妄想日記3<<RISING>>

YAMATO

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Chapter4(Remember You編)

Chapter4-⑥【白昼夢】

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ホイッスルがけたたましく鳴っている。
残り半分を切っている筈だ。
無呼吸泳法に切り換える。
先行する足に手が届きそうな距離まで縮まった。
バタ足が作る泡が顔に当たる。
仁藤にスタート時のスピードはもうない。
泡群を脱出し、一気に抜きに掛かる。
群青の先にゴールが見えた。
歪んだ顔が後方へ下がっていく。
その時、伸びた手が水着に掛かった。
「あっ!」口から大量の泡が漏れる。
膝まで下がった水着で脚が縺れた。
藻掻けば藻掻く程、水を飲み込んでしまう。
小さい頃から泳いでいるが、溺れた事はない。
意識が遠退く中、誰かが身体を支えてくれるのが分かった。
 
「ゲホッ、ゴホッ!」
涙で前が見えない。
ぼやけたタオルが揺れている。
それで顔が拭われた。
焦点が徐々に合っていく。
「大丈夫ですか?」
眼鏡男が覗き込んでいた。
「ゲホッ、だ、大丈夫…。」
口元を拭い、急いで立ち上がる。
決して大丈夫ではないが、恥ずかしさの方が先に立つ。
プールサイドには人だかりが出来ていた。
「救護室に行きましょうか?」
心配そうな眼差しが聞く。
「マジ…、全然平気です。」
俯き加減で人垣を掻き分け、先へ進む。
この場を早く脱出したい。
「あれほど警告したのに。」
付いて来た眼鏡男が言い捨てる。
「幾ら勝つ為でも、あんな事するとは思わなかったんだ。」
言い返す言葉に勢いはない。
「そう言えば一緒にいた男は?」
辺りを見回す。
「とっとと逃げましたよ。」
眼鏡男が苦笑した。
 
「そっかぁ。」
荷物を置いた場所に戻ると、タカユキの分だけポツンと残っていた。
「血が出てます。
救護室に行きましょう。
消毒してあげます。」
眼鏡男が手を引っ張る。
腰から尻に掛けてミミズ腫れになって、血が流れていた。
抵抗する気力もなく、素直に従う。
「あなたが助けてくれたのですか?」
整った横顔に聞く。
「また会いました。」
小さく笑った顔に確信を得た。
「板野…さん?」
胸が高鳴るのは溺れた所為ではなさそうだ。
 
「不躾ですが、少しは人を疑った方がいいです。
皆が皆、善い人ばかりではありません。」
板野が消毒液に浸した脱脂綿を傷口に当てる。
「い、痛い!」
ベッドの上で悲鳴をあげた。
「そんな事は分かっています。
でも、板野さんみたいな善人もいるじゃないですか?」
俯せのまま板野の股間を盗み見する。
ビーチで見た亀頭リングが、胸裏を揺さ振った。
「どうして私が善人だと思うのですか?
まだ二回しか会っていませんが?
はい、終わりました。」
絆創膏を貼ると、ポンと尻を叩かれた。
「そんな事は分かるさ。
プールで助けてくれたし、こうして介抱してくれたじゃないか?」
微睡の中、揺れる影に答える。
「そんな事で善人だと思ったのですか?
一緒にいた男が溺れても、私は助けました。
それが仕事ですから。」
板野が腹を抱えて笑い出した。
馬鹿にされた様でムッとしたが、瞼が重い。
「そんな甘い考えでは、親切そうに近付いて来た男に鴨られますよ。
そして、外国の金持ちに売り飛ばされてしまいます。」
声が遠退いていく。
「そんな馬鹿な…。
戦後直ぐじゃあるまいし…。」
タカユキはニヤニヤしながら眠りに落ちていった。
 
「ご気分はどうですか?」
肩を揺すられて、目が覚めた。
目の前に真っ黒に焼けた女性が立っている。
競泳用の水着を見て、記憶が徐々に蘇ってきた。
「板野さんは?」
頬を叩きながら聞いてみる。
「板野さん…ですか?
従業員にそのような名前の者はいませんが…。 」
狼狽気味に答えた。
「いや、今一緒にいた…。
あっ、何でもないです。」
ベッドから下りると、ピョンピョンとジャンプして見せる。
「この通り大丈夫です。
ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。」
頭を下げると、朝勃ちしたマラが、小さなビキニを持ち上げていた。
飛び上がる度に腹を打つ。
「…いえ。お大事に…。」
頬を染めた女性が消え入りそうな声で見送ってくれた。
 
 
(つづく)
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