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亡霊
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お父さまが見罷られたのは、私がお母さまのお腹にいた頃だった。だから当然ながらお父さまのご尊顔を私は肖像画でしか知らない。
肖像画といっても亡くなったお父さまは肖像画を描かれるのがお好きではなかったようで、お母さまもあまりお父さまの肖像画を見せてはくださらない。だから、どんなお父さまだったのか、薄い霧に覆われたように曖昧で知る由もない。
お母さまとお父さまは、従姉弟でご結婚されて、私ヴィオラントを含め7人の子をもうけている。お父さまが崩御された後、お母さまは再婚なさらず、愛人もいないので、きっと亡きお父さまを今でも一途に愛していらっしゃるのだ。
「純愛ね。素敵だわ……。私も素敵な殿方と結ばれて、その方を一途に愛して幸せになる」
凛々しい騎士が美しい姫を愛して護るような物語が大好きな私がそう口にすると、聞いていたニンファがクスクス笑ってきた。
「ヴィオラ、まだ恋人もいないのに結婚を考えるなよ。あと、お前は絶対に母上の政治の駒として政略結婚させられるから夢は捨てろ」
ヴィオラは私の愛称である。
ニンファ……正しくはニンファエアは私のすぐ上の兄で14歳。兄弟姉妹のなかで容姿は亡きお父さまに最も似ていて美形と評判だけれども、言い草が酷い。
「夢くらいみてもいいでしょう? 初恋のお相手と相思相愛になって夫婦になることをお母さまが許可してくれるかも知れないわ」
「ない! 100パー無い! ワンチャン初恋の男と相思相愛になれても貴賤結婚とかで母上から勘当されるぞ?」
「あら? お相手が王女の私より格下でもかまわなくてよ。そのときはお相手と駆け落ちして、知らない国で平民として幸せな家庭を築いて子宝に恵まれて貞淑な妻になる!」
女王陛下であるお母さまが放つ追っ手をかわしながら、愛しい殿方と愛の逃避行なんてロマンチックだと考えていたら、ニンファが笑みを消し、黙って私たちのやり取りを聴いていたセルシスにコソコソ話している。セルシスはニンファの双子の兄で、口が悪いニンファと正反対の穏やかで優しいお兄さまだ。
「おいおい、セルシス……ヴィオラの妄想癖がヤバイぞ。女王を敵にまわしてまでヴィオラと逃げてくれる奇特な男なんて、三毛猫の雄なみにレアキャラだろ? ぶっちゃけ、いるわけねーのに」
全否定するニンファに私が怒ろうとしたらセルシスが苦笑しながらなだめてきた。
「まあまあ! ニンファもヴィオラが心配だからって言い過ぎだよ。皇帝陛下なのに皇妃であるローズ姉上に杖で殴打されても離縁を考えない徳の高い義兄上さまもいるのだから」
「あれは、離縁してローズ姉上に死ぬより恐ろしい抱腹されるのが恐くて離婚しないだけだろ? ローズ姉上ってマジで母上そっくり。ミモザ父上の死因って極秘だけど、内情は母上に杖で殴られたからじゃね? 俺を殴るときの勢いで父上ぶん殴ってうっかり殺したとか?」
「ニンファ! 滅多なことは言わない方がいい。母上が聞いたらまた殴られるよ?」
私のことなんておいてけぼりで、ニンファとセルシスは話し込んでいる。ニンファは王子らしからぬ粗雑な口調と生意気な態度が災いしてお母さまによく杖で殴打されているけれど自業自得だと思っている。セルシスも双子だからって毎回ニンファを庇わなくてもいいのに。セルシスが跪いて懇願するとお母さまはニンファを殴るのを止める。病弱なセルシスをお母さまはとにかく心配されているからニンファがオイタをしてもセルシスに免じて許している。セルシスは顔立ちは双子のニンファとそっくりだけれど、幼い頃に重い病を患ったせいでお顔に痕が残り、いまだに病弱で身体が弱い。
