決闘で死んだ俺が凶悪なロリ令嬢として転生してしまったので、二度と負けないために最強を目指して妖魔との戦いに身を投じることにした

呉万層

文字の大きさ
12 / 42

12:ステッキ

しおりを挟む
 鋭い爪と太い牙を誇示しながら、獣鬼がミオに向けて突っ込んでくる。



  銃器の赤い瞳と目が合うや、殺意みなぎる声が放たれた。



「ギャアアオン!」


 
 口の両端から涎を垂らした獣鬼が、見た目よりもしなやかな動きで跳躍した。



 捕食者である獣鬼の姿はおぞましく、観る者を恐怖で委縮させるには充分だった。



 しかし――



「せい!」



 ミオが弧を描くステップで懐に飛び込むや、半棒術の要領でステッキを振るう。体重が十分の一以下と思われるミオの一撃のより、獣鬼はあっさりと跳ね返されていた。



「ギャワン!」



 強打者のバットに捕らえられたボールのような軌道で、獣鬼の身体は壁に叩きつけられた。



 ミオに、手ごたえらしい手ごたえはなかったにもかかわらず、効果は絶大だった。


 
 調度品が破壊され、骨の折れる乾いた音が鳴った。
 獣鬼の長い胴体部からはみ出す潰れた内臓から、ドス黒い体液がしたたり落ち、口からは血を吐きだしていた。



 メイドたちが悲鳴を上げる。



「きゃあ」



「きゃああ」



「きゃあきゃあ」



 ミオの一撃を受けた獣鬼は、首は折れ、目玉も飛び出すなど酷い有様だ。



 騒ぐメイドも汚らしい獣鬼の死骸にも目をくれず、ミオはステッキを掲げるように持った。



 黒い蛇に絡まれたドクロからは、禍々しいオーラが放たれている。ステッキを制御したミオは、恐れよりも、体内に充実する力の存在に、頼もしさを覚えていた。



「力がみなぎってくる。このステッキは業物だな」



「感心している場合か、まだ来るぞ!」



 警告を発すると同時に、いつの間にか乱入してきた新手の妖魔に対し、ハイテが軍刀を振るった。



 両断された小さな影は、血と内臓をまき散らして室内に落ち、絨毯を汚した。



 新手の妖魔は、人の子供程度の大きさしかなかった。
 顔の大部分を占める一つだけの目は大きく、頭頂部の角と背中の羽、身体を支える足は貧弱だ。
 ミオと同様に細い手には、刃渡り二十センチ程度の黒い短剣があり、薄い瘴気をまき散らしていた。



「小型の妖魔か。色々な種類がいるのだな」



 観察し感想を漏らしつつ、ミオは破れた窓や壁から入り込んでくる小型の妖魔を、ステッキでまとめて粉砕していく。紫色の返り血を浴び、黒い服はまだらに汚れていった。



 戦闘における返り血は男の勲章なので、ミオは誇らしく思った。



 ステッキを振り下ろすたびに汚れていくミオとは対照的に、軍刀で妖魔を切り刻んでいるハイテの服は、なぜかほとんど汚れていなかった。



 ハイテは、返り血を避けているようだ。



 闘争における価値観の違いに、ミオはなんだか不愉快になった。



 ミオの内心を知ってか知らずか、ハイテは淡々と解説をはじめる。



「小腐鬼だな。腐敗の神に仕える低級の眷属だ。あの黒い短剣は、腐敗の神からの祝福が授けられている。カスリでもしたら、たちまち肉が腐敗を始めるぞ。周辺部の肉をこそぎ落とさないと、全身が腐って死ぬ羽目になる。気を付けろ」



「小さいが厄介そうなヤツだ」



「キミのようにかね?」



 ハイテのイヤミを受けても、ミオは自信満々な態度で受けて立つ。



「馬鹿な。厄介どころか、俺は素晴らしい淑女になるつもりだ」



 ミオは何の疑いも持たずに言い切った。



 前世である山田剛太郎だったころは、大抵の努力で困難を克服してきたとあって、上手くやれると確信しているのだった。



 道場に通い剣・棒・槍・薙刀などの武器術に加え、唐手や柔道、日本拳法などの徒手格闘術を修め、並行して返済不要の奨学金を獲得して、大学を卒業していた。



 睡眠時間をできるだけ確保しつつ、武術の鍛錬と勉学に励み結果を残した。



 このわけのわからぬ世界でも、生き抜いていけると、ミオは確信していた。


 しかし――



「淑女の一人称が〝俺〟というのは、どうかとおもうぞ」



「なん、だと」



 ハイテの口から飛び出した的確なツッコミは、ミオに衝撃を与えた。



「お嬢様、窓に、窓に!」



 メイドの一人がが叫ぶや、窓から新手の小腐鬼たちが、手に手に黒い短剣を持って、続々と乱入してくる。



「鬼ッシャ亜ッ!」



 小腐鬼たちが飛び掛かってきた。



 ミオの反応は遅れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...