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Chapter2(Strange Man編)
Chapter2-⑩【夏の幻影(シーン)】
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クラマが腕で口を拭う。
乾きかけたザーメンが小便を浴び、再び活性化していく。
それを呆然と眺めた。
芳しい香りが思考を鈍らせる。
「で、どうだ?会えるか?」
クラマが一歩詰め寄る。
一歩後退ると、濡れた草が鳴った。
「今はつ、連れがいるんで…。
ジムで働いているんで、よ、良かったら今度来ませんか?」
吃りながら、言葉を選ぶ。
ジムの場所を説明すると、ニヤリと笑う。
「今、噂のエロジムか!
面白そうだな。
近い内に見学に行くぜ。」
クラマはゲップをすると、茂みから出て行った。
帰り際のクラマがウェアを差し出す。
「汚しちまって、悪かったな。」
強面な面構えが照れ顔に変わる。
「じゃあな。」
クラマが大股に歩いて行く。
びっしょり濡れた感触に複雑な心境になった。
『これを着て帰るのか…。』
着替えは持ってない。
携帯を見ると三時前だ。
天空を仰ぎ見る。
この初夏の陽射しに期待するしかない。
ムサシは再び眠り込んでいた。
鼾は一層大きくなっている。
これでは眠れそうもない。
横になり、流れる雲を追い掛ける。
様々な形の雲が、追いかけっこをしている様だ。
次の鬼を待っていると、いつしか微睡みの中にいた。
着信音で目を覚ます。
「電話が鳴ってます。」
肩を揺らす。
目を開けたムサシが大きく欠伸をした。
「もっし~。ああ、俺。
ん、昨日持って行ったっすよ。
一丁目のマンションでしょ?」
ムサシの声を遠くで聞く。
この後の事で頭が一杯だ。
どこまで受け入れていいか迷う。
ドラッグに対して、興味と恐怖が交錯する。
『果たして、自分は完全に拒絶出来るだろうか?
いや、絶対に断るんだ!』
自分自身を叱咤した。
「マジかよ!
んな、馬鹿な!」
張り上げた声の主を見る。
興奮した顔が赤く染まっていた。
「ああ、分かったっすよ。
なるべく早く行くっす。
ったくよ!」
忌々しげに携帯を睨んでいる。
「どうしたんですか?」
不安を押し隠して聞いてみた。
不機嫌な人と一緒にいるのが一番苦手だ。
「昨日配達した荷物が届いてないと、苦情が来たって。
悪いっすけど、営業所に顔を出して来るっす。」
気忙しく着替え出す。
「この埋め合わせは今度するんで、すんません。」
ムサシは慌ただしく行ってしまった。
呆気ない幕切れだ。
ムサシとの淫行をあれこれ考えた自分が、馬鹿みたいに思えた。
時計を見ると、既に五時近い。
帰ろうと、ウェアを手にする。
まだ若干湿り気が残っていた。
生臭さが鼻を突く。
回りに誰もいない事を確認し、鼻にウェアを押し当てる。
ザーメンか唾液か分からないが、饐えた臭いが鼻腔を擽った。
萎え掛けたマラが活気を戻り出す。
手が股間に移動する。
背後で葦の擦れる音がした。
慌てて振り向くと、人影が動く。
急いでウェアを着ると、人影が消えた叢の奥に行ってみる。
先程クラマと小便をした場所に辿り着く。
そこはどん詰まりで、高い葦が行く手を阻んでいた。
『気の所為かな?
いや、確かに影が動いた。
かなり大きな男で、眼鏡を掛けていた…。』
辺りを見回す。
「私の事を探しているのですか?」
突然、声がした。
「うわぁ!」
思わず悲鳴をあげてしまう。
「丸で幽霊を見たような声ですね。」
男の口角が上がる。
三十歳前後だろうか、エリート然としていた。
縁なし眼鏡の下の爽やかな笑顔は人気俳優を連想させる。
ただ白いタンクトップとロングタイツは無機質で、現実感を伴わない。
幽霊だと言われれば、信じてしまいそうだ。
「あんな見通しのいい所で自慰するとは大胆過ぎです。
おっと、話をする時は名乗らなければいけませんね。
私は板野と申します。」
男が手を差し出す。
「あっ、どうも…。
タカユキと言います。」
狐につままれた思いで、差し出された手を握り締める。
風がアクアの香りを運んで来た。
どこかアンバランスな印象を受けた。
視線が板野の股間に留まる。
その盛り上げに、目が釘付けになった。
真横に横たわる巨木は20センチを越えているだろう。
無駄な脂肪のない筋肉には、相容れない巨大さだ。
「もう、離していいですか?」
動きの止まったタカユキに、苦笑した板野が聞く。
「あっ、すみません…。」
慌てて手を離す。
「では私は行きます。
タカユキさんとは、また会えそうな気がします。
楽園から追放されない様に注意して下さい。
あなたがリンゴを食べない事を祈っています。」
板野は踵を返すと、叢から出て行った。
ぼんやりしていると、頬に雨粒が当たる。
上空を見上げると、空半分がどんよりした厚い雲に覆われていた。
走って河原に出たが、板野の姿はどこにもない。
『幻覚?錯覚?』
夏の始めに起こった幻影に、胸の高まりと不安を同時に感じた。
(完)
乾きかけたザーメンが小便を浴び、再び活性化していく。
それを呆然と眺めた。
芳しい香りが思考を鈍らせる。
「で、どうだ?会えるか?」
クラマが一歩詰め寄る。
一歩後退ると、濡れた草が鳴った。
「今はつ、連れがいるんで…。
ジムで働いているんで、よ、良かったら今度来ませんか?」
吃りながら、言葉を選ぶ。
ジムの場所を説明すると、ニヤリと笑う。
「今、噂のエロジムか!
