怪談

馬骨

文字の大きさ
10 / 43
実話系怪談

『悪夢』 原案:おちゃ(ペンネーム)

しおりを挟む
月に一度見る奇妙な夢を、私は長い事覚えていることはできない。
朝起きて、その夜見ていた夢を覚えていられないのは、その日やることを脳が先に考えるからだという。

ただ夢の中では、以前もこんな夢を見たと、ふと記憶が蘇ってくることがある。
夢の中でのみ共有する世界があることに対して、私はいくばくか恐怖を覚えている。

それはともすれば、私の夢と現の認識が全く異なっているという、ただならぬ可能性を匂わせている。

町の往来。人通りは皆無である。以前住んでいた町。この道を進めば、帰るべき家がある。帰路。

ここで初めて、以前から見ていた夢の内容を思い出す。そこでの私は確か、追いかけられている。加えて、監視されている。

恐らくは、そのどちらでもあり、どちらでもない。

私のことを何かが見ている。脳のフィルターを通し、夢と現があいまいな意識の最中で。その狭間を行きかうようにしながら。それは私を起こそうとしている。それだけはわかる。

私の記憶が象っているこの世界の屋上から、常に私は何かに見られている。

それは目がない。だが、見ることができる。それには足がない。だが追いかけることができる。それには実体がない。だが、私はそれを感じている。

ただならぬ、不定形の怪物。

歪めた認知すらも、正当なものと成ってしまう夢の中。
私はあまりに非力で、記憶の通りにある帰り道をただ、歩くことしかできない。

起きてはならないと思う。人は寝て起きての繰り返し。起きている時は寝たくなり、寝ている時は起きるようにできている。だから私は気づかない振りをする。起きていることも、寝ていることも、それに感づかれてしまえば、怪物は迫ってくる。

そんなことを考えているから、ほら。
屋上にあった目が、もはや私の後ろまで迫っている。
ぞわぞわと、何かしらの気配を感じ取った背筋が反応している。生ぬるい気配を感じている。

ふと中空に目をやる。何かがふわふわと浮かんでいる。
優しい気持ちになった。あれは、私の母だ。
優しい顔が、浮かんでいる。その隣には、友人の首が数多浮かんでいる。
はかなく浮かんでいる。シャボン玉のように。

ふと、やわらかく手を握られた。怪物ではない。

これは、兄弟だ。顔の見知らぬ兄弟。私には存在しないはずの。
満面の笑みで、こちらを見ている。奇妙な夢は、それが奇妙であることに留まらない。

気付けば私は、畳敷きのリビングへと案内されていた。

背後の化け物と私とを交互に見た親切な他人が、家の中へと迎え入れてくれたのである。
他人の厄介になるのは初めてではない。だが、身に覚えのない善意ほど悪意に塗れた物はないのかもしれない。

キッチンの上部。換気扇が回っている。ごおっと無機質な音を立てながら。
ぐぶぐぶという音が、その奥から響いてくる。何かがせり出してくるような。
かと思えば、その隣の部屋から、女性の黄色い声が聞こえてくる。喜びに満ちた、甘く、生々しい反吐の出る声色。

換気扇から吐しゃ物が噴き出した。

起きてしまいそうだ。勢いよく、脳みそが揺れて。

咄嗟に道路へと飛び出す。親切な他人も、存在しない兄弟も、そこにはもういなかった。

振り返ってみると、そこにはもう家など存在していない。彼らはどうやら、最初から存在していなかったようだ。

世界がたたまれていく。怪物が近寄ってくる。

助けを求める声が、次第に大きくなっていく。

それが彼らに届くことはない。

誰も私を、信じてはいないから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【1話完結】5分で人の怖さにゾッとする話

風上すちこ
ホラー
5分程度で読める1話完結のショートショートを載せていきます。主に、ヒトコワなホラー話です。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

処理中です...