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第17話 魔王さま、がんばりましょうね
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フランスは、何度か目を瞬いた。
あれ、天井?
「陛下の~気持ち悪いのは~消っえますよ~」
アミアンが横になっているフランスのとなりで歌いながら、フランスのてのひらを、もんでいた。
「なにやってるのよ、アミアン」
「えっ! あ、もうお昼⁉ お嬢様ですか?」
「そうよ」
フランスは起き上がった。
揺れている。
馬車の中だった。
アミアンは座席の下に座り込んでいる。
あ、ちょっと気持ち悪いわね。
イギリス陛下の身体はなんともなかったから、すっかり油断してたわ。馬車苦手なのよね。それで、アミアンが、ましになるように手をもんでくれていたのね。
「起き上がって大丈夫ですか、お嬢様、今日は馬車酔いがずいぶん酷いみたいでしたから」
「うーん、いつもどおりね。気持ち悪いけど、横になるほどじゃないわよ。え、イギリス陛下、馬車酔いでしんどくて横になってたの?」
「はい。もう、この世の終わりみたいに苦しまれて。あまりにもおかわいそうでした」
この前の熱のときといい、えらく弱いわね。
「にしても、アミアン、あのとんでもない調印式の朝のことに怯えてたけど、大丈夫だったみたいね」
「はい」
「大丈夫だったどころか、ずいぶん、距離がちかくない?」
「まあ、最初があれでしたし」
まあ、そうだけど。
そんな、隣で歌って、手をもみもみするほど、近づける?
さすが、アミアンだわ。
「よかったわね、ひどくされなくて」
「陛下、とってもお優しかったですよ」
「えっ」
想像がつかない。
「わたしがお嬢様以外の方にお仕えしたことなくて、無礼ばっかり働いてしまうかもしれません、と言ったら、そのままでいいと言ってくださいました」
「ええっ」
「だから普段通りにしてます」
「えぇぇ」
すごい。
さすがの、アミアンすぎるわ。
そのままでいいと言われても、普通は恐縮しそうなのに。本気で、そのまま、普段通りにしているのね。
フランスは、いまいち信じきれなくて、聞いた。
「嫌味とか皮肉とか言われなかったの?」
「え、そんなこと、言われませんでしたよ?」
よっぽど、アミアンのこと気に入ったのかしら。
まあ、アミアン、可愛いものね。
わかるわ。
「お嬢様は、大丈夫でしたか?」
「ええ、あちらも馬車で帝国にむけて出発したところよ。ダラム卿がずっと側にいてくれて、助かったわ」
「陛下が、こちらの馬車は粗末すぎるって悲しんでました」
「失礼ね。そりゃ、そうでしょうよ。あっちの馬車はすさまじかったわよ」
「え!どんな馬車なんです⁉」
アミアンがわくわくした顔で聞く。
「大きくて、ふかふかで、揺れが少ないわ」
しかも、芸術品と言ってもおかしくないほど、美しい装飾のほどこされた高級な馬車だった。
「え~、うらやましいですね」
「しかも、中で立てるくらい広いのよ。手足伸ばし放題!」
「うわ~、それじゃこっちは牢獄みたいですね」
「やめてよ、萎えるから」
ふたりで笑う。
「ね、おなかすいた。ヌガー食べましょ」
フランスがそう言うと、アミアンがにっこり答える。
「わたし、自分の分、もう食べちゃいました」
「えっ、いつのまに!」
「さっき陛下と半分こしたんです」
「どれだけ打ち解けてるのよ。じゃあ、わたしの分、まだまだあるし一緒に食べましょ」
「はい、お嬢さま」
*
次の日、アミアンは夜明け前に目覚めた。
馬車の小さな席に、無理矢理おさまって寝たから、体が固まっている。せまい馬車の中で、ちじこまったままなんとか背中だけでものばす。
