妄想日記3<<RISING>>

YAMATO

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Chapter7(Dies Irae編)

Chapter7-⑦【風は吹いている】

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「タカユキ…。」
肩に置かれたノイの手が小刻みに震えていた。
上手く思考が働かない。
ただノイに多大な迷惑を掛けた事は停止した頭でも分かった。
「ノイには沢山迷惑を掛けてしまった。
何と謝ればいいか…。
必ず恩返しするから。」
ノイの手を握り締める。
「形アルモノ、イツカナクナリマス。
ソレハ、マタ買エバイイ。
デモ、ケンコワ…。」
ノイは悲しげに顔を振った。
「きっと熱くなかったよ。
死んでたんだ。
もうケンゴは死んでいたんだ。」
二度繰り返し、自分自身に言い聞かす。
隣家の人だろうか、地面に伏して泣いている。
呆然と炎を見上げている人もいた。
ノイの他にも、あまりに多くの人に甚大な負担を掛けた事を思い知る。
「何とかしないと…。」
もうすっかり青みを取り戻した空を見上げた。
サムイに着いてから、ずっと晴天が続いている。
「ノイ、今からホテルに連れて行ってくれ。
急ぐんだ!ポリスが来てからでは間に合わない!」
突然、閃きが降りて来た。
両手を大きく振って、ノイを急かす。
 
背中にしがみ付き、ホテルのゲートを通過する。
ガードマンはノイを認めると、手を挙げるだけだ。
まだホテルは眠っている。
バイクは細い道を疾走し、部屋の前でブレーキを掛けた。
火炎瓶を放った犯人は分かっている。
まだ現場にいる筈だ。
木戸は半開きになっていた。
手を掛ける前に深呼吸する。
目を閉じて、木戸を押す。
ゆっくりと瞳を開ける。
もしかすると全て夢かもしれない。
ゴーグルをしたケンゴが、泳いでいるかもしれない。
 
ダイニングテーブルが視界に入る。
変色したどす黒い血で染まっていた。
眩暈を覚えながらも目的の物を目差す。
セフティボックスはしっかりと閉まっていた。
ロックに使用した4桁の数字が必要だ。
『岩佐が好む数字?』
劣化した頭をフル稼動させる。
パラダイスジムや岩佐の電話番号はヒットしない。
『何なんだ!
他にある筈だ!』
焦る掌に汗が浮かぶ。
人が来たら、全て終わりだ。
岩佐も直にここへ戻って来る。
『岩佐が好きなモノ…?』
瞳を閉じて集中する。
とある番号が脳裡に浮かぶ。
押し間違えない様、ゆっくりと番号を押す。
電子音が鳴り、ロックが解除された。
複雑な思いで、中を覗き込む。
ヒットした番号はケンゴの誕生日だった。
 
三人のパスポート、円とバーツの現金が入ったままだ。
岩佐はカードを嫌っていて、いつも現金を用意していた。
クリーニングバッグに現金を詰め込む。
犯罪だと分かっているが、今出来る事はこれ位だ。
ノイの更衣室で一息つく。
朝食の忙しい時間を迎え、スタッフは誰もいない。
机にあったメモ帳にペンを走らせる。
『めいわくをかけてごめんなさい。
かじにあったひとでわけてください。
たりないぶんは後でかならずかえします。』
紙をクリーニングバッグに入れ、ノイのロッカーに忍ばせる。
ノイがコーヒーカップを持って、戻って来た。
掌でカップを包み、温もりを確かめる。
『俺はまだ生きている。
もうひと頑張りしないとな!
迷惑を掛けた人達にお金を返さないと。』
湯気の立ち上るカップを口に運ぶ。
「ノイのロッカーって、そこ?」
頷くノイを確認すると、勢いよく席を立つ。
「じゃあ、そろそろ戻ろうか。
きっとポリスが待ってるな。
ノイ、悪いけど、もう少し面倒見てくれよ。」
瞳が濡れて、ノイがぼやける。
「心配シナイデ。
ポリスハ僕ガ相手スルカラ。」
ノイが素早く頬にキスをした。
真っ暗な心の中に風が吹く。
タカユキはその風に勇気を貰う。
『手ぶらじゃ、ケンゴが怒るもんな。』
ケンゴに会うのは暫く先だと、覚悟を決めた。
 
風の先にケンゴが待ってる。
だからこの先、風に向かって歩いていこう。
開けっ放しの窓から、一陣の風が通り抜ける。
『ヘナチョコなお前には無理だよ。』
と笑って、頬を撫でて行った。
 
 
(完)
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感想 2

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みんなの感想(2件)

taka
2021.08.30 taka

今晩わ❗今1-8話読み終わりました。本当にいつも良い所で、終わりますね。毎晩楽しみになりそうです👍仕事も、忙しいと、思いますけど、投稿楽しみにしてます。お休みなさい🙇

解除
taka
2021.08.30 taka

今読み終わりました。続きが楽しみたいですね‼️

解除

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