ヘタレ王太子と人質花嫁

寿里~kotori ~

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マックス・ケリー・シルバー

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 王太子コクトーの宮殿である「東の宮殿」……東宮にて王太子妃として暮らすナナは悩んでいた。コクトーのことは大好きになったし、自分も思春期の男子だがコクトーも同じようなものなので、やはり悩みの1番はこれに尽きる。

「コクトーとセックスしないと真の意味で夫婦じゃなくね?」

 コクトーはナナより1つ歳上の15歳で、同じベッドで眠り、時間の許す限り一緒にいるが、ナナが輿入れして以降、そういう展開に発展しないのが現実である。

 しかし、ナナはなんとなく察していた。王太子コクトーはナナを花嫁として愛したいが、ドヘタレゆえに手を出しかねていると。

「実際にコクトーは俺を抱きしめて寝ても、そういう行為は一切しないんだよな」

 朝の武術鍛練のあとにナナからそんな恋愛相談を持ちかけられ、王太子コクトーの護衛筆頭から王太子夫妻の護衛筆頭に任命され、更なる過重労働をかされたマックスは苦笑いしていた。

 マックスはそもそも大貴族シルバー家の前当主であったミシェルの愛人の1人であり、ミシェルの愛人筆頭だったモモの後輩のような立場だが、ミシェルが最も愛した存在はモモであり、マックスは、そんなモモの足下にもおよばない。実は、シルバー家前当主であるミシェルが美少年でも本当の意味で体の関係を持ったのは、モモだけだったりする。マックスやその仲間のステフ、ヒナリザは抱きしめられたり愛玩はされたが、ミシェルとそういう関係にはなれなかった。

「ナナ妃殿下。俺はシルバー家に保護される前は、少年が客の相手をする売春宿で客をとってましたが、本当の意味で愛する人とそういう関係になったとこはないです」

「マックス、お前の子ども時代って激烈ハードだな! 子どもにそんな商売を強いる売春宿も客も全員死ね!」

 ナナが憤っているとマックスは優しい笑顔で、こう付け加えたのだ。

「ステフやヒナリザも同じ売春宿で働く子でした。そして、売春宿を裏で経営する司教を摘発したのはミシェル様です。摘発ついでに俺とステフとヒナリザはシルバー家に保護されました」

「それって、美少年好きの大貴族が、司教摘発ついでにそこにいる美少年をかっさらっただけでは?」

 ナナはミシェルなど大貴族シルバー家の直系の子弟をよく知らない。モモはシルバー家当主だが、元は孤児であり、さきの前当主ミシェルとやらに拾われた愛人の中でも最も愛され、その才覚からシルバー家を飛び越えて、王家でも重宝されている。マックスをはじめ、ミシェルに助けられた美少年たちは、みんな官吏だったり、医学者だったり、磐石な立場で自立しているのは、単にミシェルが美少年好きな大貴族だったからではなく、その前の当主が非常に有能で、才覚ある子には身分関係なく門戸を開いた賜物である。

「ミシェル様のお父上のクロード様は前にも説明したようにロリコンでしたが、才能を認めた子には身分なく支援をおしまなかった。大貴族ならば見下して終わりな俺たちの将来を真剣に考え、導いてくれました」

 ミシェルはマックスが軍人になることに大反対したが、それを仲裁して、マックスの意思を尊重してくれたのが、先々代当主のクロードである。ミシェルは、「軍人なんて危険だ。マックスは賢いのだから他に道はある!」と説得したが、マックスはシルバー家を支えたい一身で王立士官学校への入学を止めなくて、膠着状態だったところに、当時のシルバー家当主だったクロードがマックスを擁護してくれたのである。

「マックスは賢く、武術のセンスもある。ミシェルはマックスを愛玩の対象としか考えぬのか? キチンとマックスの気持ちを考えよ!」

 この先々代当主クロードの一喝で、ミシェルは引き下がり、心配しながらもマックスの進路を認めたのだ。

「ナナ妃殿下。俺はシルバー家に救われ、シルバー家に生きる希望をもらい、自分の意思を肯定してもらえた。いくら感謝しても足りないくらいシルバー家には大恩があります」

 ナナの恋愛相談から少しそれたが、マックスは別に性的な関係になることが、夫婦の絆を確固たるものにするとは考えていないらしい。マックスはシルバー家に生かされ、こうして教育と訓練をつんで優秀な軍人になれた。そして、貴族でもない孤児であったマックスの出自を知った上で認めて、王太子コクトーの護衛と武術指南役を任せてくれた、女王陛下ダイアナと王婿ミモザ殿下に心から感謝して、モモと共にコクトーとナナを全力で守り、支える。

 マックスをシルバー家一門とした証しとして、先々代のシルバー家当主クロードはマックスにシルバー家の名を冠した。

「マックス、お前はこれからは単なる、マックス、ではなくて、「マックス・ケリー・シルバー」と名のれ! ステフとヒナリザもそのようにする。シルバー家に恩を返す必要はない。その、冠した名を生かすも殺すも、マックス、お前次第だ」

