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初恋
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今夜は宮殿を抜け出して、セルシス&ニンファと『西の離宮』を探検する。
『西の離宮』は私たち王家の者が暮らす王宮の敷地内の西側にある比較的に小規模な離宮で女王陛下であらせられるお母さまの厳命で何故か無人にされているの。王太子であるライラックお兄さまがコッソリ教えてくれた。かつて『西の離宮』は亡くなった王婿……ミモザお父さまのための離宮だったと。
どうして、お父さまは大きな宮殿ではなくて小さな離宮でお過ごしだったのか。ライラックお兄さまに訊いたけれど「ヴィオラは知らなくてもいいことだ」と仰って、ライラックお兄さまは教えてはくださらなかった。
「お父さまは幼い頃からお母さまの許嫁と決まっていて、立派な王家の一員なのに変だわ」
警備隊の目を盗んで徒歩で『西の離宮』へ移動中、私がそう疑問を口にすると、私を護るように周囲を警戒しながら歩いていた双子のセルシスとニンファが同時に声をだした。
「その話なら離宮に忍び込んだら教えてやる」
「ヴィオラ、そろそろ離宮に到着するから静かにね」
ミモザお父さまがお亡くなりになったとき、セルシス&ニンファは2歳くらいだ。まだまだ幼すぎてお父さまのことなんて憶えていないでしょうに、双子はライラックお兄さまが私に教えなかった真相を知っているようだ。
そんなことを考えていると、月夜の光に照らされた庭園を抜けた先に神秘的な建物が見えてきた。お母さまが、何人たりとも入宮を禁止、とした『西の離宮』は外壁は真っ白で窓が少なく、周囲には大輪の美しい花が咲き乱れている。初めて目にした『西の離宮』を眺めながら、私は違和感を感じていた。うまく言葉にはできないけれど、この離宮はたしかに異様で、亡霊がいても不思議ではない。
「不思議な離宮ね。美しいけれど……なんだか、牢獄のようだわ」
私の呟きに、セルシスとニンファは瞳をハッと見開き、双子で目配せすると告げたのだ。
「その感想は正解だな。ここは俺たちの父上……亡き王婿が長く幽閉されていた場所だから」
ニンファの驚くべき言葉に私が声をあげそうになるとセルシスが黙るよう促した。
「詳しくは離宮に入ったら話すよ。ニンファ、鍵をあけるから周囲を見ていてくれ」
セルシスが装束から小さな鍵を取り出すとニンファは巡回している警備隊の足音が聞こえてこないか耳を澄ましている。しかし、王家の者であっても入宮を許されない離宮なのに門に番人はいないし、随分と杜撰な警備ではないかと私は疑問だらけだった。そんな私など他所にセルシスが離宮の扉の隅にある鍵穴に鍵を差し込むと静かな音がして離宮の扉は解錠された。
「そもそも、どうしてセルシスは鍵をお持ちなの?」
私の質問にセルシスは言葉少なく「これは父上の形見なんだ。僕にとっては唯一の」と答えるのみだ。ニンファと共同所有ではなくて鍵はセルシスがお父さまから相続したらしいけれど、果たしてどのような経緯でそうなったのか。
謎だらけで黙り込む私の手をニンファがソッと繋ぐと小声で「俺は先頭を歩く。ヴィオラは真ん中でセルシスは1番後ろだ。はぐれないよう手を繋いで行くぞ」
双子のセルシス&ニンファと手を繋ぎながら歩くなんて幼い頃以来だ。私の幼少期、お母さまは政務にかかりきりで、王太子のライラックお兄さまや、現在は軍事を担っているイリスお兄さまはそれぞれの勉学や鍛練にお忙しく、ローズ姉さまは強大な帝国の皇太子とのご縁談が決まった頃で、あまりご一緒に遊んだ記憶がない。ダリア姉さまが主に私とセルシス&ニンファの遊び相手になってくれていた。ダリア姉さまは、私がセルシス&ニンファと手を繋いで庭園をお散歩するのを柔和な笑顔で見守りながら言っていた。
「ヴィオラは、お父さまと手を繋いでお庭を散歩できなかったけれど、セルシスとニンファがお父さまの代わりね」
