妄想日記3<<RISING>>

YAMATO

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Chapter7(Dies Irae編)

Chapter7-③【常夜灯】

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「薬が効くまで、中で飲み直して来ます。
しっかり監視しておきなさい。」
岩佐は言い残し、ジェームスをエスコートして部屋へ入って行った。
タカユキは虚ろな目でダイニングテーブルに寄り掛かっている。
「単なる筋弛緩剤だ。
ジェームスは正真正銘のドクターだから、心配すんな。
それに薬があった方がいいぜ。
奴は真正のSだ。
素面なら発狂しちまうからな。」
隣に座って、語り出す。
タカユキは開き放しの瞳孔を一点に向けていた。
「ジェームスは元々俺の客だったんだ。
相手をした後は三日は起きれない。
死にかけた事もある。」
聞こえている筈だが、反応はない。
「でもな、発想を逆転させたんだ。
ジェームスが日本に来るのは年に一回。
多くて二回だ。
一回相手をすれば、半年180日は遊んで暮らせるんだぜ。」
自分に掛けた暗示を繰り返す。
説得力がない事はケンゴ自身が一番分かっていた。
ケンゴの中で掻き消せない不安が渦巻く。
まさかと思い、ガラス窓から中を覗く。
ワインを傾けながら、二人は談笑している。
ジェームスが持つ手術用のメスが、宝石の様に光った。
慌てて身を隠す。
全身に汗が溢れ出す。
それはねっとりとしていて、流れ落ちない。
膝を抱え、ガクガクと震えた。
 
ジェームスはスキンマニアだった。
人の皮膚を切り取ってはコレクションにしている。
映画『羊たちの沈黙』の犯人バッファロー・ビルと同じだ。
一年前、ジェームスにコールされた時に背中の皮を5センチ四方切り取られた。
岩佐は病院に行く事を拒んだ。
与えられた市販薬を必死に飲み続ける。
一ヶ月近く起き上がれず、傷口はグロテスクに盛り上がっていた。
それ以来、人前で全裸を曝していない。
人は欲望を満足させる事がないと知った。
5センチ四方のスキンが取れれば、次は10センチ四方が欲しくなる。
そして最終的には人間ひとり分を欲する訳だ。
ジェームスが最終的な欲望を満たす時に、自分が居合わせない事を祈る事しか出来な
い。
今日かもしれないと思うと、震えが止まらなかった。
『幹部になるのと、死ぬのがどちらが早いか?』
何度も岩佐の下を離れようと考え、その度にズルズルと引き延ばしてきた。
とっとと裕福な生活を手放し、貧乏な生活に戻れば良い。
分かっていたが、次のジェームスの来日までと決心が鈍る。
その代償がこの有様だ。
ケンゴも欲望に抗い切れずにいた。
充分な金を貰っていたが、あればあるだけ浪費してしまう。
そして更なる金を欲した。
欲望が新たな欲望に飲み込まれたのだ。
頭を抱え、ここからの脱出法を考える。
『独りで逃げるか、タカユキを連れて行くか?』
思い悩むが、名案は浮かばない。
一人なら、脱出は可能に思えた。
だがタカユキを置いていって、万が一殺されでもしたら一生苦しむだろう。
 
這い蹲って、タカユキに近寄る。
タカユキの頬を叩くが、焦点が定まらない。
『仕方ない。とりあえず表に出て、助けを呼ぶか。』
ケンゴは脱ぎっ放しのジャケットを羽織ると、木戸を目指す。
その時、チャイムが鳴った。
『木戸の向こうに人がいる!』
千載一遇のチャンスだ。
ケンゴが木戸に手を掛けるのと同時に、背中に微かな痛みを覚えた。
それは針に刺された程度の小さな痛みだ。
しかし足に力が入らない。
覚束ない足元を見ると、黒々とした液体が見る見る広がっていく。
「さすがにメスの切れ味は素晴らしい。
背広筋を物ともしない。」
常夜灯の明かりの下で、岩佐が刃先に魅入っている。
キラリと光る刃先には汚れひとつない。
岩佐がベッドメイクの必要はないと、木戸の向こう側に声を掛ける。
遠退く足音を聞きながら、意識は次第に薄れていった。
 
 
(つづく)
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