ヘタレ王太子と人質花嫁

寿里~kotori ~

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女王陛下のご褒美

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 学問は好きで得意だが、乗馬や武術などいわゆる体育教科が大の苦手である王太子コクトーではあったが、ドヘタレっぷりが功を奏して、名馬エミリオがお情けでコクトーを背中に乗せてくれるようになり、乗馬は少しだが克服した。エミリオはとっても良心的な名馬なので、王太子妃であるナナの可愛さと、ナナのコクトーへの健気なフォローに免じて、特別に何度でも云うが、お情けで、王太子コクトーの愛馬になってくれたのである。

「エミリオはコクトーになついて、忠実になったし。俺も自分の馬が欲しい!」

 軍事国家に生まれ育ち、乗馬の腕前はコクトーより格段に優れたナナの要望を受け、コクトーの教育係であるモモは狙ったように茶化した。

「ナナにはコクトーがいるだろ? アイツに好きなだけ馬乗りになれ! 鞭ならば貸すぞ?」

「そういう馬じゃなくて! キチンと乗馬する馬がいいんだ! シルバー家の基準で会話するな!」

 こんなふうにナナが自分用の馬が欲しいとねだるので、モモは笑いながら首を縦にふると、思わぬことを告げる。

「女王陛下がナナのコクトーへの献身に感謝して、褒美を与えると仰っている。そこで、馬が欲しいと奏上してみたらどうだ?」

「えっ!? ダイアナ女王陛下が俺に褒美を? 王太子妃として俺はまだ王太子であるコクトーの役になんて立ってないぞ!?」

 コクトーとは少年どうしで夫婦になっているが、夫婦としての寝室での関係はいまだに成立しておらず、王太子妃としても、王宮の社交場でナナは大失敗して、王婿ミモザ殿下にフォローされる始末だ。

 そんな、いたらない王太子妃である自分に、ダイアナ女王が感謝しているなんてナナには予想もできなかったのである。

「なにも成してない俺が女王陛下から褒美を賜るなんてとんでもない! 俺は、まだそんな実績をのこしてない! 断る!」

 恐縮して断固拒否っているナナに対して、モモは冷静な声色で言い切った。

「ナナ、お前の意思なんて関係ない。ダイアナ女王陛下が直々に、ナナ対して褒美をとらせると仰っているんだ。断る権利なんて、最初からナナにはねぇんだよ」

 要するに、ダイアナ女王陛下の意向なので、断るのは逆に無礼になるということだ。

「賜る品は、ナナが望むものを俺がミモザ殿下に伝えて、ミモザ殿下が女王陛下に奏上することになる。馬が欲しいんなら、とびきりの名馬をくれるぞ!」

 よかったな、と笑顔でモモは宣うが、女王陛下から賜る褒美に乗馬用の馬が欲しいで大丈夫なのだろうか? 乗馬用の馬ならば王太子専用の厩舎に良質な名馬がたくさんいるので、コクトーに頼んで、それのどれか1頭を譲ってもらえばいい話である。

 そう考えた瞬間であった。

 この国に、コクトーの嫁として輿入れして、王家の慣習の洗礼を受け続けているナナは、ハッと察したのだ。

「これって? 女王陛下は褒美って体裁で試してるだろ? 俺のことを」

 ナナが率直に質問するとモモはニヤリとして頷いた。

「鋭いな。女王陛下はナナがどんな品を褒美に望むかで知りたいんだよ。息子の嫁であるお前のことを……。有り体に云うと、どんな本質の持ち主か?」

 やはり、そういうことかと理解したナナは一応だが、モモに確認をした。

「褒美は馬に限らなくても、なんでも、いいんだろ?」

 ナナの言葉にモモは、「もちろん! 金銀財宝でも、宝石でも、なんでもOKだ」、と即答してくる。

 すると、ナナは笑顔で、馬は要らないから別に欲しいものがある、とモモに耳打ちをした。

 ナナの望む品を聞かされたモモは、少し瞳を見開いたが、楽しそうに口角を上げると、「そりゃ、面白いな。早速だが、ミモザ殿下にお伝えする」と承知してくれた。

 こうして、ナナの望む褒美の品はモモを介してミモザ殿下が、女王ダイアナに対して奏上したのである。王婿ミモザ殿下はナナが欲しいものを知るとモモの前で愉快そうに笑った。

「流石は、僕とモモが見込んだ外交カード! 北の大国の王を言葉巧みに騙して、ナナを輿入れさせたことは大正解だったようだね。モモ?」

「まったくです! ミモザ殿下の外交手腕はお見事! 中途半端な王女なんかより、王太子であるコクトーの花嫁にはナナが相応しかった!」

 ミモザ殿下とモモは仲良しのイタズラ友達のようにクスクス笑いあっていた。果たして、ナナは王婿ミモザ殿下を介して、なにを、ダイアナ女王陛下から賜りたいと奏上したのか?

