花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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金貨の使い道

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リンが嫁いでくる前のユーリの日常は呑気なものだった。

朝早く起きて、領内を散歩しつつ畑の手伝いをして領民と世間話をする。

屋敷に帰ってから家族で母と兄嫁と召し使いが用意した美味しい朝食を食べる。

そして、甥っ子のジャンと姪っ子のクレールを領内の学校まで馬で送迎する。

ラン・ヤスミカ領では領主の子供でも家庭教師でなくて普通に学校で勉強するのだ。

召し使いは忙しいのでユーリが馬に乗せて送り迎えしている。

すると、近所の学校に通う子供が集まるのでワイワイ賑やかに登校となる。

ジャンとクレールの双子兄妹は叔父にあたるユーリが大好きで遊んだり宿題を手伝ってもらう。

甥っ子&姪っ子を学校に送ったら今度は屋敷に戻って父ラクロワと兄エセルの執務の手伝いがあればしたり、なければ領地の畑や牧場のお手伝いをして昼になり、午後は学校が終わったジャン&クレールのお迎え。

あとは遠乗りに行ったり、買い出しに出かけたり、爆弾作ったりと平和そのものであった。

しかし、リンが嫁いで来てからは状況が変化する。

特に劇的変化ではないが、リンが傍にいる時間が多いのだ。

朝も夫婦で出歩いて、領地の人々の話を聞きながら畑を耕して、ジャンとクレールの送り迎えもする。

リンは都から嫁いできた貴族様なので子供らは興味津々である。

「リン様!都のお城ってどんなの?」

「バカ!お城じゃない!宮廷だよ!」

子供たちは無邪気で可愛いのでリンは楽しんで質問に答えていた。

「王様と王妃様が住んでいる王宮はすごく立派で美しいですよ。私は父上の馬車から眺めただけですが華やかなドレスの貴婦人や優雅な貴公子がたくさんいます」

「すごーい!ドレスなんてお姫様みたい!」

「舞踏会ってあるの?リン様もダンスできる?」

「はい。もちろん。ダンスは幼いころから習いました」

リンが少しユーリを相手に踊ると子供たちは歓声をあげた。

「ダンス教えて!私もリン様みたいに踊りたい!!」

「ドレス着て、優雅に踊って王子様と結婚しちゃったり!」

盛り上げる子供たちのなかで、ユーリの姪であるクレールは冷静であった。

「みんな!あまり騒ぐとリン様が困るわ!リン様はお忙しいの。ダンスなら学校で習うでしょ?」

ラン・ヤスミカ家次期当主エセルの娘であるクレールはしっかり者で子供たちのリーダであった。

双子兄のジャンはおっとり系だがクレールは少しばかり気が強い。

リンは子供たちがダンスを習いたそうにしているので機会があれば教えると返事をした。

無事に子供たちが学舎に入るとリンはユーリに提案してみた。

「ダンスは覚えて損はないので教えますか?」

「たしかに女の子たちは喜びそうだが、リンが常に教えるのも大変だろ?家の手伝いもあるし」

ラン・ヤスミカ家では召し使いがあまりいないので家の仕事は家族で行うスタンスだ。

炊事洗濯はエセルの嫁フィンナが中心で働き、リンも裁縫や家事をお手伝いしていた。

ラン・ヤスミカ家の人々は優しいので、リンが慣れない炊事に苦労しても笑顔で見守っている。

更に召し使いが腰を悪くした際は当主ラクロワが薪割りしたりとラン・ヤスミカ家の屋敷は召し使いに優しいと評判であった。

「召し使いだって家族みたいな距離感だしな。無理はさせられない」

「ユーリ様やラン・ヤスミカ家の方々に仕える召し使いは幸せですね」

「そーか?みんな文句言わず働いてるが給金安くて不満じゃねーかな?」

「屋敷に仕える人を大切に思ってる気持ちは金貨より嬉しいものですよ」

そんなことを話しながらユーリとリンは屋敷に戻っていった。

屋敷に入るとラン・ヤスミカ家の土地建物を管理する召し使いのトーマスがユーリとリンに近寄ってきた。

トーマスはラン・ヤスミカ家の執事兼建物管理もするなんでも屋のようなメガネの男性である。

「ユーリ様、リン様。旦那様とエセル様にもお話ししましたが、屋敷が相当老朽化してます。耐震性を考えて改装を提案いたします」

「トーマス!うちの財政で屋敷修繕する費用なんて出ない!雨漏りは俺が直してるから我慢しろ」

ユーリが反対するとトーマスはメガネを整えて意見してきた。

「ですが!ユーリ様も奥方様であらせられるリン様を迎えて立派な青年貴族!恐れながら、敷地内に別邸を構えるくらいの甲斐性を見せてこそのラン・ヤスミカ家です!」

「その甲斐性があったらもっと早く屋敷を建て直す!別邸なんて構える余裕はない!情けないけど」

