泡沫の記憶

鈴燈

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雨の記憶 驟雨

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あれから半月ほど経った。晴一とは不定期に会っている。不定期と言っても、主に彼が連絡をくれた時だけ。会う度に彼の性処理機として使われている。正直嫌だけれど、そうしないと彼は私と会ってはくれない。分かっているから、我慢して嫌なことも全て受け入れた。
 この日も彼と会うことになっていた。約束の時間に駅へ行き、迎えに来た彼の車に乗り込む。そしていつも通り、あの公園に向かう。
 キスをされ、胸を触られる。私が満たされるのはここまで。その後は私が一方的に彼に尽くす番。咥えて、舐めて、彼をイかせるのが私の今の存在意義。喉の奥に当たり、時に嗚咽してしまう時は、彼は決まって頭を撫でて「大丈夫?」と言ってくれる。頑張った時だけ貰える彼の優しさが欲しくて、私は懸命に尽くした。
 ある時、また彼と約束して駅に行くと、彼の雰囲気が少し違って見えた。いつも通りに車を走らせ、途中違う道へと入る。着いたのは誰もいない駐車場。
 車を停めると、彼は私の腿に手を乗せた。そして、するすると腿の間に手を入れてくる。抵抗しようと彼の手を掴もうとしたら、逆に手を掴まれた。その時私は既に抵抗する気が失せかけていた。いつも彼に尽くしてばかりで、私は我慢してばかりだったから。私は自分の弱い心に負け、彼に身体を預けることにした。優しく、そして柔らかく触れる彼の手に不思議と異物感はない。
 私が声を我慢できなくなった時、彼は私にこう言った。
 「セックスしたいの?」
 悪戯な笑みを浮かべる彼に、身体が反応してしまう。気がつけば、私は首を縦に振ってしまっていた。
 私が頷いたのを見ると、彼は運転席に座り、エンジンを入れた。そして、何も言わずに車を走らせる。何か気に触るようなことをした覚えもなく、何処へ向かうかも見当がつかない。
 なんとなく、怖い。
 声をかけようとした時、辺りが急に明るくなった。何かと思って見てみると、まるでイルミネーションのようにネオンが輝く建物があった。入口にカーテンの様な物が下がっている。
 「ここって...?」
 「ラブホ」
 彼は淡々とそう答えた。
 車は建物の中へ入り、小さな部屋の横にある駐車場スペースに停る。彼は車を降た。私は何だか緊張して、車を降りることを忘れてしまっていた。すると彼が助手席の扉を開け、私の手を握った。私はそのまま車を降り、彼に導かれるまま部屋の中へと進んで行った。
 部屋の中は案外広くて、オレンジのような淡い桃色の様な光が照らしている。服を脱ぎ下着姿になる彼を横目で見て、どうすればいいのか分からず彼から視線を外し、部屋の設備などを忙しなく漁った。
 「何してるの?」
 問いかけた彼の声に少し驚いてしまう。私は笑って「何があるのかなって思って」と答え、再び部屋中を歩き回る。
 そして見るものも無くなり困った私は、ソファに座ってケータイをいじり始めた。彼と目を合わせたらシなければいけない。嫌な訳では無いけど、まだ心の準備が整っていない。
 私がケータイをいじり始めて直ぐ、彼は私に近づいてきた。私の腕を掴み、立ち上がらせる。そして真っ直ぐに、ベッドの方へ歩き出す。抗う心も余裕も無く、彼に連れて行かれる。ベッドの脇に立ち止まると、私の肩をじっと見る。私の肩に手を置き、ベッドに腰掛けさせる。力が入らず、ストンと座ってしまう。そのまま押し倒され、激しいキスをされた。しばらくキスをされた後、彼は耳元で「これ、脱いで」と囁く。私は何も考えずに従い、服を脱いだ。そして、今までに無いほど優しく、丁寧に彼の手が私の身体をなぞった。彼の手が、舌が、視線が、私の全てを絡めて離そうとしない。彼氏という訳でも無い人と最後までしてしまって本当に大丈夫なんだろうか、という不安が頭を過った。しかし彼は、そんなことを考える余裕など、微塵も与えてはくれなかった。