面白そうだな。
近い内に見学に行くぜ。」
クラマはゲップをすると、茂みから出て行った。
帰り際のクラマがウェアを差し出す。
「汚しちまって、悪かったな。」
強面な面構えが照れ顔に変わる。
「じゃあな。」
クラマが大股に歩いて行く。
びっしょり濡れた感触に複雑な心境になった。
『これを着て帰るのか…。』
着替えは持ってない。
携帯を見ると三時前だ。
天空を仰ぎ見る。
この初夏の陽射しに期待するしかない。
ムサシは再び眠り込んでいた。
鼾は一層大きくなっている。
これでは眠れそうもない。
横になり、流れる雲を追い掛ける。
様々な形の雲が、追いかけっこをしている様だ。
次の鬼を待っていると、いつしか微睡みの中にいた。
着信音で目を覚ます。
「電話が鳴ってます。」
肩を揺らす。
目を開けたムサシが大きく欠伸をした。
「もっし~。ああ、俺。
ん、昨日持って行ったっすよ。
一丁目のマンションでしょ?」
ムサシの声を遠くで聞く。
この後の事で頭が一杯だ。
どこまで受け入れていいか迷う。
ドラッグに対して、興味と恐怖が交錯する。
『果たして、自分は完全に拒絶出来るだろうか?
いや、絶対に断るんだ!』
自分自身を叱咤した。
「マジかよ!
んな、馬鹿な!」
張り上げた声の主を見る。
興奮した顔が赤く染まっていた。
「ああ、分かったっすよ。
なるべく早く行くっす。
ったくよ!」
忌々しげに携帯を睨んでいる。
「どうしたんですか?」
不安を押し隠して聞いてみた。
不機嫌な人と一緒にいるのが一番苦手だ。
「昨日配達した荷物が届いてないと、苦情が来たって。
悪いっすけど、営業所に顔を出して来るっす。」
気忙しく着替え出す。
「この埋め合わせは今度するんで、すんません。」
ムサシは慌ただしく行ってしまった。
呆気ない幕切れだ。
ムサシとの淫行をあれこれ考えた自分が、馬鹿みたいに思えた。
時計を見ると、既に五時近い。
帰ろうと、ウェアを手にする。
まだ若干湿り気が残っていた。
生臭さが鼻を突く。
回りに誰もいない事を確認し、鼻にウェアを押し当てる。
ザーメンか唾液か分からないが、饐えた臭いが鼻腔を擽った。
萎え掛けたマラが活気を戻り出す。
手が股間に移動する。
背後で葦の擦れる音がした。
慌てて振り向くと、人影が動く。
急いでウェアを着ると、人影が消えた叢の奥に行ってみる。
先程クラマと小便をした場所に辿り着く。
そこはどん詰まりで、高い葦が行く手を阻んでいた。
『気の所為かな?
いや、確かに影が動いた。
かなり大きな男で、眼鏡を掛けていた…。』
辺りを見回す。
「私の事を探しているのですか?」
突然、声がした。
「うわぁ!」
思わず悲鳴をあげてしまう。
「丸で幽霊を見たような声ですね。」
男の口角が上がる。
三十歳前後だろうか、エリート然としていた。
縁なし眼鏡の下の爽やかな笑顔は人気俳優を連想させる。
ただ白いタンクトップとロングタイツは無機質で、現実感を伴わない。
幽霊だと言われれば、信じてしまいそうだ。
「あんな見通しのいい所で自慰するとは大胆過ぎです。
おっと、話をする時は名乗らなければいけませんね。
私は板野と申します。」
男が手を差し出す。
「あっ、どうも…。
タカユキと言います。」
狐につままれた思いで、差し出された手を握り締める。
風がアクアの香りを運んで来た。
どこかアンバランスな印象を受けた。
視線が板野の股間に留まる。
その盛り上げに、目が釘付けになった。
真横に横たわる巨木は20センチを越えているだろう。
無駄な脂肪のない筋肉には、相容れない巨大さだ。
「もう、離していいですか?」
動きの止まったタカユキに、苦笑した板野が聞く。
「あっ、すみません…。」
慌てて手を離す。
「では私は行きます。
タカユキさんとは、また会えそうな気がします。
楽園から追放されない様に注意して下さい。
あなたがリンゴを食べない事を祈っています。」
板野は踵を返すと、叢から出て行った。
ぼんやりしていると、頬に雨粒が当たる。
上空を見上げると、空半分がどんよりした厚い雲に覆われていた。
走って河原に出たが、板野の姿はどこにもない。
『幻覚?錯覚?』
夏の始めに起こった幻影に、胸の高まりと不安を同時に感じた。
(完)
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