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第一章 『歪んだ刃先』
六話 『月夜が照らす先』
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変わりない冷静な目に、冷え切った表情。真っ赤に染めた頬を歪め、初めて自分の意志から愛斗に表情を見せたのだ。それも、歪に曲がった笑顔を。
「見られちゃった場合どうすればいいのかしら? 殺せば、でも、愛してないからごめんなさい。愛を育みたい人しか殺さないの、私」
異常な発言にこちら側も気が狂ってしまいそうになる。
彼女が愛斗に対し見せた笑み。それは間違いなく本当の物であり、その場しのぎの笑顔でないのは緩んだ頬や垂れた眉から感じ取ったものだ。だが、それであればあるほど悪質だ。彼女がこちらを笑顔で見つめる傍ら、地面に無造作に転がっているのは猫の死骸だ。それも惨殺され、熱を冷まし、綺麗に腹を開けられた猫の亡骸だ。それが数体、もはや数を数えられないまでに解体されており、数体ではなく一体として数えるのが気分的にはマシであろう。
「なんで、なんでこんなことを‥‥」
「んぅー、愛してるからかしら?」
「愛してるからって、愛してるならもっと命を大切に扱えよッ!」
響く愛斗の怒声に耳を塞ぐ彼女、否、それはこう呼ぶべきだろう『殺人鬼』。
殺人鬼は愛斗の説教に不満を覚え、手にしていた包丁を愛斗に向けた。鋭く尖った刃先には鮮血が付着しており、重力によってそれが大量に垂れ流れている。気分を害す光景に嗚咽が走り、それを強引に腹の底へ抑え込む。
気色の悪さに顔色を悪くする愛斗を横目に、殺人鬼は包丁を投げ、それをうまく掴み取りながら振り回し、危なげな行動を繰り返しながら口を開いた。
「命を大切に、その意見はもっともだわ。けれど、愛の前ではそれは役に立たない。ただの形だけを気取った言葉でしかない」
「———————」
「私が小さい頃、大好きだったペットが社畜で苦しんでいた父親に殺されたの。ストレスが溜まっていたのかしら、そりゃもう形の残らないまでに殺されたわ。だけど、どうしてだろう。愛おしいものほど死んだ死体に対する独占欲が止まらないの」
「この異常者め」
「えぇ、私はあなたの言う通り異常者だわ。だって、愛したものを殺してこそ両想いになったと勘違いしているサイコ女だからッ!」
愛斗の発言により一層精神状態が荒ぶる殺人鬼。両腕を天に掲げ、血濡れた表情で愛おしそうに微笑を浮かべそう熱弁した。
それに気は引け、後ずさりしようとしていた足は完璧に膠着し、体も言うことを聞かない。
身動きの取れない愛斗の目の前で掲げた腕を下ろし、冷静さを取り戻した殺人鬼が、
「でもね、異常者だと言われても恋は成熟させたいの。理解しろとは言わないわ、けど」
「けどなんだッ! お前は命を殺めてるんだ! 大切な、大事な…そんな命をお前は」
「けど、独りでずっと生きてきたから、寂しかった。だけど死体はどこにも行かない。何も言わない。私を怖がらないし、罵声を浴びせることもない。私が友達と名付けたら友達で、恋人と言ったら恋人。それは揺らがないわ」
「————————ぁ」
まるで、自分を鏡越しに見ているようであった。
どこか大切ななにかを失ったようなその瞳も、温かい思いの籠った言動も。その考えも。全て、愛斗と合致している。
生まれながらの孤独人であり、理解されない感情を抱えたその殺人鬼を、いや、それならば自分も殺人鬼なのかもしれない。
「ほら、包丁越しに伝わってくるでしょ? 私の鼓動が」
「あ、あぁ……」
自分を見つめ返す愛斗の意志を遮り、温かい手の温もりが心を包んでいく。そう思った時、自然と愛斗は彼女が使っていた凶器、包丁を手にし、彼女の心臓部を軽く突いていた。
貫いてはいないものの、軽く刺さった刃先からは生命の動き、鼓動が伝わってきた。冷たい包丁を持ちて部分まで振動させる生命の働きに感心させられるが、我に返った愛斗が手を離し、後ろに引き下がる。包丁も抜け落ち、心地よい金属音を立てながら地面に落下した。
「やっぱりその目、あなた‥‥、同種じゃない」
「僕‥‥、が…お前と?」
頬を撫でる温かい手のひら。それは血が跳ねた愛斗の頬をさらに赤で汚し、気味の悪い感触を心に残させた。急接近も今じゃ動じず、彼女に対する恐怖も薄れていった。それは殺害理由故に親近感を持ってしまったのが原因かそうでないか、今はどうだっていい。