そんな双子の兄に常に庇われているニンファは本当にどうしようもないダメ王子だ。でも、セルシスとニンファの強い結束力というか絆は素敵だと思うし、少しうらやましい。
「お義兄さま……皇帝陛下がローズ姉さまに殴られるときセルシスみたいに庇ってくれるお方はいるのかしら?」
ポロリと疑問を口に出すとニンファとセルシスは顔を見合せ、首を横にふった。
「姑である皇太后さまも、皇帝陛下のご兄弟も家臣も侍女もローズ姉上が恐ろしくて止められない。皇太子……僕たちの甥にあたるブーゲンビリアさまが止めようとしたら、父子共々殴られ気絶した」
「自分の息子まで殴るなって話だ。セルシス、ローズ姉上がキレた理由ってなんだっけ?」
「義兄上が愛犬に、ローズ姉上が怖いと愚痴を言ったからだよ。皇帝なのに相談できる相手が犬なんて……。義兄上さま、お可哀相に」
皇帝陛下なのに、妻であるローズ姉さまに手も足も出ないお義兄さまはお気の毒だけれど、私は夫を杖で殴ってついでに嫡男も殴るようなお嫁さんには絶対にならないと誓う。だけれども、ローズ姉さまはお輿入れしてから1年後には皇太子をお産みあそばし、続いて皇女と皇子を立て続けにもうけたのだからきっと本当は仲睦まじいご夫婦なのだ。
「政略結婚で嫁いでもローズ姉さまみたく幸せな結婚がしたいわ」
皇妃になって子宝に恵まれ、夫である皇帝陛下もお優しいなんて、ローズ姉さまは幸せ者だと言おうとしたらすかさずニンファが口を挟んできた。
「義兄殿にとっては不幸でしかねーだろ。相談できる相手が犬な時点で」
「犬相手でも殴られるのだからお義兄さまが哀れだ。犬まで制裁を受けていないか僕は心配だよ」
もはや実姉に杖で殴られている義兄のことより犬を心配してセルシスが顔を曇らせているとお部屋にダリア姉さまが入ってきた。ダリア姉さまは物腰柔らかな美女で、宮廷でダリア姉さまに恋をしない殿方はいないと評されるくらい宮廷の人気者らしい。少なくとも杖で殿方を殴らない王家の第2王女だ。
「あらあら、セルシス、お顔の色が悪くてよ? ニンファがまたお母さまに杖で殴られていたの?」
セルシスの顔色が優れないときはニンファがお母さまにリンチされているときだというのがダリア姉さまの認識だった。あながち間違えでもないのが笑えない。
「ご安心をダリア姉上。今日はまだニンファは殴られてません。昨日、気絶させるくらい殴ったので母上もさすがに今日は控えると思います」
「そう。よかったわ……。ニンファで思い出したけれどご存知? 宮廷の貴族が噂していたのだけれど、『西の離宮』で亡霊が出たみたいなの」
ダリア姉さまの言葉にニンファとセルシスは瞳を見開いたが私には意味が分からなかった。
「ダリア姉さま、『西の離宮』に亡霊が出るのですね?」
「そうみたいなの。亡霊の御髪の色がセルシスとニンファに似ているみたい。だから私は、ニンファがイタズラで離宮に入ったと思ったのだけれど」
ニンファの真剣な表情を見ていたダリア姉さまは亡霊の正体はニンファではないと悟ったのか「不思議なこともあるわね」と首を傾げている。
「貴族の見間違いの可能性もあるわ。それより、ローズお姉さまから書簡が届いたのだけれど、お姉さま、第4子をご懐妊あそばしたわ! お目出度いことね。皇帝陛下であらせられるお義兄さまも大喜びよ。しばらく殴られなくて済むって。愛犬のポピーと抱き合って喜んだらしいわ。微笑ましいわね」
杖で夫を殴っている割にローズ姉さまのご懐妊が頻繁で、そこが気になるけれど、セルシスの気がかりだった皇帝陛下の愛犬が無事でよかったと同時に、犬の名前がポピーということまで判明した。私はダリア姉さまと一緒にローズ姉さまのご懐妊を祝福していたけれど、それを他所にニンファとセルシスはなにやら相談している。