 その解答はすぐに明らかとなる。

 約1ヶ月後、東宮の庭園に女王陛下専属の庭師がうやうやしく訪ねてきて、庭園の1番景色のよい場所に薔薇の苗を数種類、丁寧に植えてくれた。

「ナナ、母上にお願いした褒美の品って、あの薔薇の苗かい? 薔薇ならば庭園にたくさん咲いているけど?」

 王太子コクトーが不思議そうに首を傾げていると、ナナは庭師から渡された「薔薇の育て方」の覚書を読みながら、元気に頷いた。

「東宮の庭師にも協力してもらって、あの薔薇たちを見事に開花させるんだ!」

「そうなの? ナナにガーデニングの趣味があるなんて知らなかったよ」

 気が強いようで、そんな可愛らしい趣味があるんだなと、コクトーはついつい納得仕掛けたが、そこにモモが現れて、軽くコクトーの頭を小突いた。

「単なる王太子妃のガーデニングじゃねぇよ! ナナが女王陛下から賜った薔薇の苗は8種類もある。その意味がわかるか?」

 薔薇の苗が8種類もあるという時点で、コクトーはナナの秘めた気持ちを察して、「あ!」、と驚嘆の声をあげた。

「ナナを抜かした王家の家族だ……! 母上にミモザ父上、それに僕……。そして、リデルにファナ、モニエ&ルクレールとリラ!」

「その通り! ナナは、大好きなコクトーと結婚させてくれたダイアナ女王陛下や王婿ミモザ殿下、そして、自分をあたたかく迎えてくれたコクトーの弟妹たちに贈るための薔薇を育てるってよ! あと、ヘタレだが、愛すべき旦那にもな!」

 ダイアナ女王陛下は、ナナの、その素晴らしい心がけに大層感動して、国内外から選りすぐりの薔薇の苗をお取り寄せしたのだ。薔薇は優秀な東宮の庭師がナナと一緒に育てるので、時期が来たら、東宮には、ナナが愛する夫と新しい家族を想って植えた薔薇の花が咲き誇るだろう。

「お前は、いい花嫁をもらったな。コクトー、ナナをずっと大切にするんだぞ?」

 モモが珍しく笑みを浮かべているので、コクトーは照れながらも、「うん! 必ずナナを幸せにする!」、と宣言したのである。

 東宮の庭園で庭師と薔薇の手入れをしているナナを見守っていたマックスは、少し離れた場所に別の苗が植えられていることに気がついた。

「ナナ妃殿下? あちらにも見慣れぬ薔薇の苗がありますが?」

 そう問いかけたマックスにナナは庭師と顔を見合わせながら、こっそり告げたのである。

「あちらは、ミモザ殿下に秘密で頼んだ苗だ。俺とコクトーがモモやマックス。それにいつも東宮で働いてくれている皆に捧げる感謝の薔薇ってことで」

 王室メンバー以外に、ナナはこっそり、マックスやモモに感謝するための薔薇まで用意していたのだ。

「薔薇が咲くまで、モモには秘密だぞ? あれはあくまで、コクトーが発案したことにミモザ殿下にはしてもらってるから!」

「ナナ妃殿下、ありがとうございます。モモ様はおそらく察するでしょうがとても喜びますよ!」

 こうして、ナナは薔薇の手入れを庭師任せにせず、自らも栽培を勉強して率先して育てている。そんな可愛いナナの姿に感銘を受けたコクトーも薔薇のガーデニングに加わった。

 女王陛下はナナの優しさと心映えを認め、夫である王婿ミモザ殿下に密かに、別の褒美をナナに与えるよう頼んでいた。

「高潔で愛すべき王太子妃にお似合いの名馬をプレゼントしたいわ。ミモザ。ナナに、とっておきの馬を贈ってあげて!」

「承知しました。姉上。ナナには、女王陛下の厩舎で生まれた名馬を直々に贈ります」

 感謝の気持ちに薔薇の苗を頼んだナナであったが、結果的に女王陛下が所有する厩舎の馬を直々に下賜されることとなる。ダイアナ女王陛下が王太子コクトーの少年花嫁ナナを心から気に入り、嫁と認めた証拠であった。

 薔薇の世話を和気あいあいと庭師やコクトーとしながら笑っているナナはまだ、そのことを知らない。

「女王陛下直々の名馬を下賜された存在なんて、ミモザ殿下以来だ。ナナは相当に女王陛下に気に入られたな」

 すべてミモザ殿下が読んでいたとおりだと、モモはニヤリとしたが、マックスは少し心配そうにしている。

「ダイアナ女王陛下の厩舎の馬って、総じて気性が激しい暴れ馬ですよ? ナナ妃殿下は大丈夫でしょうか?」

 息子の嫁であるナナに選りすぐりの暴れ馬を贈ったダイアナ女王はなにをお考えなのか、とマックスが息を吐くと、モモが楽しそうに笑った。

「ナナだったら暴れ馬だって平気だ! じゃじゃ馬だからな!」

 女王陛下が敢えて下賜した、暴れ馬が近々ナナに届けられることになり、ナナは望み通り、自分の馬を手に入れることになる。


【続く】

 
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