うーん、一日中馬車に揺られて、寝るのも馬車の中だと、なかなか窮屈。
かけ布をたたんでいると、向かいの席で、フランスの身体が動いた。
アミアンは、ひそひそと小さな声で言った。
「陛下、おはようございます」
フランスの身体で、イギリスがつかのまぼんやりとしたあと、アミアンに合わせて小さな声で言った。
「馬車に泊まったのか」
「はい、そうなんです。宿代をケチりました。まだ、上で御者が寝ていると思います」
「上で?」
「はい、馬車はわたしとお嬢様でいっぱいなので、上に簡易テントはって寝てます。近くに川があるので、散歩がてら顔を洗いに行きませんか?」
イギリスがうなずく。
アミアンはイギリスの身体にかかっているかけ布をとって、たたんだ。御者を起こさないよう、そっと外に出る。
馬車からはなれるとイギリスが言った。
「身体がいたい」
「あらら、せまかったですからね。さすってさしあげます」
アミアンはイギリスの背中をさすったり、腕をもんだりした。
たまに、見つけたそこらの草をひっこぬいてポケットに入れる。
イギリスがそれを見て言った。
「何をしている」
「あ、これは、良い香りのする草ですよ。べつに薬草でもないので、雑草なんですけど。こうやって、もみもみすると、さわやかな香りがするんです。馬車酔いしたときに、かぐとすこし気分がましになったりするんですよ」
「そうか」
「今日は馬車酔い、ましだといいですねえ」
「そうだな」
小川の手前に、小さな地面のさけめがある。
お嬢様の身体だと、ちょっとぎりぎり跳べるかどうかかもしれない。
アミアンは大股でまたいで、イギリスに手を差し出した。
イギリスはその手をつかまず、跳び越えようとして、跳び足りずにべしゃっとこけた。
「あ~、お嬢様の身体って、けっこうどんくさいんですよね。大丈夫ですか、陛下」
アミアンはイギリスの手をとって助け起こす。
イギリスが不満そうな顔で、地について泥で汚れた両手を見て言った。
「いたい」
あらら、かわいそうに。
アミアンは、イギリスの手に付いた泥を、そっとはらう。
ちょっとてのひらが赤くなってしまっていた。
アミアンはこけないようにと、イギリスの手をにぎって引いた。イギリスは大人しくついてくる。
「昨日けっこう遅くまで馬車走らせましたから、今日は午前中には教会につけると思いますよ。頑張りましょうね、陛下」
イギリスはこくりと頷いた。
あれ、天井?
「陛下の~気持ち悪いのは~消っえますよ~」
アミアンが横になっているフランスのとなりで歌いながら、フランスのてのひらを、もんでいた。
「なにやってるのよ、アミアン」
「えっ! あ、もうお昼⁉ お嬢様ですか?」
「そうよ」
フランスは起き上がった。
揺れている。
馬車の中だった。
アミアンは座席の下に座り込んでいる。
あ、ちょっと気持ち悪いわね。
イギリス陛下の身体はなんともなかったから、すっかり油断してたわ。馬車苦手なのよね。それで、アミアンが、ましになるように手をもんでくれていたのね。
「起き上がって大丈夫ですか、お嬢様、今日は馬車酔いがずいぶん酷いみたいでしたから」
「うーん、いつもどおりね。気持ち悪いけど、横になるほどじゃないわよ。え、イギリス陛下、馬車酔いでしんどくて横になってたの?」
「はい。もう、この世の終わりみたいに苦しまれて。あまりにもおかわいそうでした」
この前の熱のときといい、えらく弱いわね。
「にしても、アミアン、あのとんでもない調印式の朝のことに怯えてたけど、大丈夫だったみたいね」
「はい」
「大丈夫だったどころか、ずいぶん、距離がちかくない?」
「まあ、最初があれでしたし」
まあ、そうだけど。
そんな、隣で歌って、手をもみもみするほど、近づける?
