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第76話 アミアンの怒り
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フランスが礼拝堂から執務室に戻ると、イギリスが一人で執務机にむかっていた。
「あら、お戻りだったんですね。ダラム卿はもう来られたんですか?」
「いや、連れてこようかと思ったが、状況を説明したら二日ほど時間がほしいと言われた」
「まあ、そうなんですね。お忙しいんでしょうか」
「さあな」
フランスは、すすっとイギリスの執務机に近寄って言った。
「陛下、もう明後日には聖下に会いに行かなくちゃならないんです。なので讃美歌を」
「いやだ」
でたわね。
妙に嫌がるんだから。
フランスはご機嫌伺いするみたいに笑顔をつくって言った。
「大丈夫です、陛下。わたしも一緒に歌いますか」
「いやだ」
あらあら~。
これは。楽しみだわ。
絶対、絶対、歌ってもらわなくちゃ。
フランスがにやにやしていると、ノックの音もなしに、執務室の扉が乱暴にひらかれる。
フランスはびっくりしてそちらに目をやった。
すごい形相のアミアンがいた。
アミアンが大股でフランスに近寄り、フランスの両肩を思いっきりつかむ。
怒られる⁉
でも、何に⁉
分からないが、フランスは思わず大声で言った。
「ごめんなさいっ‼」
アミアンが、勢いをそがれたのか、『えっ?』という顔をして「何がごめんなさいなんです?」と言った。だが、すぐに、またおそろしい形相にもどして、怒りに満ちた大きな声で言う。
「一体、どこのどいつが、お嬢様のお体に触れたんです! どこを触られたんですか! 同じ場所を切り落としてきてやります!」
「アミアン、落ち着いて、そんな触られては——」
イギリスもこわい顔で言う。
「どういうことだ」
「いや、さっきちょっと——」
フランスが説明しようとすると、アミアンがいつもの三倍くらいの声量で言う。
「さっき、礼拝堂で、癒しの力を目当てといつわって来た、貴族の男たちが、お嬢様を連れ出そうとしたり、身体に触れたりしたそうです!」
フランスは大きな声で言い返した。
「触られてないったら! ちょっと手を握られただけよ!」
アミアンが打ち消すような大声で言う。
「うそです! 腰に手をまわそうとしたやつもいたと聞きました!」
シトー……。
めずらしく事細かに報告したわね。
アミアンが許せないというふうに、片手でこぶしをつくり、握りしめて言う。
「二日も連続で、シトー助祭の声を聞くなんて! もう、この世の終わりです。終わりのラッパみたいなもんですよ! 第二のラッパです!」
ちょっと意味が分からない。
アミアンったら、怒りすぎておかしくなってるわ。
「落ち着いてアミアン。腰に手をまわそうとした男は、シトーに捻り上げられて半泣きで帰っていったわ」
「半泣き? 半殺しじゃなくてですか?」
そう言ったアミアンの顔が、恐ろしいほど真剣で、笑いの欠片もなかった。
獰猛な眼つきをしている。
こわい。
これは、めちゃくちゃに怒っているわ。
フランスは、まあまあとなだめて言った。
「ほんとに大丈夫だから」
アミアンがフランスの手首をにぎって言った。
「お風呂です。いますぐ、お風呂に入りましょう。湯をわかします」
そのままフランスを引っぱって出ていこうとするアミアンを、ふんばって止める。
「まだ夕食も終わってないじゃない! あとで入るわよ」
イギリスが横から言った。
「そういうことは、よくあるのか?」
アミアンが、いつもより大きな声量のまま答える。
「よくあることではありません! 聖女の身体に触れるなんて、今まで、そんな不埒なことをする者はいませんでした!」
「では、今回のことには何か理由があるのだろう」
イギリスの言葉に、アミアンが急に元気をなくした様子になる。
あら……。
これは、たぶんまた、何かひどいうわさが出回っているんだわ。
「アミアン、大丈夫だから言って。ひどいうわさなの?」
アミアンが言いにくそうにして、しばらくためらったあと、ようやっと声量を小さく落として言った。
「聖女フランスは……」
それだけ言って、言いよどんだアミアンに、フランスは視線で先をうながす。しばらくして、ようやっと彼女は言った。
「何人も教会に男を連れ込んでいて、すぐに、おとこに身体を触れさせる。と」
ははあ。
なるほどね。
もう、シトーからはじまったなら、陛下で三人目だものね。
フランスはへらっと笑って言った。
「もう三人も連れ込んでいることになっているもの。まあ、しょうがないんじゃない」
イギリスが、フランスの気にしない素振りを見て、あきれるようにして言った。
「もうすこし危機感を持て」
「危機感は持っていますよ。でも、うわさが立ってしまったものはしょうがないじゃないですか」
またイギリスが、あのセリフを言う。
「きみは、気にしなさすぎる」
気にするだけ無駄でしょ。
そんなこと気にしている暇があったら、やり返す方法を考える方がずっといいわ。
それに、悪いうわさは、使えもする。悪女だといううわさがあったからこそ、聖女の力を取り込み利用しようとする貴族たちを牽制できているのだから。
まあ、でも、今回のうわさに限っては、利用するよりも早く収まってくれるほうが良いかもね。
フランスは、アミアンとイギリスに向かって、大丈夫よというように手をふって言った。
「ちょっかいを出してくる者も、いずれ、陛下が舞踏会であの宣言をして下さったら、あらわれなくなりますよ」
アミアンが心配そうな顔で言う。
「だとしても、それまでは、本当に気をつけていただかないと……。絶対におひとりにならないようにしてくださいね」
