ヘタレ王太子と人質花嫁

寿里~kotori ~

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リデルの初恋と恋慕

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 4歳の頃には虜になっていた。

 ――この御方を生涯お慕いしよう。たとえ、その想いが成就しなくても――

 コクトーのすぐ下の弟である第2王子リデル・ミケロットは幼い頃から兄の護衛であったマックスを熱愛していた。

 リデルが4歳の頃のマックスは18歳。王立士官学校を首席で卒業して、近衛隊に配属されたばかりであった。近衛隊の指揮官エロシェンコは優秀なマックスに王太子コクトーの護衛を任せるつもりで、まだ5歳であったコクトーと度々、会わせて馴染ませていた。

 コクトーの年子の弟王子であるリデルは内気で弱気なコクトーと遊ぶことが多くて、その関係でマックスと顔を合わせる機会が多くなる。

「コクトー王太子殿下とリデル王子。ミモザ殿下がダイアナ女王陛下がご懐妊されたご事情で、子守りを私の部下で愛弟子のマックスが務めます」

 近衛隊長であったエロシェンコの推薦で、マックスはコクトー&リデルの護衛と子守りを短期で任されていた。

「かわいいギエリが槍を持って♪ 愛しいカラビの心を狩りに♪ ――いいのかい、いいのかい、死んでもいいのかい~♪――♪」

 テンポよく意味不明だが軽快な歌をマックスは歌いながら、転んで泣いている兄コクトーをあやしている。その声は、澄んでいて、朗らかで利発な雰囲気であった。

 リズミカルだが、不吉な歌にコクトーは怯えて、更に泣いたが、リデルは笑顔でヤバい歌を声に出すマックスに惹かれた。

「そのお歌はだれがつくったの?」

 リデルが訊ねるとコクトーを撫でていたマックスはなんてこともなく答えた。

「俺の記憶に残っている母の子守唄です。物心ついた頃、母に売られましたが」

 それだけ告げるとマックスはリデルなんて無視して、コクトーに構っている。

 このそっけない態度と意味不明な子守唄でリデルはマックスに惚れた。この人は哀れだが、強くて、美しくて、凛々しく、完璧に見えるが狂っている。

 リデルはそんなアンバランスなマックスに夢中になってしまった。この人と結婚したいと熱望した。

「マックス! わたしは、あなたが好きだ! 結婚して、お嫁さんになって!」

 幼いなりに真剣にマックスにアプローチしたリデルであったが、マックスの反応は異様なほどに冷ややかだった。

「はぁ? 単なる王家の血筋なだけの御ガキ様が俺を嫁に? 寝言は墓に埋められたらほざけ」

 4歳児にまったく容赦ないマックスの突き放した態度にリデルは屈辱と同時に胸を打ち貫かれてしまう。リデルが恋を自覚しても、マックスは完全無視して、コクトーにだけ構っている。

「わたしは、いまは、小さいが、大人にる! そうしたらあなたは、わたしを好きになる!」

 リデルが4歳なりに熱弁しても、マックスは聞き流して相手にしていなかった。コクトーは転んだ傷の痛みは引いていたが、幼いリデルに超絶塩対応なマックスの態度に引いていた。

――――――

「それが僕が記憶してるマックスとリデルの邂逅だよ。あんなひどい態度で冷たくしたのに、リデルのマックスへの愛情は年々増していった」

 コクトーからマックスとリデル王子の因縁を聞かされたナナは困惑した。そのエピソードではまったくリデルがマックスに恋い焦がれるキッカケが理解できない。

「単に、ヤバい子守唄を歌って塩対応した無礼な近衛の新入りじゃないか?」

「普通の感覚ならばそうだけれど、リデルは常人とは違うから」

 最悪な対応をされたのにリデルはマックスに夢中で、軍人になるべく学問と同時に武術も抜かりなく鍛練している。ミモザ殿下もそんなリデルを止めない。

「リデルがいくらマックスが好きでも、そのうち、ミモザ父上が縁談を進める」

 子供の意思なんて無視して、ミモザ殿下は愛する子を手駒として政略結婚させるだろう。

「なんか、自分の意思をことごとく無視され、無碍にされるリデル王子が不憫だな」

 王家の王子ならば政略結婚も仕方ないが、そんな運命のリデル王子にマックスがもう少し優しければいいのにとナナは不満だったが、コクトーは息を吐くと言ったのだ。

「マックスはわざとリデルを突き放してる。自分なんかと関わるなって暗に伝えている気がするんだ」

 マックスの真意はわからないが、リデルはマックスなんて忘れて、別の相手と幸せになった方が身のためだと結論を出したが、意外なことにコクトーはその意見を指摘してきた。

「マックスの願いも多分、それだよ。自分ではなくて、もっとリデルに相応しい人と幸せになってほしい。マックスは優しいから。自分を純粋に愛してくれる存在を不幸にしたくないんだ」

 だから、好意を示すリデルに尋常でないほど冷たく接している。

 それがコクトーの持論だがナナにはまだわからない。

 どちらに転んでもマックスとリデルが幸せであってほしいがナナの本心である。

 「かわいいギエリが槍を持って♪ 愛しいカラビの心を狩りに♪ ――いいのかい、いいのかい、死んでもいいのかい~♪――♪」


 その子守唄を置き土産に母親に売られたマックスは自分に思わせぶりな存在が生理的に嫌いなのかも知れない。純粋に好意を見せる者も疎むレベルにマックスの心の底には深い闇がある。

「ミシェルってシルバー家の前の当主が、モモとマックスを同等に愛したら話は違ってたのか?」

 愛玩するだけでなく、普通に愛されていたら、マックスの精神状態もまったく異なったのかとナナは切なくなったが、コクトーは首を振ると告げた。

「マックスはモモを嫌いにもなれなくて、ミシェルの愛情を無碍にもできなかった。そんなマックスを僕は嫌いじゃないよ」

 そういうものなんだよとコクトーに抱きしめられながらナナは思っていた。

「コクトー、これから俺と本番なのに、話題がマックスとリデル王子ネタかよ! ムードぶち壊しだけど、そういう優しいコクトーが大好きだ」

 理解はできないが、愛おしい人の1番になれなかったマックスの葛藤の反動を考えると、ナナにもマックスを非難する権利はない。

「弱気でも、へたれでもいい。変に完璧なヤツよりコクトーみたいなヘタレの方が安心できる」

「ナナ、本当の初夜でディスらないで!」

 こんな具合にコクトーとナナは初めて、夫婦としての夜を迎えた。こんなふうに愛する人と抱き合える自分は希に見る幸せ者なのだとナナは実感した。


【続く】




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