 それが偉大なる先々代シルバー家当主クロードの言葉であった。恩を返すな、はミシェルも常に言っていたことで、孤児であった身分を恥じるな、己の才能を生かして、幸せになれと、クロードをはじめ、歴代のシルバー家当主は口癖のようにマックスたちに優しくしてくれた。

「俺はシルバー家の方々によって育てられた。そして、救われた。今の俺は恩返しではなくて、自らの意思で、マックス・ケリー・シルバーと名のり、王太子に仕える。ナナ妃殿下、ひと言よろしいですか?」

「なっ? なんだよ!?」

 あまりに壮大な、マックスとシルバー家の関わりに完全に思考が持っていかれたナナに対して、マックスは心底優しげな笑みで告げたのである。

「別に、愛する人に義務で奉仕するが、花嫁の責任ではないです。ナナ妃殿下は既にコクトー王太子にとってかえがえのない存在。先を急がず、王太子コクトー殿下の傍にいればよいのです」

 ミシェルが本格的にマックスには手を出さずに愛玩しながらシルバー家という絶対的な安定の場を提供して、救ってくれたように、性的なことは抜きにしても、今のナナには王太子コクトーの傍で幸せになることが肝要だと、マックスは言いたいのだろう。

「ナナ妃殿下が笑っていると王太子コクトー殿下も笑顔です。お互いに心を許せて、愛情を育んでから、夫婦の時間を持っても遅くはない」

「マックスは本当に、イイヤツだな! リデル王子がベタ惚れるのもわかる!」

 コクトーの弟王子であるリデルの名をナナが出すと、マックスは苦笑しながらも、言ったのだ。

「俺はリデル王子をウザイと思っていますが、けして嫌いではありません。ただ……、俺はシルバー家の前当主ミシェル様の愛人の1人でした。体の関係はなくても、俺を心から愛してくれた人の遺志を大切にしたいだけです」

 モモだけがミシェルの相手をして、マックスは単に保護され、愛されただけの存在だったが、それでも、マックスにとって最も愛する存在はミシェルであり、尊敬する存在はモモであった。

 そして、マックスの教育に力を尽くしてくれた先々代当主のクロードから、こう言われたのである。

「マックス、シルバー家に恩返しなんて、けして考えるな。ミシェルにも、モモにも臆せず、堂々と生きよ。お前は、人一倍、義理がたいから養父として心配だ」

 売春宿で働いていた孤児である自分に対して、クロードは、自分はマックスの養父だと言ってくれた、シルバー家の先々代当主クロードの言葉は、マックスを心底心配する声音であった。ロリコンで、庶子の末息子には不器用な愛情で接していた当主クロードが放った、その案じる心は、おそらくは、マックスと同じく人一倍に努力家であった庶子の末息子に対して向けたかった言葉であろう。

「マックス・ケリー・シルバーの中の「ケリー」はクロード様の庶子で末息子である御方から拝借した名です。ロリコン当主でしたが、クロード様はミシェル様と同じように愛情深く、素晴らしい御仁でした。庶子の御子息への愛情表現はド下手でしたが」

「その庶子のご子息はいま、幸せなのか?」

 ナナの問いかけに、マックスは無言で頷いて笑顔で、ナナに、こう声をかけた。

「リン様……。シルバー家の庶子で末息子であらせられる御方は王都から遠く離れた土地の領主の次男とご結婚されて、幸せに暮らしています。1度、手紙をお出しになればよいかと? モモ様が話を通してくださいますよ。リン様はとても聡明で、お優しい御方ですから」

 リン様ならば、ナナ妃殿下と立ち位置的には似ているので、きっと的確なアドバイスをしてくれます、とマックスに促されたナナは、そのシルバー家の庶子とやらに手紙でコクトーのことを相談したいと強く思った。

 こうして、シルバー家の先々代当主の庶子で、田舎貴族の次男と男子同士で結婚していた、リン・ケリー・シルバーと北の大国の第4王子から王太子コクトーに嫁いだナナ・スカーレットとの間に繋がりができた。

 この2人の少年花嫁の繋がりが、王太子コクトーとナナにどんなケミストリーを起こすかは未知数だと、マックスは思っていた。

 実のところ、マックスはモモから、ナナがコクトーに関する恋愛相談をしたら、リンの存在をちらつかせろと、命令されて、延々と己の境遇からシルバー家に拾われて救われた過去話をしていたのである。

 シルバー家の先々代当主クロードから与えられた名前――マックス・ケリー・シルバーの名に恥じないよう、マックスは誠心誠意、王太子コクトー殿下とナナ妃殿下を、モモ様と共に守ろうと改めて決意していた。


【続く】



 
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