そう告げたダリア姉さまのお顔は微笑んでいたけれど、瞳は少し潤んでいた気がする。そんな幼い頃に思いを馳せていると、背後のセルシスが私の手を離していた。
「セルシス、急に手を離してどうしたの? 体調が悪くなったの?」
問いかけてもセルシスからの返事はない。私は慌てて、ニンファの手を強く握り、叫んだ。
「ニンファ! セルシスがいないわ! さっきまで手を繋いでいたのに……。まさか、亡霊にさらわれた?」
非常事態なのに、ニンファは振り向きもせず、スタスタと私の手を繋いで歩き続ける。普段のニンファならセルシスに何かあれば動揺し、半狂乱になるのに、ニンファはなにも返事をしてくれない。こんなのおかしいと感じていた私は、気づいてしまった。健康的で温かいニンファの手が死人のように冷たく凍っていることに。そして、目の前を歩くニンファが私の兄ニンファエアではないという事実に。
「あなたは、亡霊なの? ニンファではないわよね? セルシスとニンファはどうなったの?」
恐怖をおさえ、努めて静かに訊ねると目の前を歩いていた、ニンファでない誰かが小さく笑った。
「気づくのが早いね。流石はダイアナ姉上の姫君……。ヴィオラント、セルシスとニンファは無事だから安心しておくれ」
「セルシスとニンファは生きているのね! 亡霊さん、あなたは何者? ニンファに化けて私を驚かそうとしたの? その手には乗らないわ」
強がって見せると亡霊は何がそんなに可笑しいのかクスクス笑いだした。存外、優しげで涼やかな声色である。
「ヴィオラントは勇敢な子だね。本当に姉上にそっくりだ。あいにく、ニンファに化けてはいないよ。ニンファが僕に似ているだけさ」
そう告げて月明かりのなか振り返った亡霊は、たしかにニンファに似ているがニンファとは少し違う。青い瞳に濃い夕焼けのような美しい髪色……そして高貴で端正なお顔立ち。
「あなたは……私のお父さま? お母さまが私を妊娠中に亡くなられた。ミモザお父さま?」
「理解が早くて聡明な娘に育ったものだね。ヴィオラント。如何にも、僕は女王陛下の王婿ミモザでヴィオラントや子どもたちの父親」
「お母さまに杖で殴られて亡くなったのね?」
「それは誤解だと、ニンファに伝えておいておくれ」
亡霊の正体は、私たち兄弟姉妹の亡きお父さまで、お母さまが今でも愛している王婿のミモザであると判明したが、私はドキドキしていた。亡霊姿のミモザお父さまは、ちょうどセルシス&ニンファと同じ年恰好なのに圧倒的に凛としていて繊細そうで魅力的なのだから。
「お父さまは……私の好みの殿方のど真ん中だわ」
「娘にそう言ってもらえ嬉しいが。ヴィオラント、どうして僕が少年の姿なのかとか質問はないのかい?」
「色々と疑問はあるけれど、お父さまに私は一目惚れしましたわ。お母さまと死別したのなら私の恋人になって!」
実の父親に恋をする王女なんて古代神話の世界のようで、切なくて背徳感があると私が絶賛妄想しているとミモザお父さまは、困ったようなお顔で首を横に振った。
「せっかくの求愛だけど、僕は死んだ今でもダイアナ姉上のことを深く愛しているから、ヴィオラントの想いには応えられない」
「そういうシチュエーションが素敵だわ! ミモザお父さま、お母さまはニンファを杖でぶん殴るような暴力的な女王よ。45歳で大年増だし! 私はこれから花盛りの12歳だからお付き合いして、お願い!」
「ヴィオラント、僕の話を聞いていなかったのかい? 僕が亡霊としてこの離宮に留まっているのは、ダイアナ姉上……妻が心配で心残りだから……」
「心残さなくても、お母さまは元気元気! 大元気だから安心して私とお付き合いして!」
ここまで猛烈アピールしたのに、ミモザお父さまは、困ったような笑みを浮かべ、私の頭を優しく撫でると静かに告げたのだ。
「ニンファがヴィオラントを心配するのはもっともだ。僕も娘がこんな風に成長して正直安心して神様の身許に逝けない。今夜のお話はここまでにしよう。セルシスとニンファの許にお帰り」