お義兄さまとローズ姉さまへのお祝いの品の相談かと思ったら、なんだか様子がおかしい。2人でコソコソなにか喋っているのは日常茶飯事だけれど深刻な顔をして頷きあっている。
ダリア姉さまと私がお母さまのところに行って、ローズ姉さまご懐妊の喜びを分かち合おうとお部屋を出ようとしたらニンファとセルシスの会話が微かに聴こえた。
「セルシスは行かない方がいい。俺が1人で離宮に忍び込む」
「僕も行くよ。ニンファだけだと母上に叱られる」
よく分からないけれど、双子のセルシスとニンファは『西の離宮』を探検するつもりらしい。あそこは今は無人で、お母さまの厳命で、何人たりとも入宮は赦されないのに。本当に双子で仲がいいこと。
「でも、私も亡霊にお逢いしてみたいわ」
そう呟くとダリア姉さまはおっとりとした笑みで「お母さまには、秘密にしとくわね。私からニンファとセルシスにヴィオラも冒険に加えるよう頼んでおくわ」と約束してくれた。ダリア姉さまはお淑やかでお優しくまったく怖くないのに、ニンファとセルシスは決してダリア姉さまの言葉に逆らわない。不思議なものね。
「亡霊さんにお逢いしたらお姉さまに教えてね」
「分かったわ。ダリア姉さま、ありがとうございます」
こうしてダリア姉さまの計らいで私も『西の離宮』の冒険に加わることとなる。
真夜中にお部屋を抜け出して冒険なんて、お話の世界のようでワクワクするが、渋々私の参加を認めたニンファは真顔で言い放った。
「ヴィオラ、何があっても俺とセルシスから離れるなよ? 絶対だからな」
『西の離宮』での肝試しをニンファは何故か緊張しているようだ。お母さまにバレて杖で殴れるのを恐れているのかと思っていたら、セルシスまで私に言い聞かせてくる。
「亡霊を視ても目を合わしたらダメだ。見えないように振る舞うんだよ?」
「もう! 2人とも怖がりね。亡霊なんてお話の世界よ! いるわけないわ」
「……ヴィオラと駆け落ちする男よりは存在する確率が高いんだよ」
神妙な顔で超絶失礼なことを告げてくるニンファを私は睨んだが、その時は思いもよらなかった。
……邂逅した亡霊が初恋のお相手になるなんて。
~To be continued~
肖像画といっても亡くなったお父さまは肖像画を描かれるのがお好きではなかったようで、お母さまもあまりお父さまの肖像画を見せてはくださらない。だから、どんなお父さまだったのか、薄い霧に覆われたように曖昧で知る由もない。
お母さまとお父さまは、従姉弟でご結婚されて、私ヴィオラントを含め7人の子をもうけている。お父さまが崩御された後、お母さまは再婚なさらず、愛人もいないので、きっと亡きお父さまを今でも一途に愛していらっしゃるのだ。
「純愛ね。素敵だわ……。私も素敵な殿方と結ばれて、その方を一途に愛して幸せになる」
凛々しい騎士が美しい姫を愛して護るような物語が大好きな私がそう口にすると、聞いていたニンファがクスクス笑ってきた。
「ヴィオラ、まだ恋人もいないのに結婚を考えるなよ。あと、お前は絶対に母上の政治の駒として政略結婚させられるから夢は捨てろ」
ヴィオラは私の愛称である。
ニンファ……正しくはニンファエアは私のすぐ上の兄で14歳。兄弟姉妹のなかで容姿は亡きお父さまに最も似ていて美形と評判だけれども、言い草が酷い。
「夢くらいみてもいいでしょう? 初恋のお相手と相思相愛になって夫婦になることをお母さまが許可してくれるかも知れないわ」
「ない! 100パー無い! ワンチャン初恋の男と相思相愛になれても貴賤結婚とかで母上から勘当されるぞ?」
