花嫁と貧乏貴族

ことぶき

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美少年トリオ

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ユーリの姪であるクレール・ラン・ヤスミカ嬢は双子兄のジャンに小声で伝えた。

「ジャン。さっきから窓の外で知らない子が覗いてるわ。どなたかしら?」

今は算術の自習中で他の子供たちは自習に集中している。

賢いクレールはすぐに問題集をうめたので同じく解答を書き終わったジャンに声をかけたのだ。

自習の様子を見ている子供は12歳くらいの少年で髪の色は赤毛である。

この土地の人間ではないのはクレールにもジャンにも理解できるが、赤毛の少年がなんで窓辺にいるのかは理解できない。

なぜなら、クレールとジャンがいる教室は3階にあるからだ。

不審者だとはわかるが何者か双子は気になる。

「ミシェル様や先生方を呼んだ方がいいかしら?」

「でも、騒ぐと窓辺の男の子が転落するかも」

優しいジャンは騒ぎを大きくするのを避けてクレールと様子を伺うことにした。

そうしているうちに算術の自習が終わりミシェルが教室に入ってくる。

「自習でわからないところはないかな?質問がある人は手をあげて」

ミシェルが笑顔で促すと教室にいる全員が挙手した。

「ミシェル先生!窓辺に知らない子がいます!自習中ずっと見てました!!」

クレールやジャン以外の子供も窓辺にいる赤毛の少年に気づいていたがスルーしていたらしい。

ミシェルが窓辺に目をやると赤毛の少年がパァと笑顔になり身を乗り出した。

「ミシェル様!!やっと会えた!!御元気でしたか!?」

そう叫んだ瞬間に赤毛の可愛い少年が視界から消えたようにクレールには見えたが実際は両手を離したので3階から転落しただけだった。

「ステフ!!?」

少年が落下するとミシェルが焦って窓辺に駆け寄った。

クレールとジャンも急いで窓の外をみたがステフという赤毛の少年は無事である。

校舎の下に敷かれた避難用マットにステフは転がっている。

そして、そばにはモモが仁王立ちしており、目を回しているステフを怒鳴り付けていた。

「このバカ!!ミシェルに会いたいからって校舎の3階までよじ登るな!!おとなしく屋敷で待てって言ったろが!」

モモがげんこつしようとすると近くにいた少年2人が止めている。

ひとりは薄茶色の髪のスラリとした美少年でもうひとりは栗色が髪だ。

薄茶髪と栗髪の美しい少年が必死でモモに謝っている。

「すみません!モモ様。ステフは早くミシェル様のお顔がみたくて落ち着かなかったのです!」

「ヒナリザの言うとおりです!俺たちもミシェル様とお会いしたいから気持ちは分かります!許してやってください!」

薄茶髪の少年がヒナリザで栗色の髪の少年はマックス……3階から落ちたステフを含めて全員がミシェルが引き取った美少年である。

モモと同じくミシェルの愛人だが立場は圧倒的にモモの方が上であった。

そして、この美少年トリオを監督するのはモモの役目である。

ヒナリザはモモと同い年の14歳だが普段は控えめでおとなしい。

マックスは13歳で利発だが優しくて仲間思いな性格だった。

最年少のステフは12歳で無邪気で愛らしいが思い込むと突っ走る子である。

この3人は同じ孤児院兼売春宿にいた関係で兄弟のように仲がいい。

引き取られたのはモモより遅いのでモモにとっては後輩のような存在だ。

ミシェルの寵愛を争うライバル関係になりそうだが、3人はモモのことも大好きである。

むしろ、3人ともミシェルに最も愛され、シルバー家本家からも頼りにされているモモを尊敬している節がある。

なのでモモにとっては面倒みるにやぶさかではないが、別邸で待ってろと命じたのにステフがムチャしたので叱っているのだ。

「ステフ。ケガはないか?まったくお前は相変わらずだな」

モモが声を和らげるとミシェルが外に飛び出してきた。

「ステフ!よかった!無事か!危険だから3階までのぼらないで下駄箱から入りなさい」

ミシェルが頭を撫でるとステフがピンと起き上がりミシェルに抱きついた。

「ミシェルさまー!!お会いしたかっです!!ミシェル様とモモ様とまた暮らしたかった!!」

「私も会いたかった。ステフ、マックス、ヒナリザ。無事でなによりだ。ラン・ヤスミカ領の当主御一家には挨拶したか?」

ミシェルの問いにモモがすかさず答えた。

「ラン・ヤスミカ家当主のラクロワ様と奥方のリーサ様。嫡男のエセル様と若奥様のフィンナ様。そして別邸の主であるユーリ様とリン・ケリー様。皆さま揃ってステフ、マックス、ヒナリザの滞在を快諾してくれた。リン様が用意してくれた部屋が3人の居室になる」