実をいえばリンが嫁入りしたときに莫大な持参金と結納金が届いたが、持参金はリンの財産であり、結納金は領内のライフライン整備に使った。

なので、トーマスが主張するように改装や別邸なんて夢のまた夢だが、リンには考えがあった。

「要するに領民から重い税をとらないで屋敷を修繕して別邸を建てるだけの資金を確保すればいいのですね?」

リンの発言にトーマスは丁重に頷いた。

「その通りです!いくら田舎貴族でも屋敷があまりにボロいのは示しがつきません!」

「分かりました。資金は早急に調達させます。3日ほど待ってください」

リンはそれだけ言うとスタスタ屋敷の奥に行ってしまった。

ユーリにはリンが何をするのか訳が分からない。

「リンは何をするつもりだ?」

「分かりかねますが、リン様は非常に聡明で頼りになる御方様です!実家のシルバー家から送金を頼むのでは?」

トーマスの予想は外れてリンは持参金をすべて用意すると屋敷で窓の修繕を手伝っていたモモを呼んだ。

「モモ。重要な任務を与える。この私の持参金を元手にギャンブルしてきてほしい。持参金の10倍の金貨を用意してくれ。3日以内に」

「この前、国境偵察させて今度はギャンブルしてカネ作れですか?持参金を俺が溶かしたら?」

「それはあり得ない。モモなら楽勝だと信じてる」

リンに頼まれたのでモモは急いで支度をして領地の外にある比較的大きな街の賭場に向かった。

「坊や。ここは裏賭場だよ?怖いところだからよそにいきな」

ガラの悪い屈強な男にまで心配されたがモモは約束通り、裏賭場で大金を稼いでいた。

ギャンブルがあまりに強すぎて賭場の兄貴たちは驚愕したが、モモはリンの言い付けと同じ額を稼ぐと笑顔で言ったのだ。

「この街で1番の金持ちの屋敷ってどこ?」

「1番の金持ち!?なら、金貸しをしてるメデューサ家だな!」

「そうそう!成金でよ!金銀財宝が山盛りだって話だ!」

「金持ちだが悪どい金貸しだぜ?」

金貸しのメデューサ家の話題で盛り上がる賭場の男たちにモモは稼いだ金貨を全部差し出した。

「これは報酬だ。メデューサ家の情報が知りたかった。この金貨はやるよ」

「坊や!?いいのかい!?こんだけあれば遊んで暮らせるぞ!?」

「遠慮するな。それより。取引だ。次に俺がここに戻ったら調達してきたもんを買い取ってほしい」

「へ?構わないが?何を持ってくる気だ?」

怪訝そうにするヤクザ者の大人たちにモモはニヤリと微笑み耳打ちをした。

それから3日後

モモはリンが指定した額より100倍多い莫大な金貨を用意してラン・ヤスミカ家に戻ってきた。

いつも置いてけぼりのミシェルはモモが無事に帰ってきて喜んで抱きしめ、キスをしてくる。

「モモ!無事に帰ったか!リンの持参金は増やせたのか!?」

「当たり前だ。こんだけあれば別邸でも、城でも建てられる。リン様の願いは叶えた」

「流石はモモだ!リンも喜ぶだろう!」

満足そうに微笑むミシェルにモモが苦笑いして息をはくとリンが近寄ってきた。

「随分、大金を稼いだね。持参金の10倍より多い」

「今後もなにかと金は必要です。苦労して最大限まで増やしてきました」

モモがニヤリとするとリンは金貨が詰まった袋を見て、ため息を吐いた。

「あまりに資金が莫大だとユーリに不審がられる。無難な金額をシルバー家からの送金と説明するから残りはモモが管理して」

「承知しました。余った金貨は自由に使っていいですか?」

「もちろん。モモに任せる」

リンの返事を受けてモモは莫大な金貨を手にして再び賭場に向かった。

「よお!坊や!来たか!」

賭場の男の挨拶にモモは片手をあげると問いかけた。

「メデューサ家の娘は?」

「もう街にはいねーぜ!好きな男と逃げちまった」 

「しっかし!お嬢様が進んで誘拐されるとはな!親父から嫌な相手と結婚しろって迫られてたんだろ?」 

「俺ら柄にもなく善行しちまった!!」

豪快に笑う男たちを見て、モモは余った金貨を放り投げた。

「やるよ。娘を駆け落ちさせた報酬だ」

モモが金貨が詰まった袋を投げてよこすと賭場の男たちは黙ったが元締めの男が言った。

「坊や。気前いいのは結構だが、俺らの取り分は充分にある。この金貨はとっておけ」

「別に使い道がねーし」

「これからの人生があんだろ?坊や。いつ死んでもいいみたいなツラはやめな。金貨は必要なときが必ずくる」

元締めに説得され、モモは金貨の袋を持つと俯いて呟いた。

「必要なときか……」

少し考えてモモは裏賭場の元締めと子分に金貨を数枚づつ配ると提案をした。

「転職しないか?ラン・ヤスミカ家は知ってるだろ?そこで働いてくれ」

突然の仕事斡旋に賭場の元締めと子分たちは目を丸くしている。