「あら? お相手が王女の私より格下でもかまわなくてよ。そのときはお相手と駆け落ちして、知らない国で平民として幸せな家庭を築いて子宝に恵まれて貞淑な妻になる!」
女王陛下であるお母さまが放つ追っ手をかわしながら、愛しい殿方と愛の逃避行なんてロマンチックだと考えていたら、ニンファが笑みを消し、黙って私たちのやり取りを聴いていたセルシスにコソコソ話している。セルシスはニンファの双子の兄で、口が悪いニンファと正反対の穏やかで優しいお兄さまだ。
「おいおい、セルシス……ヴィオラの妄想癖がヤバイぞ。女王を敵にまわしてまでヴィオラと逃げてくれる奇特な男なんて、三毛猫の雄なみにレアキャラだろ? ぶっちゃけ、いるわけねーのに」
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「ニンファ! 滅多なことは言わない方がいい。母上が聞いたらまた殴られるよ?」
私のことなんておいてけぼりで、ニンファとセルシスは話し込んでいる。ニンファは王子らしからぬ粗雑な口調と生意気な態度が災いしてお母さまによく杖で殴打されているけれど自業自得だと思っている。セルシスも双子だからって毎回ニンファを庇わなくてもいいのに。セルシスが跪いて懇願するとお母さまはニンファを殴るのを止める。病弱なセルシスをお母さまはとにかく心配されているからニンファがオイタをしてもセルシスに免じて許している。セルシスは顔立ちは双子のニンファとそっくりだけれど、幼い頃に重い病を患ったせいでお顔に痕が残り、いまだに病弱で身体が弱い。
そんな双子の兄に常に庇われているニンファは本当にどうしようもないダメ王子だ。でも、セルシスとニンファの強い結束力というか絆は素敵だと思うし、少しうらやましい。
「お義兄さま……皇帝陛下がローズ姉さまに殴られるときセルシスみたいに庇ってくれるお方はいるのかしら?」
ポロリと疑問を口に出すとニンファとセルシスは顔を見合せ、首を横にふった。
「姑である皇太后さまも、皇帝陛下のご兄弟も家臣も侍女もローズ姉上が恐ろしくて止められない。皇太子……僕たちの甥にあたるブーゲンビリアさまが止めようとしたら、父子共々殴られ気絶した」
「自分の息子まで殴るなって話だ。セルシス、ローズ姉上がキレた理由ってなんだっけ?」
「義兄上が愛犬に、ローズ姉上が怖いと愚痴を言ったからだよ。皇帝なのに相談できる相手が犬なんて……。義兄上さま、お可哀相に」
皇帝陛下なのに、妻であるローズ姉さまに手も足も出ないお義兄さまはお気の毒だけれど、私は夫を杖で殴ってついでに嫡男も殴るようなお嫁さんには絶対にならないと誓う。だけれども、ローズ姉さまはお輿入れしてから1年後には皇太子をお産みあそばし、続いて皇女と皇子を立て続けにもうけたのだからきっと本当は仲睦まじいご夫婦なのだ。
「政略結婚で嫁いでもローズ姉さまみたく幸せな結婚がしたいわ」
皇妃になって子宝に恵まれ、夫である皇帝陛下もお優しいなんて、ローズ姉さまは幸せ者だと言おうとしたらすかさずニンファが口を挟んできた。
「義兄殿にとっては不幸でしかねーだろ。相談できる相手が犬な時点で」
「犬相手でも殴られるのだからお義兄さまが哀れだ。犬まで制裁を受けていないか僕は心配だよ」
もはや実姉に杖で殴られている義兄のことより犬を心配してセルシスが顔を曇らせているとお部屋にダリア姉さまが入ってきた。ダリア姉さまは物腰柔らかな美女で、宮廷でダリア姉さまに恋をしない殿方はいないと評されるくらい宮廷の人気者らしい。少なくとも杖で殿方を殴らない王家の第2王女だ。
「あらあら、セルシス、お顔の色が悪くてよ? ニンファがまたお母さまに杖で殴られていたの?」
