妄想日記3<<RISING>>

YAMATO

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Chapter7(Dies Irae編)

Chapter7-④【一番星】

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ケンゴは寒さに目を覚ます。
目の前に眩いライトがあった。
やけに眩しく、ゆっくり眠らせて欲しい。
『クッションも悪いし、これが一流ホテルのベッドか!』
内心、悪態を吐く。
「目が覚めてしまいましたか。
そのまま寝ていれば、楽に済んだのに残念です。」
ここがベッドでなく、ダイニングテーブルだと気付く。
木製の手触りに滑りが混じっていた。
こんな寒いのに額に汗を浮かべる岩佐が信じられない。
「さあ、最期に泣いてもいいし、命拾いしてもいいですよ。
あたなもご存じの通り、ジェームスさんは恐怖に引き攣る表情が好物なのです。」
岩佐がメスを翳すと、明かりが遮られた。
『やっと眩しくなくなったか。
俺も、もうダメみたいだな。
最期に焼肉食いたかったな。』
この期に及んで焼肉を思い出したのはタカユキの所為だと可笑しくなった。
 
「何をニヤけているんですか!」
苛立ちの声が聞こえる。
「まあ、このままメスを入れれば、嫌でも恐怖を思い知るでしょう。」
岩佐が自分に言い聞かせる様に呟く。
「確かにな。
きっと痛くて悲鳴をあげるだろう。
だがそれが生きている証だ。」
無表情を装い、格好をつけて言う。
もう覚悟は出来ていた。
「私は強がりが嫌いです。
素直に泣き叫べは、トップに免じて許そうとも思っていたのですが。
なら、こうしましょうか?」
メスがケンゴの頬に線を引く。
「うわぁ!」
自分でも驚く程大きな声が出た。
「タカユキさんを先にしましょうか?
好きな人が切り刻まれるのを見て、恐怖を思い出して下さい。」
勝ち誇った顔が笑う。
 
「ふざけるな!
タカユキに手を出すのは、俺が動かなくなってからにしろ!」
目を見開いて威嚇する。
「そう、その表情です。
ジェームスさんもお喜びです。」
視線が一瞬ジェームスに向いた。
足を引き、顔を目掛けて蹴り上げる。
鼻に命中し、岩佐がすっ飛ぶ。
クルクルと回転したメスが床に突き刺さった。
素早くメスを引き抜き、ジェームスの背後に回り込む。
「形勢逆転だな。
火事場のクソ力って言葉を知らないのか?」
刃先をジェームスの首筋に押し当てる。
鼻を押さえた岩佐が立ち上がった。
般若面のような形相に怖じけづく。
岩佐の恐ろしさを一番知っているのはケンゴだった。
岩佐はいつもゴールへの最短距離を歩く。
その為には手段を選ばない。
法も道徳も関係なかった。
警察にマークされている事も知っている。
だが岩佐は尻尾を出さない。
自らは動かず、金で動く奴らに依頼していた。
そうかといって、岩佐が弱い訳ではない。
岩佐は元ボクサーで、素手で殴った相手を半殺しにした事がある。
カッとなると、自制心を喪失していた。
 
岩佐は動かない。
ケンゴの出血を待っているのだ。
時間が経つ程、不利になる。
気力を振り絞り、木戸を目指す。
不意にジェームスの頭が揺れたかと思うと、顔面に打ち付けてきた。
「ぐえっ!」
奇声が飛び出し、膝を付く。
そこに岩佐が飛び掛かってきた。
顔面に怒涛のパンチを浴びる。
膝を曲げ、仰向けに倒れた。
岩佐がジェームスの喉元を覗き込む。
その奥の木々の隙間から一等星が覗く。
「あれ?何て星だっけ?
後で調べてみよう。」
視界から一等星が消えた。
木戸を乗り越える影に遮られたからだ。
『あっ!』
漏れる息を必死に飲み込む。
影は口元で人差し指を立て、バスタブの影に隠れた。
見覚えのある影に安堵し、勇立つ。
革靴の音が近付いてきた。
「もう茶番は終わりです。
夜も更けてきました。
そろそろ終わらせましょう。」
踵が腹に食い込む。
震える両手で足首を掴む。
『これで最後だ。』
失せかけた気力を奮い立たせる。
岩佐の意識を自分に向けさせた。
 
 
(つづく)
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