花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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オジタンのプレゼントからの大惨事

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ユーリはラン・ヤスミカ家本邸にて父ラクロワと兄エセルと3人で領地の施政を相談していた。

ラン・ヤスミカ領では領民の陳情や相談事などを参考に領地の整備など施策を検討する場合がほとんどである。

「う~む!納める税金が安すぎます。善政をしいてくれるのは真に嬉しいですが領民として心配です。領主様の御一家が餓死しないか……。エセル~!ついに領民に飢え死にを心配されたよ」

領主ラクロワの苦笑いにユーリの兄エセルはのほほんと笑った。

「我がラン・ヤスミカ家は領主一族でも服装は質素で食事も粗食です。あまりに贅沢しないから逆に不安にさせてますね」

矛盾しているが領地の人々だってラン・ヤスミカ家が重税を強いて、過度の贅沢を貪れば激怒するだろう。

しかし、仮にも領地を代表する立場のラン・ヤスミカ家があまりに質素なので大丈夫かと不安なのだ。

贅沢を好まない家風であり、服装も普通の領民と大差ない。

ユーリに限っては泥だらけで畑仕事や水路の掃除をしている。

領地の領民と同じ目線で暮らすスタンスのラン・ヤスミカ家は素晴らしいが領地の人々からしたら「もう少し貴族らしくしてくれ」という思いもわいてくる。

馬車もなく、舞踏会もせず、ドレスや華美な装いもしないラン・ヤスミカ家の面々を領地の人々は親しみ、尊敬しているが、自慢の領主ラン・ヤスミカ家の貴族らしいところ見てみたい~、な心境もあっての陳情であった。

ユーリはそれが領民の願いなら叶えてあげたいが別に贅沢しなくても幸せだし満足してるんだよなが本音である。

そんな相談をしているとドアをノックする音がしてリンがお辞儀をして入ってきた。

「失礼いたします。あの……大事なお話し中に申し訳ございません。実家のシルバー家から大量の荷物……届け物が来たのでお知らせに参りました」

「リン!ご実家からの贈り物か?父上、兄上!お話は後程にしてシルバー家からの贈り物を見なければ」

ユーリの言葉にラクロワもエセルも頷いて相談事は保留となった。

ラン・ヤスミカ家本邸の玄関ホールは荷物の山で占拠されていた。

本邸執事のトーマスと別邸執事のシオンが手分けして召使いたちと運んでいるが膨大な量である。

エドガーは動じてない様子で積まれた贈り物の箱を見て口を開いた。

「ふむ。私が頼んだNTR小説の新刊がすべて揃っている。シオン。これを夜に朗読してくれまいか?」

「ご自分でお読みにならないと文字さえ忘れますよ?エロバカ野郎」

澄まして荷物を運びながらエドガーに暴言を吐いているシオンだったが誰も叱らない。

シオンはユーリとリンが暮らす別邸の執事で訳ありな身の上だがエドガーにベタ惚れされて相当迷惑していた。

最近ではエドガーの執拗さに負けて無駄に怒ることは減ったが身体は許していない。

エドガーはシオンの発言に怒りもせず超絶イケメンフェイスで清々しく告げた。

「ならば私がシオンに秘蔵のエロ小説を朗読してしんぜよう。この【薔薇の庭での情事】という小説がお薦めだ」

タイトルがどっかのロマンポルノのような小説を読み聞かせる気マンマンなエドガー!

シオンはエドガーのしつこさに抵抗する気が失せたらしくため息を吐いて首を縦にふった。

「わかりました。最初の1頁だけ読んでください」

「承知した。冒頭から主人公が薔薇が咲き誇る庭園で5人の男に輪姦される飛ばした展開だから引き込まれる」

引き込まれたら絶対ダメなモノに完全に引き込まれてるエドガーを無視してシオンはトーマスやみんなと手分けしてシルバー家からの贈り物を運び終えた。

「こちらで全部です。宛名は本邸の旦那様と若旦那様です」

シルバー家側もラン・ヤスミカ家本邸の人間をたてて届け物は常にユーリとリン宛でなく当主ラクロワと嫡男エセル宛としている。

代表してラクロワがシルバー家当主クロードからの書簡を読みながら説明を始めた。

「ほう!クロード様……リン殿とエドガー殿のお父上様から贈り物だ!目録には絹織物にレース生地に宝飾品にリボン!都のお菓子などなど!なんとまあ……豪勢な!ユーリ。これどうしよ?」