セルシスの顔色が優れないときはニンファがお母さまにリンチされているときだというのがダリア姉さまの認識だった。あながち間違えでもないのが笑えない。
「ご安心をダリア姉上。今日はまだニンファは殴られてません。昨日、気絶させるくらい殴ったので母上もさすがに今日は控えると思います」
「そう。よかったわ……。ニンファで思い出したけれどご存知? 宮廷の貴族が噂していたのだけれど、『西の離宮』で亡霊が出たみたいなの」
ダリア姉さまの言葉にニンファとセルシスは瞳を見開いたが私には意味が分からなかった。
「ダリア姉さま、『西の離宮』に亡霊が出るのですね?」
「そうみたいなの。亡霊の御髪の色がセルシスとニンファに似ているみたい。だから私は、ニンファがイタズラで離宮に入ったと思ったのだけれど」
ニンファの真剣な表情を見ていたダリア姉さまは亡霊の正体はニンファではないと悟ったのか「不思議なこともあるわね」と首を傾げている。
「貴族の見間違いの可能性もあるわ。それより、ローズお姉さまから書簡が届いたのだけれど、お姉さま、第4子をご懐妊あそばしたわ! お目出度いことね。皇帝陛下であらせられるお義兄さまも大喜びよ。しばらく殴られなくて済むって。愛犬のポピーと抱き合って喜んだらしいわ。微笑ましいわね」
杖で夫を殴っている割にローズ姉さまのご懐妊が頻繁で、そこが気になるけれど、セルシスの気がかりだった皇帝陛下の愛犬が無事でよかったと同時に、犬の名前がポピーということまで判明した。私はダリア姉さまと一緒にローズ姉さまのご懐妊を祝福していたけれど、それを他所にニンファとセルシスはなにやら相談している。
お義兄さまとローズ姉さまへのお祝いの品の相談かと思ったら、なんだか様子がおかしい。2人でコソコソなにか喋っているのは日常茶飯事だけれど深刻な顔をして頷きあっている。
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「セルシスは行かない方がいい。俺が1人で離宮に忍び込む」
「僕も行くよ。ニンファだけだと母上に叱られる」
よく分からないけれど、双子のセルシスとニンファは『西の離宮』を探検するつもりらしい。あそこは今は無人で、お母さまの厳命で、何人たりとも入宮は赦されないのに。本当に双子で仲がいいこと。
「でも、私も亡霊にお逢いしてみたいわ」
そう呟くとダリア姉さまはおっとりとした笑みで「お母さまには、秘密にしとくわね。私からニンファとセルシスにヴィオラも冒険に加えるよう頼んでおくわ」と約束してくれた。ダリア姉さまはお淑やかでお優しくまったく怖くないのに、ニンファとセルシスは決してダリア姉さまの言葉に逆らわない。不思議なものね。
「亡霊さんにお逢いしたらお姉さまに教えてね」
「分かったわ。ダリア姉さま、ありがとうございます」
こうしてダリア姉さまの計らいで私も『西の離宮』の冒険に加わることとなる。
真夜中にお部屋を抜け出して冒険なんて、お話の世界のようでワクワクするが、渋々私の参加を認めたニンファは真顔で言い放った。
「ヴィオラ、何があっても俺とセルシスから離れるなよ? 絶対だからな」
『西の離宮』での肝試しをニンファは何故か緊張しているようだ。お母さまにバレて杖で殴れるのを恐れているのかと思っていたら、セルシスまで私に言い聞かせてくる。
「亡霊を視ても目を合わしたらダメだ。見えないように振る舞うんだよ?」
「もう! 2人とも怖がりね。亡霊なんてお話の世界よ! いるわけないわ」
「……ヴィオラと駆け落ちする男よりは存在する確率が高いんだよ」
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