「お次のデートはまた満月の夜がいいわ」
私が提案するとミモザお父さまは息を吐いて「わかった。扉は開けておくからおいで」と承諾してくださった。
私がミモザお父さまに抱きつこうとしたら、突然、ニンファの声が前方から響いた。
「ヴィオラ! 急に抱きついて脅かすな! どうした? 亡霊が怖いのか」
いつの間にか、亡霊のミモザお父さまから兄のニンファに戻っている。背後を見るとセルシスが心配そうに私を見つめていた。
「ヴィオラ、僕が話しかけても黙ったままで心配したよ。怖いのならもう離宮から出ようか?」
セルシスの言葉に私は嬉々として頷いた。
「セルシス、聞いて! 私、ミモザお父さまに恋をしたの! 次の満月の夜にまたお逢いするのよ」
私の台詞を聞いたセルシスは唖然とした顔でニンファと顔を見合わせている。
「やはり……。亡霊は父上だったのか」
「ヴィオラのタイプにドンピシャだったんだな。父上は」
「そうなの! 凛々しくて、それでいて儚げでお美しくて! 実のお父さまと恋に落ちるなんてロマンチックだわ!」
すっかり亡きお父さまに夢中になっている私を見ながらニンファは深い溜め息を吐いた。
「死んだ父上、困惑しただろうな。末の娘がこんな妄想癖に育って」
「ニンファ、お父さまは、お母さまに杖で殴られたのが死因ではないって」
「それを教えてくださった父上に感謝するけれど、僕、ヴィオラが心配で体調悪くなってきた」
セルシスがつらそうに膝をついたので、ニンファが素早くセルシスを支えると薬を飲ませている。
「セルシスが体調が落ち着いたら帰るぞ。ヴィオラ、すでに死んでる父上を困らせるな。あと、セルシスが心労で倒れるから父上に猛アプローチはやめろ」
「乙女が恋をしたら止められないの!」
こうして亡きミモザお父さまと出逢って、一目で恋に落ちて私はウキウキだった。セルシスはニンファが飲ませた薬で体調が回復したので、夜があける前に3人で宮殿に戻ったけれど、早速ダリア姉さまに報告しなくちゃ!
ミモザお父さまはとっても魅力的で私の初恋の殿方になったって。
To Be Continued
『西の離宮』は私たち王家の者が暮らす王宮の敷地内の西側にある比較的に小規模な離宮で女王陛下であらせられるお母さまの厳命で何故か無人にされているの。王太子であるライラックお兄さまがコッソリ教えてくれた。かつて『西の離宮』は亡くなった王婿……ミモザお父さまのための離宮だったと。
どうして、お父さまは大きな宮殿ではなくて小さな離宮でお過ごしだったのか。ライラックお兄さまに訊いたけれど「ヴィオラは知らなくてもいいことだ」と仰って、ライラックお兄さまは教えてはくださらなかった。
「お父さまは幼い頃からお母さまの許嫁と決まっていて、立派な王家の一員なのに変だわ」
警備隊の目を盗んで徒歩で『西の離宮』へ移動中、私がそう疑問を口にすると、私を護るように周囲を警戒しながら歩いていた双子のセルシスとニンファが同時に声をだした。
「その話なら離宮に忍び込んだら教えてやる」
「ヴィオラ、そろそろ離宮に到着するから静かにね」
ミモザお父さまがお亡くなりになったとき、セルシス&ニンファは2歳くらいだ。まだまだ幼すぎてお父さまのことなんて憶えていないでしょうに、双子はライラックお兄さまが私に教えなかった真相を知っているようだ。
そんなことを考えていると、月夜の光に照らされた庭園を抜けた先に神秘的な建物が見えてきた。お母さまが、何人たりとも入宮を禁止、とした『西の離宮』は外壁は真っ白で窓が少なく、周囲には大輪の美しい花が咲き乱れている。初めて目にした『西の離宮』を眺めながら、私は違和感を感じていた。うまく言葉にはできないけれど、この離宮はたしかに異様で、亡霊がいても不思議ではない。
「不思議な離宮ね。美しいけれど……なんだか、牢獄のようだわ」
私の呟きに、セルシスとニンファは瞳をハッと見開き、双子で目配せすると告げたのだ。
