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第38話 ふわふわ、かわいい、魔王たまたま
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フランスはまた、ネコのたまたまを見つめながら、夜道を歩いていた。
この尊いふわふわのたまたまを、魔王たまたまと名付けるわ。
魔王たまたま、かわいい。
いつか、もにもにしてみたい。
ぴんと伸びたしっぽは、なんだか尊大な態度のイギリスらしいのに、かわいいたまたまが無防備なところが、なんともいえず愛らしい。
昨日はふせの練習を終えると、お昼過ぎに、赤い竜にはこばれて、教会のある町からはかなり離れた場所におろされた。人気のない街道には、馬車が用意されていた。
フランスはそこから一人で馬車に乗り、教会まで戻った。
イギリスは竜の姿で、そのまま先に戻ったらしい。
用意周到なことね。
まるで、ほんとうにいけない密会でもしているみたいだわ。
……ちょっと、わくわくしちゃう。
しかし、問題なのは、竜に運ばれると、しばらくフランスの身体が使い物にならない、ということだ。昨日は馬車で教会に帰るなり、先に戻ったイギリスから聞いていたらしいアミアンに背負われて部屋までもどった。
アミアンが言うには『まるでしなびたアスパラガスのよう』にしなしなの状態だったらしい。
教会での仕事を終えてから、昨夜と同じように、フランスは手に焼き菓子を持って、町はずれの林の奥にある、泉の場所まで来た。
ああ、竜に運ばれるのは憂鬱ね……。
フランスは、覚悟を決めてまた告解室みたいなものに乗り込んで、手すりをぎゅっとにぎった。
またしても、ピュイ山脈に到着するなりフランスはぐったりしたままイギリスに運ばれ、かいがいしく世話をされる。フランスが回復すると、イギリスは簡易暖炉に火だけつけて、さっさと出ていく。
基本的に、無口で不愛想なのよね。
でも、テーブルの上を見ると、昨日とはちがう菓子がおいてある。
こういうところは、なんだか、マメで優しいのよね。
暖炉に火をつけるのも、してくれるし。
皇帝なのに、細々としたことも、ひとりでできるのね。
フランスは、目の前に白うさぎの人形をおいて、眠った。
*
木の陰から、聖女フランスの姿をしたイギリスが顔をのぞかせている。
「人のときの姿を、つよく思い浮かべろ」
イギリスにそう言われて、フランスは、人の姿を思い浮かべた。
しかし、赤い竜の姿は、ちっとも変わる様子がない。
うんともすんとも、もどらない。
イギリスが昨日と同じように、容赦なく言う。
「さっさとしろ」
してるわよ!
フランスの喉から、大きな威嚇の声が出る。
おっと、この身体だと、言葉でごまかせないから、そのまま不機嫌な声が出ちゃうわ。
それにしても、人の姿っていっても……。
フランスは自分の姿を思い浮かべてみた。
戻らないわね。
陛下の姿を思い浮かべるべきなのかしら。
フランスは、イギリスの姿を思い浮かべた。尊大な……、むかつく……、姿を。
人間の姿を思い浮かべようとしたのに、ふと、かわいらしい魔王たまたまがよぎった。
ふわふわ、かわいい、魔王たまたま。
途端に、フランスの身体が奇妙な感覚とともに小さくなった。
あら?