「どうしようと申されても父上。リンの父君からの贈り物です。分不相応な高価な品々ですが、まずは御礼の書簡を書かなければ」

荷物はほかにもシルバー家に仕える執事や召使いへの贈り物、領地の人々への振る舞い菓子なども含まれている。

これが名門大貴族の財力というものかとユーリは気が遠くなってきた。

たしかにシルバー家の気前の良さをみるとラン・ヤスミカ家は貧乏貴族とはいえショボすぎである。

「しかし……何故だろう?クレールへの贈り物が異常に多いような?ありがたいが申し訳ないな」

兄エセルは自分の娘クレールを非常に気遣ってくれるクロードのプレゼントの多さに恐縮している。

「父上……多分、クレール殿が可愛いとどこかで知りましたね?ユーリ!父上の贈り物は要注意です!」

リンは嫌な予感を察知して警戒を促したがユーリは腕を組んで考えている。

「クレールにドレスをあつらえても余るくらいの量の布地だ。刺繍糸も高級なものだし、我が家で独り占めはもったいない」

全員の正装を整えても有り余る絹地や刺繍糸や装飾品の山を前にエドガーがポツリと呟いた。

「ジャン殿とクレール殿から聞いた。今度の領の祭りで芝居を披露すると。その衣装に使ったらよかろう?」

布地や飾りが足りないと前に2人がこぼしていたとエドガーが付け加えた。

その発言に大量の贈答品に困っていたユーリは父ラクロワと兄エセルに進言した。

「父上、兄上!こんなにたくさん屋敷にあっても宝の持ち腐れです。この際、余った布地と宝飾品などは領立学校に寄贈しましょう!領地の祭りでもきっと役に立ちます」

ユーリの笑顔にラクロワとエセルも賛成して大量の贈り物は領内で有効活用することに決まった。

リンは宝物を独り占めする発想を持たないユーリやラン・ヤスミカ家の面々に改めて驚愕していたがエドガーは届けられたエロ小説をめくりながら言ったのだ。

「領主の一家が惜しげもなく領地の者に上等な品を配る。贅沢に執着がないということは、その実1番貴族らしいとも言える」

いつになく冴えた眼差しでユーリたちを見つめるエドガーにリンは納得したように微笑んだ。

「自分たちは満ち足りてる。だから周りにも分け与える。貴族の究極はそれかもですね」

シルバー家当主クロードが送った大量の贈答品のうちのほとんどはラン・ヤスミカ領の人々に分配されていった。

ユーリの甥っ子&姪っ子のジャンとクレールは衣装の材料が増えたと大喜びである。

「リン様のお父様やお母様方にお礼をしないとよ!」

クレールの提案で余った布地に学校の子供たちが手分けして刺繍をして小さめのタペストリーを制作した。

ラン・ヤスミカ領の人々は豪華な品々を惜しみなく配ってしまったユーリたちラン・ヤスミカ家の優しさに感激して領主への尊敬を新たにしている。

貴族らしくない田舎の貧乏貴族ラン・ヤスミカ家だが領地の民を想う精神はどんな名門貴族も敵わない高潔さだ。

たとえユーリが全身泥まみれで水路の泥掃除をしていても領民は手伝い、誇らしく見守るようになった。

「うちの領主様の御一家は常に領地に住む俺らのことを第1に考えてくださる」

「やっぱり、ラン・ヤスミカ家には勝たん」

「振る舞い菓子!すごく美味しかったね!」

下手に貴族らしくするより、ユーリは質素な服装で田畑を耕して、働いている方が似合っていると領民は微笑ましく眺めていた。

リンは祭り用の晴れ着を姑リーサと兄嫁フィンナと一緒に作っていたが苦労していた。

「うう~!やはり針仕事は難しいです!縫い目が揃わない」

若干手先が不器用なリンにリーサが笑顔で言った。

「この先、ずっと縫い物はするから憶えますよ。リンさん。ユーリのお嫁さんになってくれてありがとう」

「リーサ義母上。私もユーリと結婚できて幸せです!ラン・ヤスミカ家に嫁げて本当に幸せだと思ってます」

「まあまあ!嬉しいわ!縫い物は私とフィンナがいくらでも教えるから安心してね」

微笑むリーサにリンが頷くと兄嫁フィンナが少しいたずらっぽく声を潜めた。

「お義母様、リン様!最近なんですけど……エドガー様とシオンが2人でいることが多いってトーマスとヨゼフお爺ちゃんが噂してたの。どうなるかしら?」

「あらあら!フィンナ、詳しく聞かせて!なになに?エドガー様とシオンはそういうご関係なの?」

リンの異母兄エドガーと別邸執事のシオンの距離が縮まったネタでリーサとフィンナは姑と嫁で盛り上がっている。