少女は愛斗から離れ、華麗に回りながら顎に手を添え何かを考えている。途端、「そういうことか」っと理解したような口を立て、呆然と立ち尽くしている愛斗に指先を向けた。
「私と同種だもの、ってことは本当に生泉高校の新入生なのね」
「一回は否定したのに、なんでまたそんなことを‥‥」
「だから言ってるじゃない。私たちは同じ異常者だって。わかりやすくいうと、そうねー、『サイコパス』かしら?」
少女は手厚く同胞を迎えるかのように両手を愛斗に向け、頭を傾げながらそう言った。
スマホのライトは充電と共に切れ、暗闇が訪れる路地裏にて男女は睨み合った。
冷たい空気が愛斗の平穏を破壊し、間違いなく歪んだ路線へと乗せられてしまった。間違えた、誤った。今更後戻りが出来る境地に立ったわけでもない。人生の岐路を狂わせた張本人は姿が見えないなかでも話を続ける。
「そういえば、自己紹介をしていなかったわね。私の名前は天野 彩湖。あなたと同じ、狂乱の『サイコパス』だわ」
こんな惨状を目の当たりにしても僕は僕に唱え続る。『弱音を吐く前に行動に移す』っと。今もそうだ。怖くて足が竦んでいるのになぜか勇気が出る。異常だと思っているのにどうしても自分と重ねて同情してしまう。
殺人鬼と言って怪訝した今の自分を、過去に自分自身を怪訝した群衆と重ねてしまう。それがどうも嫌で、嫌で、嫌で—————。
「あなた、やっぱり面白いわね」
その場の感情を募らせ、拗らせた結果がこれだ。その末路が今の自分だ。
命は大事? あぁ、ごもっともだ。だけど、僕は思う。命を奪わず個性を殺すよより、命を奪って個性を生かした方が、僕らには住みやすいと———。
自分も異常者であると、そう気づいたころには彼女、天野 彩湖の腕をしっかりと握りしめたまま路地を歩いていた。血濡れた両手を繋ぎ、泡立つ血泡を握り締め、僕は彼女を見逃すことにした。
二人の男女は赤く染まった両手を握り合い、月光が覗き込む路地を無言で歩き続けた。静止する世界の中、二人だけが活動しているような、そんな幻想的な世界観に飲まれていく。
今日、確かに味わった刃越しの鼓動に生命の根強さを改めて知り、少女が感じていたその刃先に込められた思いは、確かに愛斗の手の平に残っていた。
「見られちゃった場合どうすればいいのかしら? 殺せば、でも、愛してないからごめんなさい。愛を育みたい人しか殺さないの、私」
異常な発言にこちら側も気が狂ってしまいそうになる。
彼女が愛斗に対し見せた笑み。それは間違いなく本当の物であり、その場しのぎの笑顔でないのは緩んだ頬や垂れた眉から感じ取ったものだ。だが、それであればあるほど悪質だ。彼女がこちらを笑顔で見つめる傍ら、地面に無造作に転がっているのは猫の死骸だ。それも惨殺され、熱を冷まし、綺麗に腹を開けられた猫の亡骸だ。それが数体、もはや数を数えられないまでに解体されており、数体ではなく一体として数えるのが気分的にはマシであろう。
「なんで、なんでこんなことを‥‥」
「んぅー、愛してるからかしら?」
「愛してるからって、愛してるならもっと命を大切に扱えよッ!」
響く愛斗の怒声に耳を塞ぐ彼女、否、それはこう呼ぶべきだろう『殺人鬼』。
殺人鬼は愛斗の説教に不満を覚え、手にしていた包丁を愛斗に向けた。鋭く尖った刃先には鮮血が付着しており、重力によってそれが大量に垂れ流れている。気分を害す光景に嗚咽が走り、それを強引に腹の底へ抑え込む。
気色の悪さに顔色を悪くする愛斗を横目に、殺人鬼は包丁を投げ、それをうまく掴み取りながら振り回し、危なげな行動を繰り返しながら口を開いた。
「命を大切に、その意見はもっともだわ。けれど、愛の前ではそれは役に立たない。ただの形だけを気取った言葉でしかない」
「———————」
「私が小さい頃、大好きだったペットが社畜で苦しんでいた父親に殺されたの。ストレスが溜まっていたのかしら、そりゃもう形の残らないまでに殺されたわ。だけど、どうしてだろう。愛おしいものほど死んだ死体に対する独占欲が止まらないの」
「この異常者め」
「えぇ、私はあなたの言う通り異常者だわ。だって、愛したものを殺してこそ両想いになったと勘違いしているサイコ女だからッ!」