さすが、アミアンだわ。
「よかったわね、ひどくされなくて」
「陛下、とってもお優しかったですよ」
「えっ」
想像がつかない。
「わたしがお嬢様以外の方にお仕えしたことなくて、無礼ばっかり働いてしまうかもしれません、と言ったら、そのままでいいと言ってくださいました」
「ええっ」
「だから普段通りにしてます」
「えぇぇ」
すごい。
さすがの、アミアンすぎるわ。
そのままでいいと言われても、普通は恐縮しそうなのに。本気で、そのまま、普段通りにしているのね。
フランスは、いまいち信じきれなくて、聞いた。
「嫌味とか皮肉とか言われなかったの?」
「え、そんなこと、言われませんでしたよ?」
よっぽど、アミアンのこと気に入ったのかしら。
まあ、アミアン、可愛いものね。
わかるわ。
「お嬢様は、大丈夫でしたか?」
「ええ、あちらも馬車で帝国にむけて出発したところよ。ダラム卿がずっと側にいてくれて、助かったわ」
「陛下が、こちらの馬車は粗末すぎるって悲しんでました」
「失礼ね。そりゃ、そうでしょうよ。あっちの馬車はすさまじかったわよ」
「え!どんな馬車なんです⁉」
アミアンがわくわくした顔で聞く。
「大きくて、ふかふかで、揺れが少ないわ」
しかも、芸術品と言ってもおかしくないほど、美しい装飾のほどこされた高級な馬車だった。
「え~、うらやましいですね」
「しかも、中で立てるくらい広いのよ。手足伸ばし放題!」
「うわ~、それじゃこっちは牢獄みたいですね」
「やめてよ、萎えるから」
ふたりで笑う。
「ね、おなかすいた。ヌガー食べましょ」
フランスがそう言うと、アミアンがにっこり答える。
「わたし、自分の分、もう食べちゃいました」
「えっ、いつのまに!」
「さっき陛下と半分こしたんです」
「どれだけ打ち解けてるのよ。じゃあ、わたしの分、まだまだあるし一緒に食べましょ」
「はい、お嬢さま」
*
次の日、アミアンは夜明け前に目覚めた。
馬車の小さな席に、無理矢理おさまって寝たから、体が固まっている。せまい馬車の中で、ちじこまったままなんとか背中だけでものばす。
うーん、一日中馬車に揺られて、寝るのも馬車の中だと、なかなか窮屈。
かけ布をたたんでいると、向かいの席で、フランスの身体が動いた。
アミアンは、ひそひそと小さな声で言った。
「陛下、おはようございます」
フランスの身体で、イギリスがつかのまぼんやりとしたあと、アミアンに合わせて小さな声で言った。
「馬車に泊まったのか」
「はい、そうなんです。宿代をケチりました。まだ、上で御者が寝ていると思います」
「上で?」
「はい、馬車はわたしとお嬢様でいっぱいなので、上に簡易テントはって寝てます。近くに川があるので、散歩がてら顔を洗いに行きませんか?」
イギリスがうなずく。
アミアンはイギリスの身体にかかっているかけ布をとって、たたんだ。御者を起こさないよう、そっと外に出る。
馬車からはなれるとイギリスが言った。
「身体がいたい」
「あらら、せまかったですからね。さすってさしあげます」
アミアンはイギリスの背中をさすったり、腕をもんだりした。
たまに、見つけたそこらの草をひっこぬいてポケットに入れる。
イギリスがそれを見て言った。
「何をしている」
「あ、これは、良い香りのする草ですよ。べつに薬草でもないので、雑草なんですけど。こうやって、もみもみすると、さわやかな香りがするんです。馬車酔いしたときに、かぐとすこし気分がましになったりするんですよ」
「そうか」
「今日は馬車酔い、ましだといいですねえ」
「そうだな」
小川の手前に、小さな地面のさけめがある。
お嬢様の身体だと、ちょっとぎりぎり跳べるかどうかかもしれない。
アミアンは大股でまたいで、イギリスに手を差し出した。
イギリスはその手をつかまず、跳び越えようとして、跳び足りずにべしゃっとこけた。
「あ~、お嬢様の身体って、けっこうどんくさいんですよね。大丈夫ですか、陛下」
アミアンはイギリスの手をとって助け起こす。
イギリスが不満そうな顔で、地について泥で汚れた両手を見て言った。
「いたい」
あらら、かわいそうに。
アミアンは、イギリスの手に付いた泥を、そっとはらう。
ちょっとてのひらが赤くなってしまっていた。
アミアンはこけないようにと、イギリスの手をにぎって引いた。イギリスは大人しくついてくる。
「昨日けっこう遅くまで馬車走らせましたから、今日は午前中には教会につけると思いますよ。頑張りましょうね、陛下」
イギリスはこくりと頷いた。
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