エドガーは今日も別邸の食堂で優雅に紅茶を嗜みながらエロ小説を熟読していた。

紅茶を用意したシオンが去るときにさりげなくエドガーは告げたのだ。

「薔薇の庭園で輪姦のラストなのだが……」

「それは夜に話してくれ」

それだけ言うとシオンは奥に引っ込んでしまった。

夜に嫌々ながらエドガーからエロ小説を朗読される習慣にシオンも慣れてきてしまった。

そして、クレールがジャンやお友達と一生懸命に刺繍したタペストリーは無事にシルバー家本邸のクロードのもとに届いた。

タペストリーは子供制作と思えないほど見事だが、それよりクロードがビビったのはクレールがしたためたお礼状である。

「クレールたん!9歳の女の子なのになんと利発で聡明なお手紙!見ろ!ローズ!クレールたんは可愛くて賢い令嬢だぞ?」

タペストリーと手紙をともに見ていたシルバー家正妻のローズ夫人は品のよい笑みを浮かべて言った。

「あらまあ!本当に素敵なお手紙ですこと。リンは良いご家庭に嫁げて幸運だわ。クロード。あなたはロリコンで最低な夫だけど感謝しててよ?どんな計略でもリンは幸せな結婚ができている。エドガーものびのび生活しているわ」

ローズ夫人はクロードは夫としてロリコンで天然狡猾親父でダメダメだが要所要所で我が子にとっての最適解な居場所を作っていることだけは認めようと思った次第である。

「その調子でシンシアとジャンヌの結婚相手も決めてくださいな」

「えー!めんどいのう。20歳過ぎた年増娘なんて適当に嫁がせちゃえ!」

クロードのこの言葉にローズ夫人は「あ!やはりこの男最低最悪ですわ」と考えを急遽変更した。

シンシアとジャンヌの縁談はとりあえずダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀が終わるまで先伸ばしとクロードは決めている。

当のシンシアとジャンヌは父クロードはロリで最低最悪なので宮廷に出仕した際、ダイアナ王女にこぼしていた。

「父は頼りになりませんの。私とジャンヌのどちらかが子供を産んで兄ミシェルの養子にしないとなりませんのに」

「ミシェル兄上はモモしか見ていませんから。それでもいいですけれど早くシンシア姉上か私が嫁がないとシルバー家本家が危ういですわ」

20代前半の輝くばかりに美しい姫君であるシンシアとジャンヌ姉妹にダイアナ王女は考えながら告げた。

「おねえさま方。ミモザが言っていたわ。今の宮廷には身分はともかくとしてシルバー家の世継ぎに相応しい子供の父親になれそうな殿方はいない。焦りは禁物とおねえさま方にお伝えしてくれと」

ダイアナ王女から見てもシンシアとジャンヌに相応しい貴公子は宮廷を観察する限り見つからない。

西の離宮にいるミモザもそう分析するのだから、下手にシルバー家の美人姉妹の結婚を急ぐと後が面倒だ。

「良縁は思わぬところにあることよ。わたくしだってミモザと結婚するなんて未来はあまり想定してなかったわ」

ダイアナ王女はおそらくシルバー家当主クロードも娘たちの結婚を慎重に考えていると察した。

シンシアとジャンヌの結婚相手は王家も関係する問題なので今度離宮に行ったらミモザに相談しようとダイアナ王女は心に決めたのである。

王女がそんな心づもりでいると察したのかシンシアは微笑んで話題を変えた。

「ダイアナ王女。ラン・ヤスミカ領に嫁いだ弟のリンがお手紙をくれました。家庭菜園でとれた薬草を煎じて夫君のユーリ様に飲ませたら淡白なユーリ様が夜に激しくなったと」

「それは家庭菜園で栽培してよい薬草かしら?でもいいわね。その煎じ薬をミモザに飲ませてみるわ」

婚姻前……正式な婚約前の段階でデキ婚を狙うダイアナ王女だったが、淡白通り越して、井戸の水レベルに思考がクールなミモザ王子が煎じ薬くらいで欲情するか気になっているとジャンヌが申し訳なさそうに謝ってきた。

「申し訳ございません。ダイアナ王女。リンがうっかり煎じ薬をラン・ヤスミカ家別邸の執事に飲ませてしまって……その……大変な騒ぎに。煎じ薬は少しお待ちくださいませ」

「それはお待ちするけど別邸の執事はエドガーの意中の御方よね?大変な騒ぎでなく大惨事になってませんこと?」

賢いダイアナ王女の予感通りリンの怪しげな薬を誤って飲んでしまったシオンが原因でラン・ヤスミカ家別邸は大惨事であったがそれは別の機会にお話しする。

end



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