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Chapter4(Remember You編)
Chapter4-③【Amazing】
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「今日は夕方で上がりですよね?
一杯行きませんか?」
ハーネスを装着した仁藤が満足げに誘ってきた。
放心状態で、曖昧に頷いてしまう。
「乾杯!気分はどうですか?」
ジョッキを重ねた仁藤がニンマリと笑う。
20センチ超えの巨大ディルドを全く意に介していない様子だ。
立場は完全に逆転し、仁藤のペースに嵌ってしまう。
小さめのTシャツではハーネスの膨らみを隠し切れない。
仁藤は却って、その露出加減を愉しんでいた。
腸内の圧迫に耐え切れず、貧乏揺すりが止まらない。
便意が波状に襲ってくる。
「苦悶を浮かべタカユキさんと飲む酒は格別に美味いです。」
仁藤は次々に追加注目をした。
「タカユキさんみたいなナルシストなMにはもっと過激で、えげつない格好にさせた
いですな。」
焼鳥を頬張る口は饒舌だ。
「どうです、来週の休みの日に海へ行きませんか?
タカユキさんにぴったりなウェアを用意しておきます。」
舌が脂ぎった唇に付いた泡を掬い取る。
尖った先端は必要以上に伸びていた。
「ええ、休みの日なら、大…、丈夫です。」
便意と戦いながら答える。
「今度はドタキャンしないで下さいよ。」
仁藤は口元を緩め、嫌味たらしい注文を口にした。
以前、日サロに行かなかった事を言っているらしい。
あの時は仁藤が一方的に待ってると言っただけだ。
タカユキは行くとも行かないとも答えていない。
言い返そうとも思ったが、便意が先に立ち、どうでもよくなった。
早く酔って、便意を忘れたい。
店員を呼び、ジョッキを頼む。
「大ジョッキをもう一つ追加して下さい。
私はこう見えても、学生時代は水泳部だったのです。
競争しませんか?
もし負けたら、タカユキさんの命令に絶対服従しますよ。
ジムで幾らでも買い物します。」
自信満々に挑発してきた。
『水泳部…、三浦リョウ…。』
忌ま忌ましい名前が、仁藤の脳裏に蘇る。
『アイツの所為で、俺の人生は狂ったんだ!』
ジョッキを一気に傾け、ビールを呷る。
「水泳部には入ってないけど…。
よし、やりましょう!」
声を張って承諾する。
水泳部には入っていないが、スイミングスクールには通っていた。
前のクラブではジュニアのコーチも担い、泳ぎには自信がある。
40歳過ぎの仁藤に負ける訳がない。
「では決まりです!
勿論、私が勝った場合はタカユキさんが絶対服従です。
いいですね!」
物思いに耽っていた仁藤は急に立ち上がり、強い眼差しを向けてきた。
帰りのタクシーの中、蘇った憎しみは増幅する一方だ。
東京の大学に行ってからの三浦の行方は知らない。
事ある毎に見えない陰に怯えたが、そこには誰もいなかった。
怯えているだけでは駄目だと悟る。
恐怖をいつしか憎悪へ変わっていく。
いつか会った時に復讐する事だけを糧に、30年間トレーニングに励んできた。
青春時代の思い出は憎しみしかない。
しかし40代に入る頃には、三浦の存在を思い出す事も少なくなっていた。
毎日筋トレで追い込む事で、眠りは深い。
睡眠は筋肉を肥大させてくれた。
より追い込む事で、恐怖や憎悪を克服出来る事を知ったのだ。
穏やかな日々はこの先もずっと続く筈だった。
数ヶ月前、何気なく手にした週刊誌で懐かしい顔を見る迄は。
目線の入った年配者だが、三浦に間違いない。
イニシャルMRがそれを裏付けた。
心の中に小さな波紋が浮かんだ。
過去の事だと、トレーニングに打ち込む。
波紋は日増しに大きくなり、巨大な渦潮となる。
その渦に巻き込まれぬ様、仁藤は必死に藻掻いた。
『売れっ子映像プロデューサー、秘められたゲイライフ』
三浦が本当に売れっ子かどうかは怪しい。
名前がクレジットされている映画やミュージッククリップの一覧が記載されていた。
どれもメジャーな作品ばかりだ。
クラブのVIPルームで錯乱状態になったMRがナイフを振りかざし、立て篭もったと書
かれていた。
ただ証言者も少なく、被害届けもないミステリアスな事件として、面白可笑しく書い
てある。
MRがゲイクラブを主催し、君臨していたと、ゲイの証言まで載っていた。
『遂にリョウに会える。
神様が巡り会わせてくれた。』
仁藤は感慨深げに目を閉じる。
しかし時の人となった男に今は接近出来ない。
『急ぐ必要はない。
半年も過ぎれば、リョウがいなくなっても誰も騒がない。』
ほとぼりが冷めるまでタカユキに目先を向け、気を紛らわす事にする。
穏やかな日々が終焉を迎えた事を、仁藤自身が一番良く分かっていた。
(つづく)
一杯行きませんか?」
ハーネスを装着した仁藤が満足げに誘ってきた。
放心状態で、曖昧に頷いてしまう。
「乾杯!気分はどうですか?」
ジョッキを重ねた仁藤がニンマリと笑う。
20センチ超えの巨大ディルドを全く意に介していない様子だ。
立場は完全に逆転し、仁藤のペースに嵌ってしまう。
小さめのTシャツではハーネスの膨らみを隠し切れない。
仁藤は却って、その露出加減を愉しんでいた。
腸内の圧迫に耐え切れず、貧乏揺すりが止まらない。
便意が波状に襲ってくる。
「苦悶を浮かべタカユキさんと飲む酒は格別に美味いです。」
仁藤は次々に追加注目をした。
「タカユキさんみたいなナルシストなMにはもっと過激で、えげつない格好にさせた
いですな。」
焼鳥を頬張る口は饒舌だ。
「どうです、来週の休みの日に海へ行きませんか?
