花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

文字の大きさ
8 / 76

サンドイッチ

しおりを挟む
ラン・ヤスミカ家にユーリとリンのための別邸が完成した。

別邸というより離れ屋といった感がいなめないが本邸のとなりの空き地で建てた小綺麗な洋館である。

豪華ではないが素朴で温かみある別邸なので領地の豊かな自然に溶け込んでいる。

室内のインテリアはリンが考えて、モモと相談して職人たちに設計させた。

ユーリは手先の器用さを遺憾なく発揮して建築を担当する職人たちの手伝いをして楽しく過ごしていた。

別邸に居を移すのはユーリとリンだけではない。

リンの異母兄のミシェルとその内縁の妻であるモモも本邸から引っ越しをする。

モモにいたってはミシェルの妻というより最近ではリンの腹心として仕事することの方が多い。

歳も近いのでリンはモモを信頼して色々と相談するがモモからするとミシェルだけで手一杯なのにリンの世話までする羽目になる。

「俺、一応はミシェルの愛妾みたいな立場だぞ?なのに国境偵察させて、更に金儲けしてこいって仕事丸投げ!完全に便利屋にされてる!!」

先頃、街の裏賭場からスカウトしてきたゴロツキのリーダーで賭場の元締めだったシオンにモモは愚痴をこぼしていた。

シオンは裏賭場を仕切っていたならず者だが、仲間思いで人情味があって頼れる兄貴のような存在だ。

ラン・ヤスミカ家の人々はからも信頼されて、別邸の執事に任命された。

渋い兄貴であるシオンは膨れっ面になるモモをからかうように笑った。

「それでも完璧に仕事するモモはリン様のこと、嫌いじゃねーだろ!」

「別にリン様のことは嫌いじゃない。なんだかんだ言ってミシェルに拾われて以来の付き合いだしな。身分が卑しくて犯罪歴まである俺がミシェルの愛人でも平然としてたし。野良猫を兄貴が拾ってきたくらいのテンションだったかもな」

軽く伸びをして苦笑いするモモを見ながらシオンは低い声で呟いた。

「俺はミシェルの旦那やリン様がモモを野良猫なんて思ってねー方に金貨10枚賭ける」

「ふーん。金貨10枚な。シオン。お前の給金から天引きするぞ」

年相応にクスクス笑うモモの頭をシオンが撫でているとリンが駆け寄ってきた。

「モモ!探してたんだ!ユーリにランチを届けたいのだが、サンドイッチが作れなくて!一緒に作ってくれ」

聡明で美しいリンだが料理だけは練習しても苦手なようだ。

もちろん厨房に料理を作る召し使いはいるが、リンはユーリに自分の手料理を食べさせたい。

「フィンナ義姉上は本邸の食事の支度があるから頼れない。モモ、手伝って!」

「わかりました。厨房に向かいます。ユーリ様は今日も畑ですか?」

「ああ。葡萄の収穫の助っ人に。葡萄畑の皆にも御馳走したいからたくさん用意する」

張り切るリンの姿にモモは笑うとシオンに命じた。

「聞いたか?サンドイッチが大量にいるからお前も手伝え。執事だろ?」

「かしこまりました。んじゃ厨房に行くか!」

こんな具合にリンがモモやシオンとサンドイッチ作りをしている頃、葡萄畑でユーリはミシェルの嘆きというか相談を一方的に聞かされていた。

「モモが別邸の執事になったシオンと仲良しすぎる。シオンの奴、平気で可愛いモモの頭をナデナデしてる!私なんて今でもお金を払わないとナデナデできないのに!!」

「義兄上。シオンにとってモモ殿は弟みたいなものですよ。モモ殿は義兄上には照れていて素直になれぬだけで」

照れて素直になれないからって、愛する男から金を取るかは疑問だが、ミシェルはモモを撫でたいときは料金を支払っている。

「ちなみに頭を撫でるは金貨3枚で抱きしめるは6枚、夜の相手させるは1時間で100枚になる」

「料金割高ですね。朝まで一緒にいたら凄い金額になる」

「そして、私のやり方が下手だと罰金で500枚金貨取られている」

ペナルティー金額まで存在する時点でぼったくり感満載なのだが、律儀に金を払うミシェルも正気ではない。

シルバー家の資産を考えるとはした金になるが、大貴族の愛人になれただけでもラッキーなのに、そのうえ、頭撫でるにも、抱きしめるにも、セックスするにも金を要求するモモは野良猫なんて可愛いものでなく、ハイエナとかハゲ鷹とかの部類である。

ユーリは女も男も買ったことない清らかすぎる青年なので、やはり愛人という存在はひたすら金がかかるのだなと納得した。

「そういや、リンとモモ殿って黒髪で雰囲気が似てますよね!最初モモ殿を見たときは兄弟かと思いました」

何気ないユーリの発言にミシェルは真顔でのたまう。

「それは当然だ。モモを愛人にした理由はリンに似ていたから。モモは窃盗と恐喝と強盗と傷害罪など殺人以外はコンプリートしているから揉み消すのに苦労した」

「義兄上は本当にモモ殿を愛しているのですね!それだけの罪状をどうやって揉み消したか気になります」

言っておくが現在は葡萄収穫中である。

当然だが葡萄農家の人もいるわけで、ユーリとミシェルの話を聞いている。

だが、領地の人はドン引きせず「都ってデンジャラスね~!!」と笑顔で盛り上がっている。

そんな穏やかな雰囲気のなかでリンはモモを伴ってサンドイッチを届けにきた。

葡萄農家の面々はリンが直々にお昼を持ってきてくれたので感動している。

ミシェルも今回は無料でモモの手作りサンドイッチが食べられることに感動している。

「ユーリ!遅くなってごめん!サンドイッチ!たくさん作ってきた!」

ユーリに抱きつくリンは幸せそうで葡萄畑にほのぼのとした風が吹いた。

早速、昼食にしようとサンドイッチとワインを味わったが、意外な結果が待っていた。

「このサンドイッチ!美味しいな!リンの手作りだろ!チキンとハーブとナスのマリネが絶妙に合う!」

ユーリはサンドイッチを食べてとても嬉しそうだ。

一方のミシェルも可愛いモモが作ったチーズと燻製ハムとピクルスのサンドイッチが絶品だと褒めている。

しかし、この特製サンドイッチを本当に作ったのは執事で元ゴロツキのシオンであった。

予想外にユーリとミシェルが喜んだので真実を言えないリンとモモ。

そして、本物のリンとモモのサンドイッチを味わった葡萄畑の人々は食べながら「うん。普通に美味しい。流石はユーリ様の若奥様」と納得して贋作ではない手作りを味わったという。

end

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

閉ざされた森の秘宝

はちのす
BL
街外れにある<閉ざされた森>に住むアルベールが拾ったのは、今にも息絶えそうな瘦せこけた子供だった。 保護することになった子供に、残酷な世を生きる手立てを教え込むうちに「師匠」として慕われることになるが、その慕情の形は次第に執着に変わっていく──

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...