愛斗の発言により一層精神状態が荒ぶる殺人鬼。両腕を天に掲げ、血濡れた表情で愛おしそうに微笑を浮かべそう熱弁した。
それに気は引け、後ずさりしようとしていた足は完璧に膠着し、体も言うことを聞かない。
身動きの取れない愛斗の目の前で掲げた腕を下ろし、冷静さを取り戻した殺人鬼が、
「でもね、異常者だと言われても恋は成熟させたいの。理解しろとは言わないわ、けど」
「けどなんだッ! お前は命を殺めてるんだ! 大切な、大事な…そんな命をお前は」
「けど、独りでずっと生きてきたから、寂しかった。だけど死体はどこにも行かない。何も言わない。私を怖がらないし、罵声を浴びせることもない。私が友達と名付けたら友達で、恋人と言ったら恋人。それは揺らがないわ」
「————————ぁ」
まるで、自分を鏡越しに見ているようであった。
どこか大切ななにかを失ったようなその瞳も、温かい思いの籠った言動も。その考えも。全て、愛斗と合致している。
生まれながらの孤独人であり、理解されない感情を抱えたその殺人鬼を、いや、それならば自分も殺人鬼なのかもしれない。
「ほら、包丁越しに伝わってくるでしょ? 私の鼓動が」
「あ、あぁ……」
自分を見つめ返す愛斗の意志を遮り、温かい手の温もりが心を包んでいく。そう思った時、自然と愛斗は彼女が使っていた凶器、包丁を手にし、彼女の心臓部を軽く突いていた。
貫いてはいないものの、軽く刺さった刃先からは生命の動き、鼓動が伝わってきた。冷たい包丁を持ちて部分まで振動させる生命の働きに感心させられるが、我に返った愛斗が手を離し、後ろに引き下がる。包丁も抜け落ち、心地よい金属音を立てながら地面に落下した。
「やっぱりその目、あなた‥‥、同種じゃない」
「僕‥‥、が…お前と?」
頬を撫でる温かい手のひら。それは血が跳ねた愛斗の頬をさらに赤で汚し、気味の悪い感触を心に残させた。急接近も今じゃ動じず、彼女に対する恐怖も薄れていった。それは殺害理由故に親近感を持ってしまったのが原因かそうでないか、今はどうだっていい。
少女は愛斗から離れ、華麗に回りながら顎に手を添え何かを考えている。途端、「そういうことか」っと理解したような口を立て、呆然と立ち尽くしている愛斗に指先を向けた。
「私と同種だもの、ってことは本当に生泉高校の新入生なのね」
「一回は否定したのに、なんでまたそんなことを‥‥」
「だから言ってるじゃない。私たちは同じ異常者だって。わかりやすくいうと、そうねー、『サイコパス』かしら?」
少女は手厚く同胞を迎えるかのように両手を愛斗に向け、頭を傾げながらそう言った。
スマホのライトは充電と共に切れ、暗闇が訪れる路地裏にて男女は睨み合った。
冷たい空気が愛斗の平穏を破壊し、間違いなく歪んだ路線へと乗せられてしまった。間違えた、誤った。今更後戻りが出来る境地に立ったわけでもない。人生の岐路を狂わせた張本人は姿が見えないなかでも話を続ける。
「そういえば、自己紹介をしていなかったわね。私の名前は天野 彩湖。あなたと同じ、狂乱の『サイコパス』だわ」
こんな惨状を目の当たりにしても僕は僕に唱え続る。『弱音を吐く前に行動に移す』っと。今もそうだ。怖くて足が竦んでいるのになぜか勇気が出る。異常だと思っているのにどうしても自分と重ねて同情してしまう。
殺人鬼と言って怪訝した今の自分を、過去に自分自身を怪訝した群衆と重ねてしまう。それがどうも嫌で、嫌で、嫌で—————。
「あなた、やっぱり面白いわね」
その場の感情を募らせ、拗らせた結果がこれだ。その末路が今の自分だ。
命は大事? あぁ、ごもっともだ。だけど、僕は思う。命を奪わず個性を殺すよより、命を奪って個性を生かした方が、僕らには住みやすいと———。
自分も異常者であると、そう気づいたころには彼女、天野 彩湖の腕をしっかりと握りしめたまま路地を歩いていた。血濡れた両手を繋ぎ、泡立つ血泡を握り締め、僕は彼女を見逃すことにした。
二人の男女は赤く染まった両手を握り合い、月光が覗き込む路地を無言で歩き続けた。静止する世界の中、二人だけが活動しているような、そんな幻想的な世界観に飲まれていく。
今日、確かに味わった刃越しの鼓動に生命の根強さを改めて知り、少女が感じていたその刃先に込められた思いは、確かに愛斗の手の平に残っていた。
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