「その感想は正解だな。ここは俺たちの父上……亡き王婿が長く幽閉されていた場所だから」
ニンファの驚くべき言葉に私が声をあげそうになるとセルシスが黙るよう促した。
「詳しくは離宮に入ったら話すよ。ニンファ、鍵をあけるから周囲を見ていてくれ」
セルシスが装束から小さな鍵を取り出すとニンファは巡回している警備隊の足音が聞こえてこないか耳を澄ましている。しかし、王家の者であっても入宮を許されない離宮なのに門に番人はいないし、随分と杜撰な警備ではないかと私は疑問だらけだった。そんな私など他所にセルシスが離宮の扉の隅にある鍵穴に鍵を差し込むと静かな音がして離宮の扉は解錠された。
「そもそも、どうしてセルシスは鍵をお持ちなの?」
私の質問にセルシスは言葉少なく「これは父上の形見なんだ。僕にとっては唯一の」と答えるのみだ。ニンファと共同所有ではなくて鍵はセルシスがお父さまから相続したらしいけれど、果たしてどのような経緯でそうなったのか。
謎だらけで黙り込む私の手をニンファがソッと繋ぐと小声で「俺は先頭を歩く。ヴィオラは真ん中でセルシスは1番後ろだ。はぐれないよう手を繋いで行くぞ」
双子のセルシス&ニンファと手を繋ぎながら歩くなんて幼い頃以来だ。私の幼少期、お母さまは政務にかかりきりで、王太子のライラックお兄さまや、現在は軍事を担っているイリスお兄さまはそれぞれの勉学や鍛練にお忙しく、ローズ姉さまは強大な帝国の皇太子とのご縁談が決まった頃で、あまりご一緒に遊んだ記憶がない。ダリア姉さまが主に私とセルシス&ニンファの遊び相手になってくれていた。ダリア姉さまは、私がセルシス&ニンファと手を繋いで庭園をお散歩するのを柔和な笑顔で見守りながら言っていた。
「ヴィオラは、お父さまと手を繋いでお庭を散歩できなかったけれど、セルシスとニンファがお父さまの代わりね」
そう告げたダリア姉さまのお顔は微笑んでいたけれど、瞳は少し潤んでいた気がする。そんな幼い頃に思いを馳せていると、背後のセルシスが私の手を離していた。
「セルシス、急に手を離してどうしたの? 体調が悪くなったの?」
問いかけてもセルシスからの返事はない。私は慌てて、ニンファの手を強く握り、叫んだ。
「ニンファ! セルシスがいないわ! さっきまで手を繋いでいたのに……。まさか、亡霊にさらわれた?」
非常事態なのに、ニンファは振り向きもせず、スタスタと私の手を繋いで歩き続ける。普段のニンファならセルシスに何かあれば動揺し、半狂乱になるのに、ニンファはなにも返事をしてくれない。こんなのおかしいと感じていた私は、気づいてしまった。健康的で温かいニンファの手が死人のように冷たく凍っていることに。そして、目の前を歩くニンファが私の兄ニンファエアではないという事実に。
「あなたは、亡霊なの? ニンファではないわよね? セルシスとニンファはどうなったの?」
恐怖をおさえ、努めて静かに訊ねると目の前を歩いていた、ニンファでない誰かが小さく笑った。
「気づくのが早いね。流石はダイアナ姉上の姫君……。ヴィオラント、セルシスとニンファは無事だから安心しておくれ」
「セルシスとニンファは生きているのね! 亡霊さん、あなたは何者? ニンファに化けて私を驚かそうとしたの? その手には乗らないわ」
強がって見せると亡霊は何がそんなに可笑しいのかクスクス笑いだした。存外、優しげで涼やかな声色である。
「ヴィオラントは勇敢な子だね。本当に姉上にそっくりだ。あいにく、ニンファに化けてはいないよ。ニンファが僕に似ているだけさ」
そう告げて月明かりのなか振り返った亡霊は、たしかにニンファに似ているがニンファとは少し違う。青い瞳に濃い夕焼けのような美しい髪色……そして高貴で端正なお顔立ち。
「あなたは……私のお父さま? お母さまが私を妊娠中に亡くなられた。ミモザお父さま?」
「理解が早くて聡明な娘に育ったものだね。ヴィオラント。如何にも、僕は女王陛下の王婿ミモザでヴィオラントや子どもたちの父親」
