怪談

馬骨

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実話系怪談

『怖い人』 原案:スグル(ペンネーム)

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 自分は昔から、いわゆるオカルトというものに、飽きることなく惹かれてきました。

物心ついた頃にはもう、地獄をモチーフにした絵本や、水木しげるの漫画に夢中で、それがやがてホラー小説へと移り変わっていった。

とにかく、そういう“異界”に触れるのが好きだったのです。

その癖は、人間関係にも少なからず影響していました。高校生になる頃には、オカルトに詳しそうな人を、無意識のうちに探している自分がいました。

仲良くなった相手には、必ず「怖い話」を聞く。――それが、いつの間にか自分の信条になっていたのです。

「俺、幽霊見えるんだよ」

彼と出会ったのは、ちょうどそんなある日でした。

自分でも呆れるほど興味津々で、その好奇心を包み隠さずぶつけてくる僕に、彼は最初、少し引いた様子でした。

けれど、話していくうちに意外にも趣味が合うことがわかり、いつの間にか、学校がある日もない日も一緒に過ごすようになっていました。

「“カゲ”っていうか……黒いモヤみたいに見えるんだ」

「おぉ、それっぽいね」

「それっぽいっていうか、そうなんだけどさ。……ほら、あの横断歩道にも何人かいる。子供みたいなのと、動物と」

そう言って、彼は当たり前のように指を差しました。

「マジかよ、もっと早く言えよそういうの!」

「避けようったって、ほとんどどこにでもいるからね」

「マジかぁ……」

「まあ、ほとんどの“それ”は何もしないよ」

「そんなもんなの?」

「うん。普通にそこにいるだけ。成仏の仕方がわからなくて、留まってるだけの存在が多い。ただね……」

そこで、彼の表情が変わりました。引きつった笑みを浮かべながら、どこか気まずそうに目をそらすような。

「ただ?」

「……たまにいるんだよ、そういうのを“集めてる人”」

「集めてる?」

「正確には、集まっちゃってる人。いろんな“黒いモヤ”を背負いこんで、あり得ないくらい不幸を撒き散らしてる人」

「……貧乏神みたいな?」

「それ。めっちゃ近い。本人は無自覚でも、近くの人間とか、立ち寄った建物とか……無事で済まないことが多い」

「そんなん、避けようがなくない?」

「そう。だから“怖い人”って呼んでる」

「……ええ~……」

僕はその妙な説得力に気分が沈み、苦い顔を浮かべました。

そんなことを話しながら歩いていたとき、彼がふいに前方を指差しました。

「……いた。怖い人」

「え?どこ?」

「あそこ。グレーのパーカーの人」

彼の指す方向を見ると、グレーのパーカーのフードを被り、黒のパンツのポケットに両手を突っ込んだ人物の背中が見えました。

「あれが?普通じゃん……」

「いや、すごいよ。遠目からでもわかる。真っ黒い“手”がいくつも見える。子供みたいなの、大人の、動物の……全部、くっついてる」

その時の彼は、見るからに怯えていました。普段の彼からは想像できないほど、憔悴したような顔つきでした。

「大丈夫? 引き返そうか?」

「……うん、悪いけど。そうした方がよさそう」

「触らぬ神に祟りなしってやつか」

普段は何が起きても動じない彼が、ここまで恐れるのは尋常ではないと思いました。

僕は彼の前に立って視界を塞ぐように身を返し、歩き出そうとした――その時でした。

 

ドガッ! 

 

背後で、鈍い衝撃音が鳴り響きました。

振り返ると、すぐ近くのT字路で、大型のトラックがタクシーの側面に思いきり突っ込んでいたのです。

タクシーの運転席の真上には、トラックの車体が半ば乗り上げるような形でめり込み、素人目にも――運転手はもう助からないだろうと直感できるほどの惨状でした。

「……どうしたんだろうね、あれ」

呆然としながら彼に目を向けると、いつの間にか彼の表情は、さっきまでの怯えた様子とは打って変わって、いつもの無表情に戻っていました。

「え……もう大丈夫なの?」

「うん。でも、もう戻ろう。また何かあったら面倒だし」

「“また”? って、どういう意味よ」

僕が問い返すと、彼の表情に、かすかな陰が差しました。

「……気づいてないの?」

彼は、ほんの少しだけ眉を寄せて言いました。

 

「さっきの“怖い人”、あのタクシーに乗ってたよ」

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