 彼の指先が甘く熟した私の性に触れる。声が漏れると同時に、無意識に閉ざしてしまいそうになった。嫌な顔をされるかと思ったら、彼は優しく「大丈夫。怖くないよ」と囁いた。私はその言葉に騙されたふりをして、閉ざしかけた性を顕にし、彼を受け入れた。彼の指は私の性を簡単に溢れさせ、今までにない快感の波に何度も溺れそうになった。何度も押し寄せる感覚に、頭は早くも呑まれてしまった。
 「挿入れてほしい?」
 彼がそう言った。私は何とか「うん」と言うと、続けて「何を?」と言ってきた。言葉にするのが恥ずかしかくて、手で示そうとすると「ちゃんと口で言って」と私の手を押さえつける。
 「っ...は、晴一の、ほしい...」
 やっとの思いで口にすると、彼はにやりと笑い、手を止めてゴムを付け始めた。一気に押し寄せた快感に息が上がり、頭が真っ白になって、まるで私が私じゃなくなったかのような、そんな感じがした。息を整える間もなく、彼は私に「四つん這いになって」と言った。言われるがままにすると、彼の指先が蜜部に触れる。しかし、ナカに入って来たのはもっと太い“何か”。ゆっくり、でも吸い込まれるように、簡単に私のナカに入ってくる。ゆっくり動かされ、身体の力が少しずつ抜けていく。自分でも膣が閉まるのが分かる程に、身体は素直に彼を感じていた。急に早く動かされ、完全に腕の力が抜けた私は、顔を枕に埋めた。私の腰をしっかり固定し、彼は本能に従って動き続けた。私は溢れ出しそうな快感に堪えながら枕を抱きしめた。
 部屋には今までに無いほど甘い私の声と、リズムを刻んで軋むベッドの音だけが響いていた。彼が急に動きを止めたので、どうしたのかと声を掛けると「体勢変えよ」と息の切れた声で言う。私の手首を押さえ、身体を重ねる。さっきより音が小刻みになる。彼の顔を直視するのが恥ずかしくて目を瞑っていた私に、唐突に彼が言った。
 「元彼とどっちが気持ちいい?」
 動きを止め、じっと私を見つめる。真っ白な頭と、息の切れた声の精一杯の答えは、彼の名前を呼ぶことだけだった。すると彼は、さっきより激しく腰を動かし始めた。再びバックでおかしくなるまで突かれ、身体に殆ど力が残らない程、熱く身体を重ね合わせた。
 彼がイった後、私は布団に寝転がり息を整える。彼はソファにケータイを取りに行き、少しの間そこでケータイをいじっていた。
 少しすると、彼は私の横に寝転がった。私が彼にぴったりとくっつき、一緒にケータイを覗き込む。じっと彼を見つめても全く相手にしてくれなくて、何だか自分が馬鹿みたいに思えてきて彼に背を向けた。すると彼は私の腰周りを指で撫で始める。擽ったくて、「なに?」と言うと「いや、別に」と相変わらずケータイをいじっている。相手にしてくれるのかと思って再び彼にくっつくが、やはり相手にしてくれない。なのに彼に背を向けると身体を指で撫で始める。嬉しいけど、やっぱり寂しい。
 その時に、私は不意に考えないようにしていたことを考えてしまう。彼が求めていたのは、私じゃなくて私の身体で、彼があんなに激しく身体を重ねたのも、女としてじゃなくてただの処理機としてだったのではないか、と。
 考えてしまった途端、今まで感じたことの無い妙な感覚に襲われた。心が病んでしまった時に少し似ている。でも違う。確かに別の感覚だ。それはわかるのに、これが何なのか全くわからない。なんで私はこんなことをしているのかと、彼への全てを否定しかけた時、彼が「そろそろ帰ろうか」と声をかけた。
 私は黙って頷き、服を着た。部屋を出て、車に乗る。いつも私たちを隠してくれた彼の車は、今までに無いほど冷たかった。
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