タカユキさんにぴったりなウェアを用意しておきます。」
舌が脂ぎった唇に付いた泡を掬い取る。
尖った先端は必要以上に伸びていた。
「ええ、休みの日なら、大…、丈夫です。」
便意と戦いながら答える。
「今度はドタキャンしないで下さいよ。」
仁藤は口元を緩め、嫌味たらしい注文を口にした。
以前、日サロに行かなかった事を言っているらしい。
あの時は仁藤が一方的に待ってると言っただけだ。
タカユキは行くとも行かないとも答えていない。
言い返そうとも思ったが、便意が先に立ち、どうでもよくなった。
早く酔って、便意を忘れたい。
店員を呼び、ジョッキを頼む。
「大ジョッキをもう一つ追加して下さい。
私はこう見えても、学生時代は水泳部だったのです。
競争しませんか?
もし負けたら、タカユキさんの命令に絶対服従しますよ。
ジムで幾らでも買い物します。」
自信満々に挑発してきた。
『水泳部…、三浦リョウ…。』
忌ま忌ましい名前が、仁藤の脳裏に蘇る。
『アイツの所為で、俺の人生は狂ったんだ!』
ジョッキを一気に傾け、ビールを呷る。
「水泳部には入ってないけど…。
よし、やりましょう!」
声を張って承諾する。
水泳部には入っていないが、スイミングスクールには通っていた。
前のクラブではジュニアのコーチも担い、泳ぎには自信がある。
40歳過ぎの仁藤に負ける訳がない。
「では決まりです!
勿論、私が勝った場合はタカユキさんが絶対服従です。
いいですね!」
物思いに耽っていた仁藤は急に立ち上がり、強い眼差しを向けてきた。
帰りのタクシーの中、蘇った憎しみは増幅する一方だ。
東京の大学に行ってからの三浦の行方は知らない。
事ある毎に見えない陰に怯えたが、そこには誰もいなかった。
怯えているだけでは駄目だと悟る。
恐怖をいつしか憎悪へ変わっていく。
いつか会った時に復讐する事だけを糧に、30年間トレーニングに励んできた。
青春時代の思い出は憎しみしかない。
しかし40代に入る頃には、三浦の存在を思い出す事も少なくなっていた。
毎日筋トレで追い込む事で、眠りは深い。
睡眠は筋肉を肥大させてくれた。
より追い込む事で、恐怖や憎悪を克服出来る事を知ったのだ。
穏やかな日々はこの先もずっと続く筈だった。
数ヶ月前、何気なく手にした週刊誌で懐かしい顔を見る迄は。
目線の入った年配者だが、三浦に間違いない。
イニシャルMRがそれを裏付けた。
心の中に小さな波紋が浮かんだ。
過去の事だと、トレーニングに打ち込む。
波紋は日増しに大きくなり、巨大な渦潮となる。
その渦に巻き込まれぬ様、仁藤は必死に藻掻いた。
『売れっ子映像プロデューサー、秘められたゲイライフ』
三浦が本当に売れっ子かどうかは怪しい。
名前がクレジットされている映画やミュージッククリップの一覧が記載されていた。
どれもメジャーな作品ばかりだ。
クラブのVIPルームで錯乱状態になったMRがナイフを振りかざし、立て篭もったと書
かれていた。
ただ証言者も少なく、被害届けもないミステリアスな事件として、面白可笑しく書い
てある。
MRがゲイクラブを主催し、君臨していたと、ゲイの証言まで載っていた。
『遂にリョウに会える。
神様が巡り会わせてくれた。』
仁藤は感慨深げに目を閉じる。
しかし時の人となった男に今は接近出来ない。
『急ぐ必要はない。
半年も過ぎれば、リョウがいなくなっても誰も騒がない。』
ほとぼりが冷めるまでタカユキに目先を向け、気を紛らわす事にする。
穏やかな日々が終焉を迎えた事を、仁藤自身が一番良く分かっていた。
(つづく)
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