「そうか!モモ。自習の採点があるから3人を連れて先にラン・ヤスミカ家の別邸に戻ってくれ。私もすぐに戻る」

「わかった。ほら、ステフ。ミシェルにも再会できたし帰るぞ」

モモが連れて行こうとすると校舎から美味しそうな匂いがした。

ラン・ヤスミカ領の学校には給食がある。

空腹だったらしいステフはお腹を鳴らしている。

それを聞いたモモが呆れた顔で言った。

「ステフ。さっき、別邸でシオンが用意した食事を食べただろ」

「はい。でも…お腹すきました」

無垢な顔で微笑むステフを見たミシェルがモモに提案した。

「4人とも給食を食べて帰ればいい」

「ダメだ!給食費払ってない俺らが食べたらラン・ヤスミカ家の立場がない!」

反対するモモにステフがしょぼんとすると近くで声がした。 

「モモ様。給食なら沢山あるし誰も怒らないわ」

状況を観察していたクレールが告げるとジャンも控えめに微笑んだ。

「今日の給食。飼育小屋のウサギのソテーだよ。ウサギ美味しいから食べよ」

飼育小屋のウサギを食材にして命の大切さを学ばせる校風であった。

ラン・ヤスミカ家の令息と令嬢が許したのだから給食食べても問題ないとモモは判断した。

「お心遣い感謝します。ステフ!ジャン様とクレール様にお礼を言えよ」

「はーい!モモ様!ありがとう!ジャン!クレール!」

「バカ!お二人はラン・ヤスミカ家の方々だ!」

モモがステフを叱りつけるとジャンが穏やかになだめた。

いい忘れてたがジャン&クレールのラン・ヤスミカ家の双子兄妹はまだ9歳である。

9歳にしてとても大人な対応をするあたりはやはり、嫡男エセルとフィンナ夫婦の子供だ。

ミシェルはジャンとクレールに礼をいうとモモたちを飼育小屋に連れていった。

「4人分のウサギを殺らないとね」

ミシェルとモモ、ステフとマックスにヒナリザが見ている前でウサギを食材にしていくジャン・ラン・ヤスミカとクレール嬢。

「ジャン!血抜きしないと美味しくないわよ」

「クレール。毛皮は工作に使うから破かないようにね」

ワイルドにウサギをさばく双子兄妹を見ていて、ステフは泣いてしまった。

自分が給食を食べたがったばかりに4羽のウサギが食材にされている。

マックスとヒナリザにしがみついて泣いているステフにミシェルが言い聞かせた。

「私も最初はビックリしたが食材とは命を頂くものだ。ステフ。ウサギが美味だから味わいなさい」

ミシェルに言われても泣いてるステフの頭をモモは撫でるとウサギをばっさり殺っているジャンに謝った。

「失礼しました。ステフは泣き虫で。気を悪くしないでください」

「モモ様。お気になさらず。4羽殺ったので早速ソテーにしましょう」

「ジャンはウサギ捌きの成績は1番なの!鶏絞めるのも得意よ」

温厚でわりかしミシェル好みの美少年であるジャンはかなりワイルドであった。

待ちに待った給食時間。

殺りたてウサギソテーを食べるとステフは泣き止み元気になった。

「美味しい!ジャン殿!今度、ウサギ捌き教えて」

ステフはすっかりジャンと仲良しになる。

モモはミシェルと相談してステフ、マックス、ヒナリザは学校に通わせることに決めた。

「学費と給食費はギャンブルで稼いだ金がある。3人は別邸で働かせる以前に教育させる」

「その方がよさそうだ。私がユーリ殿とリンに頼もう」

こうして、ミシェルの愛人であるステフ、マックス、ヒナリザの美少年トリオはジャンやクレールと同じ学校で学ぶことになった。

美少年トリオが楽しそうに学校に行く姿を見てユーリは今さらながら思ったのだ。

「3人とも義兄上の愛人だよな?これって教育委員会的に大丈夫か?」

それをリンに質問するとリンは笑顔で断言した。

「ミシェル兄上にも砂漠の砂レベルの節度はあります!愛人と学校でよろしくするなんてことはしません!」

「義兄上の節度って砂漠の砂か!?でも、まあ、本当に節度なしならモモ殿を1番に学校に入れるか?」

なんとなく納得するユーリを見てリンは微笑んだ。

モモは素直にミシェルに甘えられるステフたちが羨ましかった。

そんなモモの気持ちを見透かしたようにリンは小声で伝えた。

「モモ。ステフが筆記具とノートと教本を忘れてるので届けて」

「大切なもの全部忘れてやがる!!」

急いで出ていくモモを見送ったリンがユーリに言った。

「私がモモだったら愛人3人にあそこまで優しくはなれません。嫉妬に狂ってます」

「リン!俺は愛人3人もできないから安心しろ!」

「では?3人未満は作る気ですか?」

悪戯っぽくリンが笑うとユーリは赤面してリンを抱きしめた。

「リン…そういう意地悪は言うな」

「ユーリは本当に正直ですね。そういうところが好きです」

ラブラブなユーリとリンを見守っていた執事のシオンは見抜いていた。

リンがあらかじめステフのカバンから筆記具と教本とノートを抜いていたと。

モモもそれくらい察したがミシェルのところに行ける口実ができたので乗っかった。

ステフのノートを見たモモは嫉妬より「ステフ!文字の綴りが全然ちげーし!帰ったら勉強させる!」と決意しながら学校へと向かったのである。

マックスとヒナリザはステフに教本を見せながら「あっ!これ絶対にモモ様がキレる」と賢くも悟っていた。

end















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