「にゃあ」
口から、かわいらしい声が出る。
わ、地面が近いわ。
それに、何もかもが、大きく見えるわね。
なんだか、ちょっと怖い。きっと人に近づいたら、ずいぶん大きく威圧的に見えるだろう。
だから猫って、上から人を見下ろしたがるのかしら。
イギリスがもう見慣れた小ばかにする顔で言う。
「わたしの知らないあいだに、人の姿はずいぶん変わったらしい」
フランスのしっぽが、ぶん、ぶん、と左右に大きく動いた。
あ、この動き、不機嫌なときになるのね。
「まあ、いい、その状態から、もう一度竜の姿になってみろ」
フランスは、赤い竜の姿を思い浮かべた。
美しく気高そうな姿だ。
今度はすぐに、姿が変わった。
やはり奇妙な感覚がする。大きくなる時も、小さくなる時も、背中の真ん中のあたりから、むりやり押し込められたり、大きくひろげられたりするような感覚がある。
「姿が変わるときに、身体が感じる感覚に集中すれば、姿を変えやすくなる。それに、その感覚を覚えていれば、むやみやたらと姿を想像するだけで、姿が変わることもない」
なるほどね。
フランスは、背中の感覚を再現するつもりで、猫の姿を思い描いた。
すぐに猫の姿にかわる。
次は、背中の感覚は再現せずに、ただ、赤い竜の姿だけを思い描く。
姿は猫のままだった。
なるほど、なんとなく分かってきたわ。
フランスは、次にイギリスの姿を思い浮かべた。
むすっとした、イギリスの姿。
だが、姿が変わる様子はない。
なぜかしら。
ふと、昨日見た、控えめだけれど、おかしそうに笑うイギリスの笑顔を思い出した。途端に、視界が高くなる。
あ、戻れた。
午前中にひとの姿になるのは、久しぶりだ。イギリスの姿になるのも。
フランスは目の前に手を持ってきて、指を動かした。
やっぱり、人の姿が一番いいわ。
この指を自由に動かせるところが安心する。ほかの姿じゃ、顔をかきたくても、後ろ足をつかうしかないもの。
フランスはずっと、なんだかむずむずしていた右頬をかるくかいた。
もしかして、良くない感情をもつ姿を思い浮かべると、姿を変えられないのかしら。
その後も、イギリスが「ひと」「ねこ」「竜」と指定するたびに姿を変えたり、逆に変えないようにしてみたりする。
あら、けっこう、あっという間に、コツがつかめてきたわ。
これなら、朝目覚めても、教会をふきとばしたり、しないんじゃない?
何度か練習をくりかえして、姿を変えることに慣れてきたころ、イギリスが「休憩だ」と言った。彼は、木陰に座って、フランスの焼いた焼き菓子を食べ始めた。
フランスは、手持無沙汰なので、姿を変えてみた。
竜の姿になって、ふと気になって、ちょっと羽ばたいてみる。
ちょっと浮いた。
おお、すごい、浮く。
面白い!
もうちょっとだけ!
そう思って、すこし動かしたつもりが、なぜか勢いよくはばたいて、けっこう身体が持ち上がってしまう。
そのままバランスをくずして、フランスは湖に頭からつっこんだ。上半身がしっかりと湖につかってしまう。
ああ、また……。
フランスが水につかった上半身を、のそのそと湖からあげて木陰を見ると、イギリスが不機嫌な顔をしながら、焼き菓子をもぐもぐしていた。
この尊いふわふわのたまたまを、魔王たまたまと名付けるわ。
魔王たまたま、かわいい。
いつか、もにもにしてみたい。
ぴんと伸びたしっぽは、なんだか尊大な態度のイギリスらしいのに、かわいいたまたまが無防備なところが、なんともいえず愛らしい。
昨日はふせの練習を終えると、お昼過ぎに、赤い竜にはこばれて、教会のある町からはかなり離れた場所におろされた。人気のない街道には、馬車が用意されていた。
フランスはそこから一人で馬車に乗り、教会まで戻った。
イギリスは竜の姿で、そのまま先に戻ったらしい。
用意周到なことね。
まるで、ほんとうにいけない密会でもしているみたいだわ。
……ちょっと、わくわくしちゃう。
しかし、問題なのは、竜に運ばれると、しばらくフランスの身体が使い物にならない、ということだ。昨日は馬車で教会に帰るなり、先に戻ったイギリスから聞いていたらしいアミアンに背負われて部屋までもどった。
アミアンが言うには『まるでしなびたアスパラガスのよう』にしなしなの状態だったらしい。
教会での仕事を終えてから、昨夜と同じように、フランスは手に焼き菓子を持って、町はずれの林の奥にある、泉の場所まで来た。
ああ、竜に運ばれるのは憂鬱ね……。
フランスは、覚悟を決めてまた告解室みたいなものに乗り込んで、手すりをぎゅっとにぎった。
またしても、ピュイ山脈に到着するなりフランスはぐったりしたままイギリスに運ばれ、かいがいしく世話をされる。フランスが回復すると、イギリスは簡易暖炉に火だけつけて、さっさと出ていく。
基本的に、無口で不愛想なのよね。
でも、テーブルの上を見ると、昨日とはちがう菓子がおいてある。
こういうところは、なんだか、マメで優しいのよね。
暖炉に火をつけるのも、してくれるし。
皇帝なのに、細々としたことも、ひとりでできるのね。
フランスは、目の前に白うさぎの人形をおいて、眠った。
*
木の陰から、聖女フランスの姿をしたイギリスが顔をのぞかせている。
「人のときの姿を、つよく思い浮かべろ」
イギリスにそう言われて、フランスは、人の姿を思い浮かべた。
しかし、赤い竜の姿は、ちっとも変わる様子がない。
うんともすんとも、もどらない。
イギリスが昨日と同じように、容赦なく言う。
「さっさとしろ」
してるわよ!
