人離れした体格でこの新聞を見ていれば、ガードが甘くなる筈だ。
「お前、密会なんだろ?
もっと地味にしろや。
まあ、座れ。」
男がソファーを叩く音が聞こえた。
「小栗さん以外にカメラマンはいないっすよね?
後ろの男は外人か。」
辺りを見回したアサヒがソファーに座る。
男の名前が小栗と分かった。
「キャップをタクシーに忘れちゃってさ、参ったよ。」
「ああ、大丈夫だ。
同業者がいれば、直ぐに分かるさ。」
「早くリーク代くれよ。
今月派手に遊んじゃってさ、金欠なんだ。」
アサヒが声を潜める。
ワタルは新聞紙を捲り、耳に意識を集中した。
「あれっ、少ない。
話と違うじゃないか。
これならユウヤから小遣い貰った方がマシだ。」
「安心しろ、それは手付金だ。
残りの報酬は上手くいってからだ。」
「本当だろうな?」
アサヒの声が大きくなる。
「約束は守る。
俺もジャーナリストだからな。」
「だったら信用するよ。
で、俺はどうすればいいんだ?」
「部屋の鍵を開けておけ。
30分したら、俺が乗り込む。
カメラを向けたら、思い切り淫らな格好で奴に絡め。」
「俺だと分からない様にちゃんと加工しろよ。」
「それも約束だ。
絶対に守る。
俺のターゲットは奴だけだからな。
いや、鎌倉恵と言った方が正しいか。」
小栗の声と共にシャッター音が聞こえた。
「まあ、若手俳優より、大女優の転落の方が雑誌は売れるからな。
俺が消えたところで変わりは山程いるけど、恵さんの変わりはいないよな。
いい写真取れたら、あんたの出世は間違いなしだ。
偉くなったら、たっぷり仕事回してくれよ。
じゃあ、30分後だな。」
アサヒが立ち上がった。
(つづく)
男も次のタクシーに乗る。
ウインカーを出した車はユウヤのタクシーの後ろにぴったり付いた。
ワタルもタクシーに乗り込む。
「前のタクシーと同じ所へ。」
運転手はバックミラーでワタルをちらっと見たが、何も言わずに車を走らせた。
豪華なホテルの車寄せで停まった。
ショルダーバッグを下げた男がロビーに入って行く。
ワタルも続いて入って行くと、フロントにユウヤの姿が見えた。
男はソファーに座り、やはりフロントを見ている。
後ろのソファーに座り、様子を伺う。
スマホを自撮りモードにすると、ディスプレイに男の薄い後頭部が映し出された。
スマホの向きを変え、エントランスを眺める。
白いセーターにサングラスとマフラーをした男が入ってきた。
芸能人然とした男はユウヤの言った若手俳優だろう。
羽田アサヒ、テレビを見ないワタルでも名前を知っている。
ビールのCMに出ていて、祭にもポスターが貼ってあった。
ゲイにもファンは多い。
そのアサヒが真っ直ぐこっちに向かってきた。
顔を上げた男が小さく手を上げる。
『えっ、知り合い?』
ユウヤの情事の相手と記者らしき男が声を潜めた。
ワタルは脇にあった英字新聞を広げて、視線を落とす。
日本人離れした体格でこの新聞を見ていれば、ガードが甘くなる筈だ。
「お前、密会なんだろ?
もっと地味にしろや。
まあ、座れ。」
男がソファーを叩く音が聞こえた。
「小栗さん以外にカメラマンはいないっすよね?
後ろの男は外人か。」
辺りを見回したアサヒがソファーに座る。
男の名前が小栗と分かった。
「キャップをタクシーに忘れちゃってさ、参ったよ。」
「ああ、大丈夫だ。
同業者がいれば、直ぐに分かるさ。」
「早くリーク代くれよ。
今月派手に遊んじゃってさ、金欠なんだ。」
アサヒが声を潜める。
ワタルは新聞紙を捲り、耳に意識を集中した。
「あれっ、少ない。
話と違うじゃないか。
これならユウヤから小遣い貰った方がマシだ。」
「安心しろ、それは手付金だ。
残りの報酬は上手くいってからだ。」
「本当だろうな?」
アサヒの声が大きくなる。
「約束は守る。
俺もジャーナリストだからな。」
「だったら信用するよ。
で、俺はどうすればいいんだ?」
「部屋の鍵を開けておけ。
30分したら、俺が乗り込む。
カメラを向けたら、思い切り淫らな格好で奴に絡め。」
「俺だと分からない様にちゃんと加工しろよ。」
「それも約束だ。
絶対に守る。
俺のターゲットは奴だけだからな。
いや、鎌倉恵と言った方が正しいか。」
小栗の声と共にシャッター音が聞こえた。
「まあ、若手俳優より、大女優の転落の方が雑誌は売れるからな。
俺が消えたところで変わりは山程いるけど、恵さんの変わりはいないよな。
いい写真取れたら、あんたの出世は間違いなしだ。
偉くなったら、たっぷり仕事回してくれよ。
じゃあ、30分後だな。」
アサヒが立ち上がった。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる