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結婚式当日。
晴れやかな陽射しの下、城塞の中庭で、挙式が行われた。
参列者はヴォルフガルト男爵をはじめ、周辺領地の貴族が主である。
その中に見知った顔――サイラスと彼の妻であるミアがいた。シャーロットの姿に、紅い瞳を輝かせている。
シャーロットは純白のドレスに身を包んでいた。
白のフリルやレースで彩られた衣装は、シャーロットの可憐な容姿を際立たせている。
彼女を目にした参列者たちからは、ため息が零れ出た。
隣を歩くジョナサンは、ヴォルフガルト家の紋章が縫い付けられた騎士服を纏っている。
物語の姫と王子を彷彿とさせる二人は、司祭の待つ祭壇に辿り着いた。
儀式の祝詞に耳を澄ませながら、シャーロットは凜々しい横顔をちらちら見やる。
シャーロットの視線に気が付いたジョナサンが、シャーロットの髪飾りに指を滑らせた。
緩くひとまとめにした髪を留める髪飾りは、菫の花を象ったものだ。
「とてもお似合いですよ」
「……儀式に集中なさい」
甘い表情に、シャーロットは照れ隠しに顔をしかめる。
式に集中していない二人に対して、祭司が咳払いをした。
二人の世界に入り込んでいたことを暗に叱責され、シャーロットは頬を桃色に染める。
「では誓いの口づけを」
ジョナサンが、身体を屈め、シャーロットの唇に触れるか触れないかのキスを落とした。
「……この後たっぷりいたしましょうね」
離れる間際、ジョナサンがシャーロットの耳元で囁く。
――いちいち口に出さないでほしくてよ。
シャーロットは、上目遣いをして、苦言を呈した。
粛々と儀式を果たした後、参列者たちとの会談の場が設けられた。
シャーロットが広間に足を踏み入れるなり、ミアが一目散に駆け寄ってくる。
「殿下。ご無事でなによりです」
「貴女こそ、相変わらず元気そうね」
見慣れた軍服姿が懐かしく、シャーロットは彼女へ微笑みかけた。
すると、ミアはきょとりと目をしばたたかせ、
「殿下、雰囲気が柔らかくなりましたね」
「わ、私は元から優しくってよ」
シャーロットはぷいと顎をそらす。
そうでしたね、とミアは軽やかに笑うも、 素早く周囲を見回し、シャーロットの耳元に囁きかけた。
「……兄様と喧嘩なさったらいつでも仰ってください。私はいつでも殿下の味方ですから」
心からシャーロットを気遣う素振りを見せる彼女に、シャーロットは「頼りにしているわ」と苦笑する。
「誰がなんだって?」
二人で内緒話に興じていると、ジョナサンが、シャーロットの背後から顔を出した。
しかめつらである兄に、ミアは「内緒です」と話をはぐらかし、悪戯っ子を思わせる視線をシャーロットとに寄越す。
シャーロットは「ええそうね」と、同じくシラを切った。
ジョナサンが不可解そうに妹を凝視し、
「お前、いつの間に殿下と親しくなったんだ?」
「もとから兄様よりも親しくさせていただいてますよ」
「殿下の護衛に手こずってたのは、どこのどいつだよ」
「初めての任務は誰だって不慣れになるものですよー」
兄妹の仲睦まじいじゃれ合いを眺めていると、「ご結婚おめでとうございます」と落ち着いた声音がした。
サイラスが、人ひとりぶんの距離を置いてシャーロットの横に並んだ。
目尻を緩ませる彼の目に映るのは、きっと愛しい妻の姿だけなのだろう。
「……ありがとう」
シャーロットが礼の言葉を紡ぐと、サイラスが息を飲む。
「何か言いたげね」
「ええ。……俺は殿下の幸せを真に願っております」
サイラスは柔らかく微笑んだ。
あまりにも見事な笑顔に、シャーロットは毒気を抜かれる。
彼への未練はない。
そもそも愛していなかったのだから。
それでも婚約していたのは事実で、一度は生涯をともにしようと思った相手である。
――サイラス、貴方が悔しがるほど、幸せになってやるんだから。
シャーロットは愛しい夫を目に焼き付ける。
視線に気づいたジョナサンが、シャーロットに微笑みかけた。
結婚式の翌日。
城塞正面に設けられたバルコニーに、シャーロットは姿を現した。
前庭には城下街の住人が押しかけ、歓声をあげている。
本日は城下街の住人に対してのお披露目会だ。
ジョナサンとともに、シャーロットは、集まってくれた人々へと、にこやかに手を振る。
「シャーロット先生、おめでとー!」
人ごみの中、学舎の教え子たちが、ぴょんぴょん跳ねながら、祝福の言葉を口々に叫んだ。
シャーロットは彼らにむかって微笑みながら、優雅に手を振りかえす。
「シャーロット」
ジョナサンがシャーロットの腰を引き寄せた。
歓声がさらに高まる。
端正な顔が近付いてきて、シャーロットはぎょっとした。
「ちょっとこんなところで……」
「こんなところだからですよ。領民に仲睦まじいさまを示せば、安心させることができます」
「本音は?」
「俺がキスしたいだけです」
「素直でよろしいこと」
シャーロットはイタズラっぽく菫色の瞳を光らせる。
紅い瞳がシャーロットを見つめ返した。
魔獣を一太刀で切り伏せるほどの強靱さを備えていながら、シャーロットの一挙手一投足に対して、不安げに瞳をゆらめかせる彼が愛おしい。
「……貴方を傷つける嘘は、絶対つかないから安心なさい」
「といいますと、嘘はつかれるので?」
「それは貴殿次第じゃないかしら」
何か言いたげな口に、シャーロットは唇を落とした。
ジョナサンは、シャーロットをきつく抱きしめる。
彼女の左薬指には、指輪が嵌められ、台座には薄紫色の石が、キラキラと輝いていた。
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晴れやかな陽射しの下、城塞の中庭で、挙式が行われた。
参列者はヴォルフガルト男爵をはじめ、周辺領地の貴族が主である。
その中に見知った顔――サイラスと彼の妻であるミアがいた。シャーロットの姿に、紅い瞳を輝かせている。
シャーロットは純白のドレスに身を包んでいた。
白のフリルやレースで彩られた衣装は、シャーロットの可憐な容姿を際立たせている。
彼女を目にした参列者たちからは、ため息が零れ出た。
隣を歩くジョナサンは、ヴォルフガルト家の紋章が縫い付けられた騎士服を纏っている。
物語の姫と王子を彷彿とさせる二人は、司祭の待つ祭壇に辿り着いた。
儀式の祝詞に耳を澄ませながら、シャーロットは凜々しい横顔をちらちら見やる。
シャーロットの視線に気が付いたジョナサンが、シャーロットの髪飾りに指を滑らせた。
緩くひとまとめにした髪を留める髪飾りは、菫の花を象ったものだ。
「とてもお似合いですよ」
「……儀式に集中なさい」
甘い表情に、シャーロットは照れ隠しに顔をしかめる。
式に集中していない二人に対して、祭司が咳払いをした。
二人の世界に入り込んでいたことを暗に叱責され、シャーロットは頬を桃色に染める。
「では誓いの口づけを」
ジョナサンが、身体を屈め、シャーロットの唇に触れるか触れないかのキスを落とした。
「……この後たっぷりいたしましょうね」
離れる間際、ジョナサンがシャーロットの耳元で囁く。
――いちいち口に出さないでほしくてよ。
シャーロットは、上目遣いをして、苦言を呈した。
粛々と儀式を果たした後、参列者たちとの会談の場が設けられた。
シャーロットが広間に足を踏み入れるなり、ミアが一目散に駆け寄ってくる。
「殿下。ご無事でなによりです」
「貴女こそ、相変わらず元気そうね」
見慣れた軍服姿が懐かしく、シャーロットは彼女へ微笑みかけた。
すると、ミアはきょとりと目をしばたたかせ、
「殿下、雰囲気が柔らかくなりましたね」
「わ、私は元から優しくってよ」
シャーロットはぷいと顎をそらす。
そうでしたね、とミアは軽やかに笑うも、 素早く周囲を見回し、シャーロットの耳元に囁きかけた。
「……兄様と喧嘩なさったらいつでも仰ってください。私はいつでも殿下の味方ですから」
心からシャーロットを気遣う素振りを見せる彼女に、シャーロットは「頼りにしているわ」と苦笑する。
「誰がなんだって?」
二人で内緒話に興じていると、ジョナサンが、シャーロットの背後から顔を出した。
しかめつらである兄に、ミアは「内緒です」と話をはぐらかし、悪戯っ子を思わせる視線をシャーロットとに寄越す。
シャーロットは「ええそうね」と、同じくシラを切った。
ジョナサンが不可解そうに妹を凝視し、
「お前、いつの間に殿下と親しくなったんだ?」
「もとから兄様よりも親しくさせていただいてますよ」
「殿下の護衛に手こずってたのは、どこのどいつだよ」
「初めての任務は誰だって不慣れになるものですよー」
兄妹の仲睦まじいじゃれ合いを眺めていると、「ご結婚おめでとうございます」と落ち着いた声音がした。
サイラスが、人ひとりぶんの距離を置いてシャーロットの横に並んだ。
目尻を緩ませる彼の目に映るのは、きっと愛しい妻の姿だけなのだろう。
「……ありがとう」
シャーロットが礼の言葉を紡ぐと、サイラスが息を飲む。
「何か言いたげね」
「ええ。……俺は殿下の幸せを真に願っております」
サイラスは柔らかく微笑んだ。
あまりにも見事な笑顔に、シャーロットは毒気を抜かれる。
彼への未練はない。
そもそも愛していなかったのだから。
それでも婚約していたのは事実で、一度は生涯をともにしようと思った相手である。
――サイラス、貴方が悔しがるほど、幸せになってやるんだから。
シャーロットは愛しい夫を目に焼き付ける。
視線に気づいたジョナサンが、シャーロットに微笑みかけた。
結婚式の翌日。
城塞正面に設けられたバルコニーに、シャーロットは姿を現した。
前庭には城下街の住人が押しかけ、歓声をあげている。
本日は城下街の住人に対してのお披露目会だ。
ジョナサンとともに、シャーロットは、集まってくれた人々へと、にこやかに手を振る。
「シャーロット先生、おめでとー!」
人ごみの中、学舎の教え子たちが、ぴょんぴょん跳ねながら、祝福の言葉を口々に叫んだ。
シャーロットは彼らにむかって微笑みながら、優雅に手を振りかえす。
「シャーロット」
ジョナサンがシャーロットの腰を引き寄せた。
歓声がさらに高まる。
端正な顔が近付いてきて、シャーロットはぎょっとした。
「ちょっとこんなところで……」
「こんなところだからですよ。領民に仲睦まじいさまを示せば、安心させることができます」
「本音は?」
「俺がキスしたいだけです」
「素直でよろしいこと」
シャーロットはイタズラっぽく菫色の瞳を光らせる。
紅い瞳がシャーロットを見つめ返した。
魔獣を一太刀で切り伏せるほどの強靱さを備えていながら、シャーロットの一挙手一投足に対して、不安げに瞳をゆらめかせる彼が愛おしい。
「……貴方を傷つける嘘は、絶対つかないから安心なさい」
「といいますと、嘘はつかれるので?」
「それは貴殿次第じゃないかしら」
何か言いたげな口に、シャーロットは唇を落とした。
ジョナサンは、シャーロットをきつく抱きしめる。
彼女の左薬指には、指輪が嵌められ、台座には薄紫色の石が、キラキラと輝いていた。
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