ソッチドッチ ~魔王と聖女の入れかわり! 入れかわれば、本当の姿が見えてくる?~

櫻恭史郎

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第77話 ついに賛美のとき

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 フランスは、なんだかどんよりした空気を打ち消そうと、アミアンに言った。

「ねえ、アミアン、初心者が歌いやすい讃美歌を歌ってくれない?」

「讃美歌ですか?」

「ええ、今から陛下と練習するから、お手本を歌って欲しいのよ」

 イギリスが嫌そうな顔をした。

 アミアンは、あのうわさのせいか、なんだかしょんぼりとしている。

 フランスは明るく言った。

「ね、とんでもないうわさで、心が荒れちゃったときは、讃美歌で癒されるにかぎるわ! お願いよ」

 アミアンは、頷いて言った。

「分かりました」

 フランスは一緒に聞こうと、イギリスのとなりに行く。

 アミアンが、簡単な讃美歌を歌った。

 彼女の声は、まるで透き通るように美しく、のびやかで、風のように自由だ。部屋に、美しい音が満ちる。

 アミアンの声は、相変わらずきれいね。

 まだ、ちいさいころ、フランスのそばで歌を歌ってくれたアミアンの母親の姿を思い出した。

 彼女も、美しい歌声をしていたわ。
 声も、姿も、まるで妖精の国の女王様みたいだった。

 アミアンもそうだ。
 しなやかで美しく、歌声は、すべてを癒すように清い。

 フランスはうっとりした心地で、アミアンの歌に耳をかたむけた。

 アミアンの歌が終わると、フランスもイギリスも拍手した。拍手せずにはいられないほどの歌だった。

「やっぱり、アミアンの歌声って素敵だわ。何度聞いても、うっとりしちゃう」

 アミアンが照れたように、へへ、と笑う。

 かわいい。

 アミアンは歌い終わると、食堂の手伝いがあるからと出ていった。

 フランスは、イギリスと向かい合う。

「……」

「……」

 すごい。

 すっごく顔に出ているわ。

 顔に、いやだ、と書いてあるようよ。
 こっちはこっちで、ちょっとかわいいわね。

 フランスは猫なで声で言った。

「陛下、ちょっと歌うだけです。報告できるくらいに。ちょっとだけ」

「いやだ」

 でたわね。

 もう讃美歌のことになると『いやだ』しか言えないのかしら、この駄々っ子。

 フランスは、自信満々に笑顔で言った。

「大丈夫です。一緒に歌いましょう」

「いやだ」

 大丈夫なんだってば。
 よく聞いてなさいよ。

「それでは、わたしから歌いますね」

「……」

 フランスは、アミアンが歌ったのと同じ讃美歌を歌った。
 立派に、胸をはって、しっかりと歌い上げる。

 歌い終わって、イギリスを見ると、彼は真剣な顔をして黙っていた。

 イギリスは、しばらくして口をひらき、深刻そうに言った。

「下手だな」

 フランスは、鼻で笑って答える。

「下手ですむようなもんじゃないです。とんっでもなく下手です。なんなら騒音ですよ。教会の前で歌ってやったら、献金なんかひとつも集まらないどころか、全員逃げ出します」

 よどみなく言うフランスを見て、イギリスが思わずと言ったように吹き出した。

 そのあと、彼は咳ばらいをして顔をととのえ、笑顔をひっこめて言う。

「教会の前で歌ったら、どうかやめてくださいと言って、献金が集まるんじゃないか」

 ひどい言いように、フランスは吹き出した。

 イギリスを真似て、咳ばらいをひとつしてから、笑顔をひっこめて言い返す。

「帝国の騎士は決闘を前に、すごすごと逃げ出すのが伝統なんですか?」

 イギリスが、鼻で笑うようにして言った。

「教国の聖職者は、負けるために決闘を挑むんだな」

「帝国の騎士は、聖職者が杖をひとふりするほどにも、剣をふるえないから、戦いの場にも出てこないとか」

「無駄に装飾の多い見た目ばっかりの教国の聖職者は、帝国騎士団の真の強さと美しさにはかなわない」

「あら、じゃあ、どうぞ」

 フランスはそう言って、両手で、どうぞという仕草をした。

 イギリスが心底嫌そうな顔で、その仕草を見ていた。

 あきらめたのか、イギリスが、讃美歌を歌った。
 ちゃんと聞いていたらしく、雰囲気は合っている。

 フランスは心の内で、手をうち叩いて喜んだ。

 やっぱりね!
 期待通りよ!

 いえ、期待以上ね!
 素晴らしいわ!

 イギリスが歌い終わると、フランスは手が痛くなるほど拍手してから、満面の笑みで言った。

「下手です!」

 お仲間、発見よ!

 主よ、感謝いたします。

 イギリスが、おどしつけるような顔で言う。

「だから、いやだと言ったんだ」

 そんな顔しても、あの下手くその歌じゃ、ちっともこわくないわよ。

 フランスは、やれやれとひとつため息をついて言った。

「わたしも、ちっとも上手くならないんですよね。どうやったら、アミアンみたいに綺麗に歌えるのかしら」

「素質だろ」

「ちょっと。最初からあきらめるつもりですか?」

「上手くなる気がしない」

「練習したら、もしかして上手くなるかも」

「ならない」

 すごいわね。
 歌に関しては、全力でうしろ向きになるじゃない。

「でも、お声は素敵ですよ」

 フランスの言葉に、イギリスがちらっとこちらを見た。

 よしよし、褒めて伸ばす作戦よ。

「声が良いし、美男だし、ほぼ雰囲気は合ってましたし、歌えるようになったら、きっと」

「……」

「すっご~く、かっこよくて、素敵ですよ」

「……」

 イギリスは、むすっとしながらも、何も言わずにいた。

 よし、いやだと言わなくなったわ。

 フランスは、あの手この手で褒めたおしながら、夕食の時間まで、イギリスと讃美歌を歌った。


 部屋にふたりの、何を歌っているのかわからない、へなちょこの歌声がひびく。



     *



 フランスは、その日の夜、私室で思わず声を出した。

「あっ」

 腹に手をあてる。

 痛い……。
 それに、腰もだるい。

 あー、そろそろだと思っていたのよね。


 これは……、明日、陛下が苦しむことになりそう。




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