「お母さまに杖で殴られて亡くなったのね?」
「それは誤解だと、ニンファに伝えておいておくれ」
亡霊の正体は、私たち兄弟姉妹の亡きお父さまで、お母さまが今でも愛している王婿のミモザであると判明したが、私はドキドキしていた。亡霊姿のミモザお父さまは、ちょうどセルシス&ニンファと同じ年恰好なのに圧倒的に凛としていて繊細そうで魅力的なのだから。
「お父さまは……私の好みの殿方のど真ん中だわ」
「娘にそう言ってもらえ嬉しいが。ヴィオラント、どうして僕が少年の姿なのかとか質問はないのかい?」
「色々と疑問はあるけれど、お父さまに私は一目惚れしましたわ。お母さまと死別したのなら私の恋人になって!」
実の父親に恋をする王女なんて古代神話の世界のようで、切なくて背徳感があると私が絶賛妄想しているとミモザお父さまは、困ったようなお顔で首を横に振った。
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「そういうシチュエーションが素敵だわ! ミモザお父さま、お母さまはニンファを杖でぶん殴るような暴力的な女王よ。45歳で大年増だし! 私はこれから花盛りの12歳だからお付き合いして、お願い!」
「ヴィオラント、僕の話を聞いていなかったのかい? 僕が亡霊としてこの離宮に留まっているのは、ダイアナ姉上……妻が心配で心残りだから……」
「心残さなくても、お母さまは元気元気! 大元気だから安心して私とお付き合いして!」
ここまで猛烈アピールしたのに、ミモザお父さまは、困ったような笑みを浮かべ、私の頭を優しく撫でると静かに告げたのだ。
「ニンファがヴィオラントを心配するのはもっともだ。僕も娘がこんな風に成長して正直安心して神様の身許に逝けない。今夜のお話はここまでにしよう。セルシスとニンファの許にお帰り」
「お次のデートはまた満月の夜がいいわ」
私が提案するとミモザお父さまは息を吐いて「わかった。扉は開けておくからおいで」と承諾してくださった。
私がミモザお父さまに抱きつこうとしたら、突然、ニンファの声が前方から響いた。
「ヴィオラ! 急に抱きついて脅かすな! どうした? 亡霊が怖いのか」
いつの間にか、亡霊のミモザお父さまから兄のニンファに戻っている。背後を見るとセルシスが心配そうに私を見つめていた。
「ヴィオラ、僕が話しかけても黙ったままで心配したよ。怖いのならもう離宮から出ようか?」
セルシスの言葉に私は嬉々として頷いた。
「セルシス、聞いて! 私、ミモザお父さまに恋をしたの! 次の満月の夜にまたお逢いするのよ」
私の台詞を聞いたセルシスは唖然とした顔でニンファと顔を見合わせている。
「やはり……。亡霊は父上だったのか」
「ヴィオラのタイプにドンピシャだったんだな。父上は」
「そうなの! 凛々しくて、それでいて儚げでお美しくて! 実のお父さまと恋に落ちるなんてロマンチックだわ!」
すっかり亡きお父さまに夢中になっている私を見ながらニンファは深い溜め息を吐いた。
「死んだ父上、困惑しただろうな。末の娘がこんな妄想癖に育って」
「ニンファ、お父さまは、お母さまに杖で殴られたのが死因ではないって」
「それを教えてくださった父上に感謝するけれど、僕、ヴィオラが心配で体調悪くなってきた」
セルシスがつらそうに膝をついたので、ニンファが素早くセルシスを支えると薬を飲ませている。
「セルシスが体調が落ち着いたら帰るぞ。ヴィオラ、すでに死んでる父上を困らせるな。あと、セルシスが心労で倒れるから父上に猛アプローチはやめろ」
「乙女が恋をしたら止められないの!」
こうして亡きミモザお父さまと出逢って、一目で恋に落ちて私はウキウキだった。セルシスはニンファが飲ませた薬で体調が回復したので、夜があける前に3人で宮殿に戻ったけれど、早速ダリア姉さまに報告しなくちゃ!
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