「その貴族様なら知ってるが貧乏だろ?しかも、俺らみたいなゴロツキなんて雇うか?」

「雇う!屋敷は超絶人手不足だ!お前らは信用できる。給金は俺が払うから来てくれ」

「ええ~!マジかよ!?俺らカタギになれるのか!」

そんな経緯でモモはラン・ヤスミカ家に頼れる召し使いをスカウトして連れてきた。

リンが実家からの送金だと嘘をついて用意した大金でラン・ヤスミカの屋敷は改装されて敷地内に別邸を増築する。

以前より豪華な屋敷になるのでラン・ヤスミカ家の人々は喜び、召し使いのトーマスは狂喜乱舞していた。

「流石はリン様です!これでシルバー家は単なる田舎貴族でなく由緒ある名家であると箔がつきます!しかも!給金が高くなった!召し使いも増えたしバンバンザイですよ!」

増えた召し使いとはモモが賭場でスカウトしてきたゴロツキさんたちである。

彼らは屋敷でのマナーを勉強しながら、薪割りや料理や子供たちの送迎を担当している。

ユーリが屋敷の改装費用を贈ってくれたシルバー家本家に御礼の書簡を送ると次期当主のエドガーから丁寧な返事が届いた。

「弟のリンだけでなく兄ミシェルとモモまで世話になり、かたじけない。ユーリ殿はお優しく賢い夫君であるとリンから常に手紙が来ております。ラン・ヤスミカ家のお屋敷が完成した際は是非ともお祝いの品を贈りたく存じます」

エドガーはシルバー家がリンに送金した事実などないと分かっているが、おそらくリンとモモが知恵を働かせて大金を得たと解釈した。

屋敷が完成するまでは大変だが、リンはユーリと仕事をしながら仲睦まじく過ごしている。

「別邸が完成したら子供たちを呼んでダンスを教えます!」

「いいな!更に賑やかで楽しくなる!」

仲良く笑い合っている2人を見ていた新入り召し使いで元締めはモモに質問した。

「ユーリの若旦那はリン様に惚れてるな。顔見りゃわかる」

「そりゃ夫婦だし。リン様だから当然だろ」

「モモ様よ。あんただってスゲー旦那がいるじゃねーか!」

「ミシェルか?あいつが生涯俺を愛する保証なんてどこにもない」

瞳を伏せるモモに元締めは笑うと背中を叩いた。

「俺って賭場を仕切ってたから人の顔で人相見は得意だぜ!ミシェルの旦那はモモを見捨てない!あんま深刻に考えるな!」

「そうなら幸せかもな」

顔をあげたモモが少し笑うとミシェルが奥から走ってきた。

「モモ!素晴らしい案を思い付いた!ジャン殿とクレール嬢が通う学校で先生が足りないらしい!私が引き受けようと思うのだ!」

「不採用だ。ガキでハーレム作る変態が学校の先生!?泥棒に留守番任せるのと同レベルに信用できねー!」

「モモ~!!さては妬いているな?安心しろ!学校に食べたくなるような美少年はいなかった!ジャン殿はちょっと可愛いが、ユーリ殿の甥っ子だし、さすがに手は出さない!それくらいのモラルはあるぞ!」

だから、今度から領内の学校で勉強を教えると宣言するミシェルの姿を見てモモは仕方なく頷いた。

「好きにすれば?でも、普通に勉強を教えろよ!やましいことをしたらリン様の汚点になるからな!」

「もちろんだ!早速、リンに報告する」

ミシェルが領内の学校で先生になると知ったリンはモモが許可したなら平気だろうと判断した。

「ミシェル兄上!子供たちを普通に教育してくださいね!あくまで普通に!」

「リン!私は美しくない男児と女児全般には普通だ!」

ユーリは都で英才教育されたミシェルが学校の先生になってくれれば領地にも有益と喜んだ。

「義兄上!ジャンとクレールにも遠慮なくたくさん勉強させてください!」

ミシェルはそんな流れでラン・ヤスミカ家の子供が通う学校の先生となったが元ゴロツキの召し使いに送迎されている途中でクレール嬢は愚痴をこぼしていた。

「ミシェル様のお勉強は面白くて素敵だけど微妙よ」

唇を尖らすクレールに双子兄のジャンが首をかしげた。

「そうかな?ミシェル様はお優しくて哲学や数学を分かりやすく教えてくれるよ?」

「そうだけど……モモ様との馴れ初めを詩にして感想文を書かせるって教育委員会に訴えられる案件だわ」

護衛で送迎していたゴロツキはモモからミシェルが男の子を襲ったら殺していいと命令されているが、のろけ話するなら教育委員会的にアウトだが大丈夫だと結論づけた。

ジャンはミシェルが11歳のモモと出逢った奇跡のポエムよりも昨夜、トイレに起きたら、物陰でユーリとリンがキスしてた現場を見た方にドキドキしていたりする。

ユーリとリンは夜にキスするレベルには夫婦としてラブラブなので別邸が完成すればエロ行為も時間の問題とリンはモモに語っていた。

モモとしてはユーリとラブラブなのも結構だが仕事しろよとも思ったりする。

end







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