フランスの喉から、大きな威嚇の声が出る。
おっと、この身体だと、言葉でごまかせないから、そのまま不機嫌な声が出ちゃうわ。
それにしても、人の姿っていっても……。
フランスは自分の姿を思い浮かべてみた。
戻らないわね。
陛下の姿を思い浮かべるべきなのかしら。
フランスは、イギリスの姿を思い浮かべた。尊大な……、むかつく……、姿を。
人間の姿を思い浮かべようとしたのに、ふと、かわいらしい魔王たまたまがよぎった。
ふわふわ、かわいい、魔王たまたま。
途端に、フランスの身体が奇妙な感覚とともに小さくなった。
あら?
「にゃあ」
口から、かわいらしい声が出る。
わ、地面が近いわ。
それに、何もかもが、大きく見えるわね。
なんだか、ちょっと怖い。きっと人に近づいたら、ずいぶん大きく威圧的に見えるだろう。
だから猫って、上から人を見下ろしたがるのかしら。
イギリスがもう見慣れた小ばかにする顔で言う。
「わたしの知らないあいだに、人の姿はずいぶん変わったらしい」
フランスのしっぽが、ぶん、ぶん、と左右に大きく動いた。
あ、この動き、不機嫌なときになるのね。
「まあ、いい、その状態から、もう一度竜の姿になってみろ」
フランスは、赤い竜の姿を思い浮かべた。
美しく気高そうな姿だ。
今度はすぐに、姿が変わった。
やはり奇妙な感覚がする。大きくなる時も、小さくなる時も、背中の真ん中のあたりから、むりやり押し込められたり、大きくひろげられたりするような感覚がある。
「姿が変わるときに、身体が感じる感覚に集中すれば、姿を変えやすくなる。それに、その感覚を覚えていれば、むやみやたらと姿を想像するだけで、姿が変わることもない」
なるほどね。
フランスは、背中の感覚を再現するつもりで、猫の姿を思い描いた。
すぐに猫の姿にかわる。
次は、背中の感覚は再現せずに、ただ、赤い竜の姿だけを思い描く。
姿は猫のままだった。
なるほど、なんとなく分かってきたわ。
フランスは、次にイギリスの姿を思い浮かべた。
むすっとした、イギリスの姿。
だが、姿が変わる様子はない。
なぜかしら。
ふと、昨日見た、控えめだけれど、おかしそうに笑うイギリスの笑顔を思い出した。途端に、視界が高くなる。
あ、戻れた。
午前中にひとの姿になるのは、久しぶりだ。イギリスの姿になるのも。
フランスは目の前に手を持ってきて、指を動かした。
やっぱり、人の姿が一番いいわ。
この指を自由に動かせるところが安心する。ほかの姿じゃ、顔をかきたくても、後ろ足をつかうしかないもの。
フランスはずっと、なんだかむずむずしていた右頬をかるくかいた。
もしかして、良くない感情をもつ姿を思い浮かべると、姿を変えられないのかしら。
その後も、イギリスが「ひと」「ねこ」「竜」と指定するたびに姿を変えたり、逆に変えないようにしてみたりする。
あら、けっこう、あっという間に、コツがつかめてきたわ。
これなら、朝目覚めても、教会をふきとばしたり、しないんじゃない?
何度か練習をくりかえして、姿を変えることに慣れてきたころ、イギリスが「休憩だ」と言った。彼は、木陰に座って、フランスの焼いた焼き菓子を食べ始めた。
フランスは、手持無沙汰なので、姿を変えてみた。
竜の姿になって、ふと気になって、ちょっと羽ばたいてみる。
ちょっと浮いた。
おお、すごい、浮く。
面白い!
もうちょっとだけ!
そう思って、すこし動かしたつもりが、なぜか勢いよくはばたいて、けっこう身体が持ち上がってしまう。
そのままバランスをくずして、フランスは湖に頭からつっこんだ。上半身がしっかりと湖につかってしまう。
ああ、また……。
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