妄想日記3<<RISING>>

YAMATO

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Chapter7(Dies Irae編)

Chapter7-②【約束の場所】

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三人で木戸を抜ける。
ジェームスが賛辞の形容詞を並べ立てた。
広々としたテラスが気に入った様子だ。
ダイニングテーブルにアタッシュケースを置く。
座り易い様にケンゴが椅子を引いた。
葉巻を咥えると、後方から手を伸ばして火を点ける。
冷蔵庫から冷えたワインとグラスを出し、ジェームスに注ぐ。
丸で執事の如く、手際よくケンゴは働いた。
何か手伝おうかと思うが、足が言う事を聞かない。
ジェームスは穏やかな笑みを口元に湛えて、タカユキを見詰める。
背後に向かって話し出す。
ケンゴは身を屈め、耳を寄せている。
「隣に座って、一緒に飲めってさ。」
そう言うと、冷蔵庫からもうひとつワイングラスを運んできた。
 
ジェームスは50代半ばだろうか。
ツルツルに禿げ上がった頭に、ブラウンの髭を口と顎に蓄えていた。
食事中から微笑みを絶やさず、いかにも英国紳士といった感じだ。
指示通り、隣の椅子に座る。
ジェームスが部屋の中を指差す。
ケンゴに部屋の中で待機する様に命じた。
グラスを傾け、真っ赤なワインを揺らしてみる。
このまますんなりと終わる気がしてきた。
ミスさえしなければ良いのだ。
ワインを注ぐのにも細心の注意を払う。
葉巻を勧められた。
煙草すら吸った事がなく、大きく息を吸い込む。
咥えると、火を点けてくれた。
しかし煙も匂いもキツく、噎せ返ってしまう。
足元から舞い上がる煙がジェームスの顔を覆った。
風が吹き、紫煙の向きが変わる。
穏やかだった表情から笑みが失せていく。
落とした葉巻を拾うと、手の甲に押し付けてきた。
「うぎゃあぁ!!!」
悲鳴が夜空を劈く。
 
「Hey KEN!」
手を叩き、ケンゴを呼ぶ。
「Yes sir!」
撮影時に着ていたメッシュの全身タイツ姿のケンゴが現れた。
結んだ左拳は胸の前に置き、右手はピンと頭上に伸びている。
絶対服従を体現していた。
指示を受けたケンゴが歩み寄る。
上下する肩からジャケットを脱がす。
そしてワイシャツの腕を捲し上げた。
「もう抵抗するな。
お前を傷付けたくないんだ。
代われるものなら代ってやりたいけど…。」
跪いたケンゴが耳元で囁く。
「嘘だ…。」
小声で遮る。
「嘘なもんか。
大切なお前が苦しむ所を見たくない。」
叩かれた腕に、血管が浮かび上がった。
 
「クラブ、ダンス、焼肉、マンゴー、日焼け、ガガ、ジャンプ…。」
歌う様に単語を並べる。
「それって…。」
ケンゴの言葉が詰まった。
「そして岩佐さん。
そう、ケンゴの好きな物。
俺はケンゴの好きな物をひとつ残らず言える。
ケンゴは俺の好きな物をひとつでも言える?」
淡々と思いの丈を伝える。
「俺だって、お前が…。」
答えが浮かばない唇は動きを止めた。
「俺を好きだなんて、無理するなよ。
俺はケンゴの側にいれるだけで充分だった。
でも、今日で最後みたいだね。
俺は誰の言いなりにもならない。
もう行くよ。」
ゆっくりと立ち上がる。
別れが直ぐそこまで来ていた。
「バカ!早まるな。
ここはタイだぞ。」
ケンゴが腕を引っ張る。
ジェームスがアタッシュケースを広げ、注射器を取り出す。
「お前さ、岩佐の恐ろしさを知らないんだ。
大体、日本までどうやって帰るんだ?」
上辺だけの説得に耳を貸す気はもうない。
「何とかなるさ。」
それを振り払い、ケンゴに背を向ける。
『KENKOUSO』
ドラッグクイーンのメッセージの意味がやっと分かった。
『ケンゴ、嘘』
ケンゴと岩佐の会話を聞いていた彼女からの忠告だったのだ。
 
腹にずっしりと重い鉛を喰らった。
膝から崩れ落ちる。
見上げる先に、引き攣った顔があった。
「何ですか、この無様な失態は!」
岩佐の靴先がケンゴの頬に突き刺さる。
頬を押さえ、怯えた表情が岩佐を見詰めた。
「しがないエロビモデルのあなたに、裕福な思いをさせてあげたのは誰のお陰だと
思っているんですか!」
革靴がケンゴの股間を踏みにじる。
「うわぁ!分かった!
分かったから、止めてくれ!」
泣き叫ぶ声を初めて聞いた。
「なら、あなたがタカユキさんに注射しなさい。
いつも自分でしているのだから出来るでしょう。」
言い終わると、突っ張った笑みをジェームスに向けた。
無礼を詫び、注射器を受け取る。
それをケンゴに渡した。
震える手がシリンジを握る。
腹を押さえて蹲ったままの腕を持つ。
「悪いな、俺は今の生活を失いたくないんだ。」
「嘘だ!」
手を引くが、微動だにしない。
針が腕に刺さる。
プランジャが押され、シリンジに満たされた液体が体内に吸い込まれていった。
 
 
(つづく)
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