妄想日記8<<FLOWERS>>

Chapter5(落日編)

Chapter5-②【Mainstream】

「瓶ビールが一番安上がりなんだ。
これなら付いたホストに別ドリンクを頼まれずに済むし。｣
二人になり、フウガが軽口を叩く。
程よく空調は効いているが、汗びっしょりだ。
武者震いがこちらにまで伝わってくる。
｢よっ、早速来てくれた…。
って、あんたも一緒か。
どんな組み合わせなんだ？｣
カーテンから覗いた顔は驚きを隠せない。
｢お試しで気に入ったから、買いに来ただけだ。
ローターじゃなくて、そのヘチマペニスに掘ってもらいにな。｣
フウガが宣戦布告する。
｢まあ、そんな熱くなるな。
折角店に来てくれたんだ。
楽しく飲もうぜ。
後でゆっくり掘ってやるから。｣
ミッシェルはフウガの隣に密着して座る。
タイトなワンピースの股間ははち切れそうだ。
｢好きなだけ触ってくれ。
先走りがたっぷり出たら、極楽へ行かしてやるから。｣
相変わらず口調はサービス業に相応しくない。
しかし昼間の突っ慳貪さは影を潜めていた。
｢こっからは告知義務だ。
オプションのアナルセックスはゴムありはC、なしはBだ。
生憎、俺のマラに合うゴムはない。
必然的にBになるが、構わないか？｣
フウガの耳朶に舌が這う。
｢ああ、大丈夫だ。｣
股間を撫でる二頭筋に血管が浮かぶ。
｢お待たせしました。｣
カノンが戻ってきた。
白いスイムウェアが眩しい。
淫らさは微塵もなく、体操選手を思わせる。
｢お前、指名されたのか？｣
キョトンとしたミッシェルが聞く。
｢はい、初指名です。
ミッシェルさんのお陰です。｣
照れ顔が深々とお辞儀した。
 
｢それではゆっくりお寛ぎ下さいませ。｣
葵ママは早々と去っていった。
全裸のフウガはミッシェルの上に股がっている。
顔を後方へ向け、唇を貪っていた。
｢今月から正規採用されたばかりで…。
つまらなくないですか？｣
カノンがビールを注ぐ。
それを一気に飲み干す。
｢瓶ビールもう一本お願いします。」
レディースの水着を着るカノンに卑猥さは感じられない。
本人も全く意識してない様だ。
来店時のネクタイ姿と印象は変わらなかった。
ここからが本題だ。
「まさか、そんな衣装迄、用意してあるとは思わなかったよ。」
「これはかなり人気があって、必須の衣装です。
望まれるお客様は多いですよ。
筋肉隆々のショーンさんやミッシェルさんに着せたがるお客様が特に多いです。
私もミッシェルさんに倣って、筋トレに励んでいるところです。」
カノンが小さな力瘤を作って、笑いを誘う。
「そっか、意外と人気なのか…。」
稀なフェチでない事を知り、少し気が楽になる。
ヒュウガは平均値にいる事で安心を覚えた。
多数派に紛れる事で、目立たない様に一般人を装って生きてきたのだ。
少数派に入る事は不安の種となる。
｢ここの前は何をしてたんだい？｣
グラスを置いたタイミングで聞く。
多数派に入った事で、一抹の不安は消え去っていた。
｢実はボクシングやってました。｣
脂肪が少ない筋肉の訳に納得する。
｢でも過去形？｣
｢はい、視力欠損で現役続行出来なくなりました。｣
｢あっ、ごめんな。
嫌な事、聞いちゃって。｣
早々に失態を犯してしまう。
｢いや、今はそれで良かったと思ってます。
お陰でこの仕事に就けましたから。｣
この笑顔が見せ掛けでない事を知り、安堵する。
 
(つづく)