アミアンが泣きそうな顔で、イギリスに向かって言った。
「陛下もどうか、お願いします」
「わかった」
「あら、お戻りだったんですね。ダラム卿はもう来られたんですか?」
「いや、連れてこようかと思ったが、状況を説明したら二日ほど時間がほしいと言われた」
「まあ、そうなんですね。お忙しいんでしょうか」
「さあな」
フランスは、すすっとイギリスの執務机に近寄って言った。
「陛下、もう明後日には聖下に会いに行かなくちゃならないんです。なので讃美歌を」
「いやだ」
でたわね。
妙に嫌がるんだから。
フランスはご機嫌伺いするみたいに笑顔をつくって言った。
「大丈夫です、陛下。わたしも一緒に歌いますか」
「いやだ」
あらあら~。
これは。楽しみだわ。
絶対、絶対、歌ってもらわなくちゃ。
フランスがにやにやしていると、ノックの音もなしに、執務室の扉が乱暴にひらかれる。
フランスはびっくりしてそちらに目をやった。
すごい形相のアミアンがいた。
アミアンが大股でフランスに近寄り、フランスの両肩を思いっきりつかむ。
怒られる⁉
でも、何に⁉
分からないが、フランスは思わず大声で言った。
「ごめんなさいっ‼」
アミアンが、勢いをそがれたのか、『えっ?』という顔をして「何がごめんなさいなんです?」と言った。だが、すぐに、またおそろしい形相にもどして、怒りに満ちた大きな声で言う。
「一体、どこのどいつが、お嬢様のお体に触れたんです! どこを触られたんですか! 同じ場所を切り落としてきてやります!」
「アミアン、落ち着いて、そんな触られては——」
イギリスもこわい顔で言う。
「どういうことだ」
「いや、さっきちょっと——」
フランスが説明しようとすると、アミアンがいつもの三倍くらいの声量で言う。
「さっき、礼拝堂で、癒しの力を目当てといつわって来た、貴族の男たちが、お嬢様を連れ出そうとしたり、身体に触れたりしたそうです!」
フランスは大きな声で言い返した。
「触られてないったら! ちょっと手を握られただけよ!」
アミアンが打ち消すような大声で言う。
「うそです! 腰に手をまわそうとしたやつもいたと聞きました!」
シトー……。
めずらしく事細かに報告したわね。
アミアンが許せないというふうに、片手でこぶしをつくり、握りしめて言う。
「二日も連続で、シトー助祭の声を聞くなんて! もう、この世の終わりです。終わりのラッパみたいなもんですよ! 第二のラッパです!」
ちょっと意味が分からない。
アミアンったら、怒りすぎておかしくなってるわ。
「落ち着いてアミアン。腰に手をまわそうとした男は、シトーに捻り上げられて半泣きで帰っていったわ」
「半泣き? 半殺しじゃなくてですか?」
そう言ったアミアンの顔が、恐ろしいほど真剣で、笑いの欠片もなかった。
獰猛な眼つきをしている。
こわい。
これは、めちゃくちゃに怒っているわ。
フランスは、まあまあとなだめて言った。
「ほんとに大丈夫だから」
アミアンがフランスの手首をにぎって言った。
「お風呂です。いますぐ、お風呂に入りましょう。湯をわかします」
そのままフランスを引っぱって出ていこうとするアミアンを、ふんばって止める。
「まだ夕食も終わってないじゃない! あとで入るわよ」
イギリスが横から言った。
「そういうことは、よくあるのか?」
アミアンが、いつもより大きな声量のまま答える。
「よくあることではありません! 聖女の身体に触れるなんて、今まで、そんな不埒なことをする者はいませんでした!」
「では、今回のことには何か理由があるのだろう」
イギリスの言葉に、アミアンが急に元気をなくした様子になる。
あら……。
これは、たぶんまた、何かひどいうわさが出回っているんだわ。
「アミアン、大丈夫だから言って。ひどいうわさなの?」
アミアンが言いにくそうにして、しばらくためらったあと、ようやっと声量を小さく落として言った。
「聖女フランスは……」
それだけ言って、言いよどんだアミアンに、フランスは視線で先をうながす。しばらくして、ようやっと彼女は言った。
「何人も教会に男を連れ込んでいて、すぐに、おとこに身体を触れさせる。と」
ははあ。
なるほどね。
もう、シトーからはじまったなら、陛下で三人目だものね。
フランスはへらっと笑って言った。
「もう三人も連れ込んでいることになっているもの。まあ、しょうがないんじゃない」
イギリスが、フランスの気にしない素振りを見て、あきれるようにして言った。
「もうすこし危機感を持て」
「危機感は持っていますよ。でも、うわさが立ってしまったものはしょうがないじゃないですか」
またイギリスが、あのセリフを言う。
「きみは、気にしなさすぎる」
気にするだけ無駄でしょ。
そんなこと気にしている暇があったら、やり返す方法を考える方がずっといいわ。
それに、悪いうわさは、使えもする。悪女だといううわさがあったからこそ、聖女の力を取り込み利用しようとする貴族たちを牽制できているのだから。
まあ、でも、今回のうわさに限っては、利用するよりも早く収まってくれるほうが良いかもね。
フランスは、アミアンとイギリスに向かって、大丈夫よというように手をふって言った。
「ちょっかいを出してくる者も、いずれ、陛下が舞踏会であの宣言をして下さったら、あらわれなくなりますよ」
アミアンが心配そうな顔で言う。
「だとしても、それまでは、本当に気をつけていただかないと……。絶対におひとりにならないようにしてくださいね」
アミアンが泣きそうな顔で、イギリスに向かって言った。
「陛下もどうか、お願いします」
「わかった」
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