毒舌セラピストによるお悩み解消は、やさしくないけど心の毒によく効きます!

Kinon

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第3章:彼女の浮気を疑いたくない

3. 俺……バカみたいに好きなんですよ 彼女のこと

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「はい。もう半年くらい、一緒に住んでます」

 あ……よかった。
 この爽やか青年の元気さが、病んでることの裏返し的なものじゃなくて。
 最悪、彼女の存在がソウタさんの妄想か思い込みだったらって考えちゃったから。

「なら、彼女の行動はよく見えるはずだ。男の家に行ったこと以外にも、不審なところがあるんだろう。それも見て見ぬフリを?」

「そうです」

 ソウタさんがキッパリと言い切る。

「嘘つくのもつかれるのも嫌いなんです、彼女。だから、聞けば本当のことを言う。俺は知りたくないから」

 わからない。
 ソウタさんは、何のために彼女の浮気疑惑を確定したくないのか。
 眉を寄せる葦仁いとよ先生にも、彼の思考は読めないのかもしれない。

「恋人を信じてるってわけじゃないんだな」

 葦仁先生の言葉に、ソウタさんはにっこりと笑った。

「はい。彼女があの男に頻繁に会ってる確率は高いと思います」

「そして、きみは彼女がほかの男と寝てようが何してようがかまわない。重要なのは、彼女が彼女であることだけ」

「さすが先生。わかってくれますか?」

「そこの部分は僕と似てるからね」

 え……わからないのは私だけ?
 二人とも、恋人がほかの人とセックスしててもいいの?
 男は、自分は浮気するくせに女が浮気するのは許せないっていうのは……私の偏見?

「でも、僕は本人に聞くよ。自分が傷つくのはもちろん、相手を傷つけることになっても」

「俺には無理です」

「彼女の浮気を許容出来るのに?」

「本人が出来ないから。俺にバレたら、彼女はきっと別れを選ぶと思う」

「別れたくない?」

「はい。俺……バカみたいに好きなんですよ。彼女のこと」

 照れくさそうに言うソウタさん。

「彼女が俺のどこかひとつでも必要とする限り、この状態を維持したい。おかしいですか?」

「いや。それがきみの愛し方なら。ただし、長くは続かないよ。きみが疑ってることに、彼女はいずれ気づく」

「だから、疑いたくないんです。セラピーでこの気持ち……失くせませんか?」

「記憶は消せない。忘れさせるのは不可能だ。僕は脳外科医でも催眠術師でも魔術師でもない。出来るのは……きみに真相を知る勇気を与えることだけだ」

「それは……」

「浮気が確定してもきみの気持ちに変わりがないなら、事実と向き合え」

「俺じゃなくて彼女が……」

「ソウタ」

 静かだけど強い声音で、葦仁先生がソウタさんを遮った。

「きみに気づかれなきゃ、ほかの男に抱かれたあと平気で家に戻る。きみに笑いかけ、隣で眠る。今そうしてる女が、きみに事実を知られたからって突然自分のしてることが許せなくなるとは思えない」

 葦仁先生とソウタさんの視線が強いテンションで絡む。

「きみが彼女を疑いたくないのは、それを彼女に知られたくないから。浮気されても彼女を好きだというきみの気持ち。この二つは本当だろう。だけど、浮気がバレたら彼女は別れを選ぶから真相を知りたくない。これはきみの嘘だ」

「何で……?」

「言った通りだよ。浮気しながらきみとつき合うことが出来る女だ。たとえバレてもきみが許せば、そして、きみから得られるメリットがあるなら別れない」

「そう……ですね。俺が不要なら、とっくに出てってるか。俺にも少しは価値があるって思っていいのかな」

 ソウタさんがハハっと笑った。

 かなりひどい言われようだけど。
 自分の彼女をこんなふうに言う先生にムカついたりしないの?

「金や権力があるわけじゃないし、離れられなくなるほどセックスがうまいわけでもないだろうけど」

「目で見える価値は簡単に変動する。彼女が失くしたくないのは、きみ自身だと思うよ」

「俺自身……?」

「きみと同じようにね」

「それなら!」

 いきなりのソウタさんの大声に、ペンを取り落としそうになった。
 葦仁先生は、予期してたかのようにまぶたひとつ動かさない。

「どうして何も言ってくれない!? 俺が信じられないのか!? どうしてっ……!」

 ソウタさんがテーブルに拳を打ちつけた衝撃音のあとの重い沈黙。
 破るのは、葦仁先生だ。

「彼女は浮気なんかしてないよ」

 え……?
 してないって、先生は本気で言ってるの?
 ソウタさんを思いやる希望的観測?

「きみのことを信じてもいる。本当のことを知ったきみがどうするか、彼女は予想してる。そして、そうしてほしくない。だから、言わない」

「何だよ、それ……何の根拠があってそんなこと言えるんだ?」

「根拠はない。きみの話を聞いて出した、僕なりの結論だ。きみの悩みを解消するのが僕の役目だからね。セラピーで彼女を疑う気持ちを失くせない代わりに、きみの疑念そのものを晴らす方法を考えたんだよ」

 ソウタさんの眉間に深いしわが刻まれる。

「真相を知る。それだけだ」

「実際に男といたんだ。浮気以外にどんな真相がある!?」

 冷静に言葉を繰り出す葦仁先生に、荒げた声でさらに言い募るソウタさん。

「先生の言う通り、あいつがほかの男と寝て平気で俺と一緒にいられる女だったら……迷わず聞いてるよ。いなくなる心配なんかないからな。あの男か俺か、どっちかに飽きるまで都合のいい彼氏でいるのは全然かまわない。だけど……」

 ソウタさんが険しい顔で言い淀む。

「浮気されるよりも、それを隠されるほうが嫌? 誰よりも信頼し合えてるはずだから?」

「そうだよ。だから、俺は……」

「きみが苦しいのは、彼女が浮気してるかもしれないことじゃない。事実を自分から言ってくれないことだ。まぁ……きみは始めから、彼女の浮気を疑ってはいないんだろうけどね」

「何でわかっ……俺は、本当に疑いたくなくて……先生に……」

「うん。きみは彼女を疑いたくない。疑う素振りを見せて追い詰めたくない。だから、必死に何も気づいてないフリをしてる。でも、それは彼女を苦しめたくないからじゃなくて、真相を知るのが怖いからだ」

 見開いた目で先生を見つめるソウタさんの瞳が泳ぐ。



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